重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.6 1995.10(平成7年)

50音ひらがなキーボード用ソフト開発に挑む!
障害のある方の在宅勤務実施企業 インタビュー2
私、在宅勤務しています!
「企業のニーズ調査結果」と「アプリケーションコース来年度の取り組み」
ONE・STEP企画のコーナー
平成7年春期 情報処理2種合格!!

50音ひらがなキーボード用ソフト開発に挑む!!
 
テクノツール有限会社  島田  努

 当社は、福祉機器の開発・製造・販売を目的に昨年末に設立しました。 特にパソコンを主体としたコミュニケーション関連機器の開発を重点的に行っています。

 初回の開発品として、”50音ひらがなキーボード”にすることが決まり、ソフト開発を外注することにしました。 会社設立の主旨の一つに、障害者雇用には積極的に関っていきたいと思いましたが、設立後間もないので雇用までは無理でした。 そこで、バックアップ体制が整っているONE・STEP企画さんに依頼すべくトーコロさんを尋ねたところ、こちらの主旨に賛同していただき一緒に開発を行うことにになりました。

 チーム編成は、ONE・STEP企画(ソフト開発担当(本間))、トーコロ(ONE・STEP企画支援担当(小川))、当社(ソフト開発統括(加藤))です。 開発担当の本間さんは在宅で作業をしているので、日常のコミュニケーションは、パソコン通信”トーコロBBS”を使いましたが、開発中のソフトも送れるのでパソコン通信は便利でした。 この他、週に1度は担当者が集まり打ち合わせを行いました。 最後のデバッグには、本間さんも電動車椅子で2時間もかけて当社に来てもらい全員で作業しました。

 開発品が障害者用のキーボードであったので、本間さんには使う立場から有益なアドバイスをもらうことができました。 開発したソフトはキーボードの中のワン・チップ・マイコンのための制御用ソフトで、アセンブラ言語で組まれました。 準備に1ヶ月かけた後、実際のソフト開発は3週間と言う短期間で無事完成しました。 これには、みな驚きました。

 在宅勤務をしてもらう上で重要と思われることは、仕様の変更日程の遅れ等のデメリット情報を遠慮しないで早く伝えること。 また、障害のある人には遠慮してしまいますが、かえってそれがコミュニケーションを妨げることにもなると思います。

 この開発を通じて何より嬉しかったことは、チーム全員が物を作り出す感激を味わいながら、楽しく仕事が出来たことです。 今後も開発が予定されていますので、また同じチームで仕事をしていきたいと思います。また当社の事業を続ける中で、我々のネットワークがどんどん広がり、障害者の方達が社会の輪に参加する機会が増えることを願っています。


障害のある方の在宅勤務実施企業
インタビュー2

 今回は、総合商社として堅実な躍進を続ける兼松株式会社様にお邪魔して、10年以上続いている在宅勤務の成功の秘訣を伺ってきました。 東京湾が一望できる広々としたオフィスで私を待っていて下さったのは、人事部健康推進課の宮澤聡一様でした。

兼松株式会社 会社概要 
創     業/1889年 資 本 金/41,01700万円
従業員数/2,682人 本社所在地/東京都
業務内容/総合商社  

Q :現在どのような方が、どういった内容の在宅勤務をなさっているのでしょう
A :
東京本社では、男性1名女性2名を採用しています。 仕事内容は、社員健康管理に関するデータベースの構築や、営業から依頼される業務上のデータを文書化することが中心です。

Q :採用はどのような形で行われるのですか
A :
職安からの紹介一般公募が通常のパターンです。 東京本社勤務の女性の一人は、大学新卒者の障害者雇用説明会で「在宅勤務」という形で採用しました。

Q :勤務者の方は入社以前からパソコンのスキルがあったのでしょうか
A :
基礎は持っていましたが、仕事で必要となる知識はほとんど入社後の学習によるものです。 データベースの構築等は、単なるデータ入力でなく、かなりセンスを必要としますので、相当勉強したのではないでしょうか。 当社の教育方針は一言で言うと、どこに行っても通用する人間を育成することにあります。 在宅勤務者ももちろんその対象の一人ですから、社内の開発担当や在宅勤務の先輩からアドバイスを受けたり、外部機関の研修を受けさせたりしております。

