重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.7 1996.2(平成8年)

インターネットでの情報発信について
障害のある方の在宅勤務実施企業 インタビュー3
在宅での養護学校向けソフト開発無事終わる!
平成8年度東京都重度身障者在宅パソコン講習生決まる!
ONE・STEP企画のコーナー
平成7年秋期 情報処理システムアドミニストレータ合格!

インターネットでの情報発信について
私ども東京コロニーでは、昨年秋インターネット上にホームページを出し、情報を発信することとなりました。
利用の経緯
 
 在宅就労については、このところの通信インフラの発達などにより飛躍的に新しいアイデアや取り組みが増えてきました。 こうした情報をできるだけリアルタイムに集めたい、それもできれば、草の根の軽いフットワークで、縛られることのない情報を交換したいと考え、インターネットの利用を思いつきました。

 このことのためには、まず我々の取り組みを皆様に知っていただくとともに理解していただき、情報を一元化できるよう何かを発信しなければとホームページを作成することにしたものです。

今後の活用
 
 まず、上述いたしましたホームページですが、我々東京コロニーについての情報を流すだけでなく、障害のある方が働いていくために必要な社会資源等の公的な情報や元気になれるような民間情報などをタイムリーに取り込み、他の関係機関のページとのリンクを積極的に行っていく予定です(この「トライアングル」もホームページ上で読めるようになります)。

 また、我々の業務のひとつである「東京都重度障害者在宅パソコン講習事業」でもインターネットの活用を考案しています。 従来のテキストによる机上の学習だけでなく、受講生が独自の視点を持って積極的に学習に臨むために、インターネットでの活きた情報の散策はもちろんメーリングリストなどの活用で、知識を得るとともに自ら発言していくという力も養っていけるものと考えています。

 ホームページの場所(URL)はhttp://www.bekkoame.or.jp/~tocoloです。

 まだまだ構築中なのですが、よろしければ一度のぞいて見て下さい。
忌憚のないご意見、ご要望、ご指導をいただければ幸いです。

(堀込)

障害のある方の在宅勤務実施企業
インタビュー3

 今回は、総合商社日製産業の特例子会社である、日製サービス様をお訪ねし、サービス部部長の上原様および副部長の青木様からお話しをうかがいました。

 日製サービス様は日製産業の福利厚生部門が独立した会社であり、日製産業の保養所や施設、社宅等を管理しています。 特例子会社ということで、従業員の30%は障害のある方で構成されていますが、オフィスは日製産業と同じフロアにあり、広く伸び伸びとしたスペースが印象的でした。


日製サービス株式会社

概   要
創   業/1987年
資 本 金/5,000万円
従業員数/80人(うち24人が障害がある)
業務内容/親会社である日製産業株式会社の福利厚生部門

Q :在宅勤務をなさっている方のプロフィールとお始めになった経緯をお聞かせ下さい
A :
6年前に入社した54才の男性ですが、病気の進行のため上肢下肢とも弱くなり、歩行が難しくなってしまいました(身体障害者手帳2級)。 片道3時間かけての通勤となってしまったうえ、会社でもつまづいてころんでしまうことなども多く、半年前から危険を感じて会社側から在宅勤務を本人に薦めました。

Q :その移行はスムーズに行われたのでしょうか

A :
いえ、いろいろと問題はありました。 まず、当社として初めての在宅勤務のケースでしたので、当初本人の方がとまどい、給与や、会社での自分の評価に不安を覚えたようです。 この時は、本人が信頼している社外の方に相談し、一緒に話をしていただき、また私どもが自ら本人の業務管理の担当者となることで安心し納得してくれました。

在宅勤務が決まってからも問題はあり、自宅で何をやってもらうか…ということが明確ではありませんでした。 以前通勤していた時は社内出勤データや領収書などの伝票整理をやっていたのですが、これらは社外持ち出し禁止です。 パソコンができれば色々と自宅でできることがあるのですが、勉強してもらおうと考えていた矢先に病状の方が進行してしまいましたので……。 現在は、福利厚生施設の利用者のデータ分析を自分のペースでやってもらっていますが、その後の業務などを考えると、新たな職域開発が急務です。


Q :今後在宅勤務を始ようと考えている企業へのアドバイスや、
    行政に望むことなどありましたらお願いいたします。
A :
先ほどもお話ししましたが、今後在宅勤務という制度を確立し継続していくためには、やはりパソコンを利用できることは必至でしょう。 裁量性の高い仕事ができることはもちろん、仕事の受け渡しや業務報告にも活かせます。

現在はウイークリーで勤務状況を郵送で提出してもらい、仕事の受け渡しは月2回程度私どもが出向いていきます。 フェーストフェースの部分は維持したいですが、パソコン通信など利用すればめんどうな手作業が省け、もっと細かい情報交換が行えるでしょう。

行政への希望ということでは、在宅勤務という制度をより利用しやすいように規則を変えていただきたいですね。 職安に申請に行った際、在宅勤務の認可条件があまりにも間口が狭いので驚きました(注)。 まだまだ始めたばかりですが、在宅勤務は障害を持つ方の社会参加にかかせない勤務の形だと思っていますので、今後も持続させていこうと考えています。


(注):在宅勤務者が雇用保険や身体障害者雇用率制度等の適応を受けようとする場合には、次の要件を満たす必要があります。

  1. 業務が研究開発その他の業務であって、当該業務の性質上その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるもの.
    具体的には次のいずれかに該当する業務であること.
    イ.新商品新技術の研究開発 
    ロ.情報処理システムの分析又は設計 
    ハ.記事の取材または編集の業務 
    ニ.デザイナーの業務
  2. 指揮監督系統が明確であるもの
  3. 事業所に勤務する他の労働者と同一の就業規則が適応される(在宅勤務者に対する特別就業規則が適用される場合を含む)
  4. 拘束時間が明確であること
  5. 始業・終業時刻等の勤務実績が、事業主によって把握されていること
  6. 報酬は勤務した期間又は時間をもとに算定される部分があること
  7. 請負、委任的色彩が存在しないこと
    イ.機器、材料、貸借、保守整備、通信費用など事業主により負担されること 
    ロ.他の事業主の業務に従事することが禁止されていること

★   ☆   ★

 障害のある方を雇用されている事業所では、障害の進行や2次障害で通勤できなくなる方が増えています。 このような際、鍵となるのが在宅勤務に移行することが可能か否かでしょう。

 日製サービス様の、初めてのケースに戸惑いながらも一つ一つハードルをクリアしていかれるその真摯な姿勢は、今後の障害者雇用の一つの試金石になるのではないかと感じました。

(堀込)

在宅での養護学校向けソフト開発
無事終わる!

 ONE・STEP企画では、昨年の6月から東京都の肢体不自由児の養護学校13校の生徒さんが使うソフトの開発に取り組んできました。

 プロジェクトチームは開発メンバ3名、技術アドバイザー1名とプロジェクトマネージャーという構成でスタートを切りました。 ほとんど在宅で開発を行いましたが、様々な問題を抱えながらも2月中旬に無事納品することができました。

[小川]

 最初、養護学校ソフト開発の話を聞いた時はとても不安でした。 なぜならトーコロの在宅講習で2年間プログラミングの知識や技術を学んだとは言え、私自身仕事としてプログラム開発をするのは初めてのことでした。 また、『養護学校の生徒さんのための教育目的のソフト』ということは分かっていても、生徒さんは障害が多岐にわたっているため、どこにターゲットを絞り開発していけばよいのか的を絞ることが極めて困難だったため開発する仕様がはっきり決まっていなかったからです。 それでも、やる気だけは人一倍ありました。