Q :在宅勤務者への仕事量が非常に多い場合や、その逆といった依頼のムラが発生することはないのでしょうか
A :
仕事の調節をしたり、受け渡しの窓口になる担当者を1名おいています。 仕事量はその担当者が勤務者の体調や現在かかえている仕事の質量期限などを考え合わせて、その都度調節します。 営業から急ぎの仕事が大量に発生する場合も必ずこの担当者を通してもらい、調整が行われます。 仕事量が少ない場合には、何か仕事がないかと社内に呼びかけ、作り出す場合もあります。

Q :在宅勤務には精神的なストレスや孤独感が伴いがちといわれますが、そのあたりはいかがでしょうか
A :
月に1度在宅勤務者に本社に出社してもらい、情報交換や抱えている様々な問題を話し合うようにしております。 また、日々打ち合わせなどのコミュニケーションがありますので、孤独感という気持ちは少ないのではないでしょうか。

Q :10年以上この雇用形態がうまく存続している要因は何だとお考えですか
A :
そうですね、第一に当社が昭和30年代頃から電子部門の事業展開を始めたこと、つまりコンピュータに早くから興味があったということは、在宅勤務への下地になっているのではないでしょうか。 第二に、どちらかというと人間の触れあいを大事にするといった文化があり、障害を持つということを特別なことと捉えない考え方が影響しているのかもしれません。 もともと社員だった方が事故に遭い、在宅勤務を始めたのがこの形態のはじめなのですが、常勤の形でも多くの障害を持った方が勤務しています。 皆優秀できっちり仕事をこなしております。 ある日事故などで突然障害を持つということは誰にでもありうることですから、障害のある無しだけを問題にすることは意味がないと考えております。

Q :今後の在宅勤務への展望をお聞かせ下さい
A :
今後はより双方向のやりとりを柔軟にできるよう通信システムをアップし、マシンももっと性能の高いものを渡せればと考えます。 また、当人達は望まないかもしれませんが、TV電話のように画像で勤務者を確認できれば、健康面などがわかっていいですね。

Q :社会資源として今後必要なものは何でしょう
A :
障害者の方用の住宅整備を望みます。 通勤の意志がある方は出来る限り通えるよう安全なアクセス方法を確保すべきです。 また、助成金などはもう少し手続きが容易になるといいですね。


   とらの直撃インタビュー《Part 4》
私、在宅勤務しています!
村上 友紀恵(20才) 脊髄疾患1種1級

 村上さん(車イス使用)は、当センターで行う東京都重度身体障害者在宅パソコン講習事業の第11期生です。 今年3月に2年間の講習を修了し、東池袋にある食品調味料の開発製造・販売を行う明王物産株式会社に入社しました。

 今回は、村上さんの自宅を訪問し、在宅勤務の様子を伺いました。


Q :村上さんは完全在宅勤務とのことですが、どのような形で仕事をされていますか?
村上:
正社員で、雇用保険と厚生年金にも加入しています。給与は月給制です。 通院や体調にあわせて仕事をしていいと言って下さるので、とても助かっています。 でも、仕事がたまってしまった時は、土日関係なく仕事をします。

Q :業務内容は?
村上:
「ワープロによる事務」ということで、客先の会社に商品と一緒に出す成分規格書作成新聞記事のピックアップが主な仕事です。 成分規格書は決められたフォーマットに手書きで記入されたものがFAXされてきますから、それをワープロ入力して郵送します。 これまで作成した規格書を新しいフォーマットに作り替える作業もあります。
新聞は専門紙の日本食糧新聞(隔日発行)と食品化学新聞(週1発行)から記事を選んで編集し、グラフなどはスキャナで読み込んで取り込みます。 1週間分十数ページに表紙をつけて会社に郵送しますが、会社では、これをコピーしてお客様にも配布しているとのことです。

Q :けっこう入力量が多いたいへんな作業だと思いますが...。
村上:
はい。初めは新聞記事も全部入力していたのですが、日本食糧新聞については、パソコン通信局NIFTY-Serveにあることがわかったので取り出して編集しています。