 先生方との打ち合わせ会議がだいたい月1回のペースであり、その場で開発していったソフトの試作品を見て頂きました。 こちらからアイデアを出し、試作品を作って、それを評価し検討するという方法で進めていきました。 試行錯誤を繰り返し、何回目かの打ち合わせの後、9月の末の打ち合わせ会議で先生方の欲しいソフトの要望もまとまり、あとはゴール(納期)を目指して、その要望を満たせるようなソフトを必死になって開発していきました。 そして、 11月の打ち合わせ会議でそれらを先生方に見て頂いたところ、今度はあちらこちらの先生方から「これはいい!」という評価を頂きました。 この時は、本当にソフトを作って良かったという満足感で一杯でした。 結局、ONE・STEP企画として計7本のソフトが完成しました。

 今回のソフト開発の仕事は、ほとんど在宅で行ったという点もとても大きかったと思います。 打ち合わせや質問のやりとりや検討、そして試作版のソフトを評価してもらうためにパソコン通信をフルに使いました。 まだまだ今の日本では、在宅で働くのは難しいと考える人が多いのですが、今回、ソフト開発の仕事を在宅で行ってみて、本人のやる気と計画性さえしっかりしていれば、決して不可能な事ではないと実感しました。 勿論チーム間でのコミニュケーションも必要であることは言うまでもありません。

  これからも、在宅でいろいろなソフト開発の仕事をし、実績を積み上げていきたいと思います。 そして、私のように通勤が困難な人でも働いていけるような社会に一歩でも近づけるよう私自身頑張っていきたいと思います。

開発担当:11期生 中島徹治 頚椎損傷 1種1級

平成8年度 東京都重度身体障害者
在宅パソコン講習生決まる!

 平成8年4月から第14期在宅パソコン講習が始まるにあたり、新講習生の募集を行いました。 23名の身体に重度な障害のある方から応募がありました。

 5名の講習生を決定するため、一次選考のための適性試験を1月17日に、二次選考のための面接を1月31日に行いました。 どなたもこの講習が必要であることがひしひしと伝わってきますが、全ての方の希望に応えられないことに胸が痛むと同時に、希望に沿った講習を講習生とともに築き上げていかなければと言う思いが交錯し身が引き締まる思いがします。

 また昨年同様、三菱商事株式会社の社員の方々が適性試験の介助ボランティアとして手伝って下さいました。 紙面をお借りして心からお礼申し上げます。


トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー

手が不自由で、既存のマウスが使いにくい方に
ONE・STEP企画が『らくらくマウス』を販売!


 Windows95の話題で盛り上がるなか、パソコンの入力機器であるマウスは、キー操作の負担を低減する働きを持っています。

 しかし、手の不自由な人にとって、マウスの操作は難しく、かえって負担になっています。

 そこで、ONE・STEP企画では、このような方のために『らくらくマウス』の販売を始めることにしました。

 制作は、当会員の田中さんが会長を務める、ボランティアグループ『ネットワーク杉並ここと』の電子工作が得意な会員の方々です。

 『らくらくマウス』の主な特徴は、

  [1] 方向指示は大きなボタンで操作
  [2] マウスの左/右ボタンにあたるボタンは大きく押しやすい
対応機種
NEC PC−98シリーズ、互換機

販売価格
16,000円(送料別途)

  [3] スイッチ一つでドラッグ状態
  [4] マウスカーソルの移動スピードコントロール付
  [5] パソコンのマウスコネクタに接続するだけ!

★注文問合わせ先:トーコロ情報処理センター(加藤)

ONE・STEP企画 会計 平野 貴史

平成7年度秋期情報処理
システムアドミニストレータ


合格おめでとうございます!


I.T さん  在宅パソコン講習生11期生 22才 疾患1種1級

H.K さん  在宅パソコン講習生13期生 21才 脳性小児麻痺1種1級



編 集 後 記

 当センターでは、昨年度より日本障害者雇用促進協会から「在宅勤務方式による重度身体障害者の雇用の促進に関する調査研究」を受託しております。

 今年度は、アンケートで発見された24社の在宅勤務事例をできるだけ多く「実際に見て聞こう!」ということになり、現在、北は青森から南は九州まで調査にお伺いしている真っ最中です。 2月の末には調査を終える予定です。

 この調査から「在宅勤務を実現するには?」のヒントがいくつか見えてきそうな気配が………。     

(る)    


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