Q :ご自分で効率的な作業方法を工夫されていますね。
    ところで、会社に出勤したり、会社の方が訪問されることは?
村上:
出勤は定期的に決まっていませんが、会社まで車で15分のところですから、パソコンの調子が悪い時など母の運転でこれまでに数回出社しました。 また、上司が打ち合わせやパソコン類の取り付けでこれまで4〜5回訪問してくれました。

Q :ずいぶんパソコン周りの機器がそろっていますね。
村上:
全部会社で用意してくれました。 パソコン、ハードディスク、モデム、プリンタ、FAX、スキャナ、机、電話回線です。 その他、文房具、消耗品や送料も全て会社負担です。 マウスを動かすのが少しやりにくいので以前からトラックボールを使用しています。

Q :将来に向けての豊富は?
村上:
より高速なモデムで通信を利用した作業を効率化したり、多機能なソフトやカラー印刷でもっと見やすい提出物を作成できるようになりたいです。
★  ☆  ★

 夏に広島の実家に帰省する時も仕事持参だったとのこと、まじめな仕事ぶりから「会社の期待に応えたい」という村上さんの姿勢が伺えました。

 今は仕事最優先の生活で、以前から続けている英語の勉強や趣味の手芸をする時間はなかなかないとのことでしたが、自作の可愛い手芸作品が仕事部屋のパソコン機器に「花」を添えていました。

 がんばり屋の村上さん、これからも体調に気をつけて頑張ってください!

(加藤)


「企業のニーズ調査結果」と
「アプリケーションコース来年度の取り組み」

前号で「障害者の在宅雇用(情報処理・OA関連業務)を可能にするための企業のニーズ調査」と題して企業の皆様にアンケートをお願いしました。
その節は、お忙しい中ご協力を賜り誠にありがとうございました。

 在宅勤務者に対して、従来以上に高度な知識や利用技術が求められていることを、調査結果から改めて痛感しています(図1)(この結果については今後の本誌にて掲載予定)。

 この調査結果を踏まえ、在宅講習の内容をより企業のニーズに沿ったものにしていくべく、現在以下のような項目を2年目のアプリケーションコース内容として検討しています。

在宅講習2年目コース
 ・システムアドミニストレータ資格取得のための学習
 ・ネットワーク関連知識 
 ・コンテンツ作成等のマルチメディア基礎知識
 ・ACCESS等を使ったデータベース構築
 ・表計算、ワープロ、DTP等々の使いこなし

トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 身障者向けのパソコン通信講座 

 ONE・STEP企画は、毎年夏に身障者向けのパソコン通信講座を企画していました。 今年度は、朝日新聞東京厚生文化事業団が主催で、NECが協賛で、ONE・STEP企画が協力という形で10月・11月の第4土日の計4回、NECのパソコン教室をお借りして、行なわれることになりました。

 今回は、講座が開催される時期を考えて、手軽に年賀状を作れるソフト「はがき屋さん for Windows 2」を使うことに決めました。 パソコンで年賀状を作り、出来あがった作品をお土産として受講者に持って帰ってもらうことにしました。(講座で使用するソフト9本分は、(株)ハドソン様が無償で提供して下さいました。 この場をお借りしてお礼を申し上げます)

 受講の皆さんが、「パソコンって楽しいんだ!」、「今年の年賀状はパソコンとカラー印刷で」など、いろんなことを感じ取ってくれることを期待して、今、準備をしているところです。

ONE・STEP企画 代表 吉川誠一



平成7年度春期 情報処理2種合格!

 H.K さん 21才

在宅パソコン講習生13期生
脳性小児麻痺1種1級

おめでとうございます!



編 集 後 記

 「特別なことはなんにもしていないんですよ」と雑誌に連載されている障害者を雇用しているどの企業の方も話しているのが心に残りました。 おそらく、障害者にあった仕事を探したり気配りもしているのでしょうが、それを特別なことと思っておられないのでしょう。 当たり前のこととして、気負わず、ありのままを自然に受け入れるそんな気持ちが大切なのかも知れない…と、ちょっぴり冷たくなった秋風を頬にうけながら帰り道の自転車のペダルを踏みました。

(で)    


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