重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.8 1996.6(平成8年)

ノーマネット(障害者情報ネットワーク)のご案内
私、在宅勤務しています!
平成8年度 在宅パソコン講習、順調な船出!
ONE・STEP企画のコーナー

ノーマネット(障害者情報ネットワーク)
のご案内

 ノーマネットは、このたび厚生省がスタートさせる障害者の方の社会参加促進を目的とした、利用者参加型パソコン通信ネットワークです。 (事務局は日本障害者リハビリテーション協会に置かれ、正式なスタートは秋)

 障害者の方の利用を配慮した「利用者端末ソフト」が用意されており、初心者の方でも簡単に参加できるということです。 我々、東京コロニーも情報提供団体として参加させていただきます。

 この中では東京コロニーの各事業所からのイベント情報や、当法人の関連会社トラベルネットの旅行企画情報なども提供していく予定です。 利用できる情報の例としては、以下のようなものがあります。


・福祉行政関連情報 ・災害時対策情報 ・障害者団体情報
・福祉機器情報 ・ボランティア情報 ・催しものなどの情報
・保健、医療情報 ・生活情報

 大手商用パソコンからの利用になりますので、それへの加入が必要となり、利用する際の課金は、そのネットの利用料と市内通話料になります(商用ネットのアクセスポイントからの電話料になります。

 現在予定しているパソコンネットは、PC-VAN、Peple、NIFTY- Serve

 詳細のお問い合わせは以下へ。



  お問い合わせ  

財団法人 日本障害者リハビリテーション協会情報センター

 〒162 東京都新宿区戸山1-22-1 (戸山サンライズ内)

             TEL :03-5273-1831
             FAX :03-5273-1832


   とらの直撃インタビュー《Part 5》
私、在宅勤務しています!
凸版印刷株式会社 池田剣志郎氏

 今回は、凸版印刷株式会社の総合研究所(埼玉県北葛飾郡杉戸町)に勤務されている池田剣志郎さんの在宅勤務のようすを取材させていただきました。

 池田さんは、今年26才。脊髄性横断マヒによる全身不随1種1級の障害があります。

 1992年4月大卒新規採用で凸版印刷に入社、現在は総合研究所の中の生産技術センターCAE(Computer Aided Engineering)グループで仕事をされています。


Q :在宅でのお仕事はどのような内容になりますか?
A :
PET等のプラスチックボトルを成型 (製造)する工程は、試行錯誤的に決定する要素が多いので、それをコンピューターで予測し支援するためのシミュレーションシステムを開発しています。 自宅にワークステーションを設置し、職場とはネットワークでつながっていますので、開発環境は在宅でも殆ど同じです。

Q :高度な技術を要するお仕事のようですが、ご自身で希望された仕事内容ですか?
A :
もともとコンピュータには興味があり、その関係の仕事を希望していましたが、現在やっているシミュレーション関連の理論や技術は殆ど知識がなく、入社後に勉強しました。 プログラミング自体は自己流ではありますが、学生時代に一般的な言語を一通りマスターしていたので、自信がありました。

Q :池田さんの就職活動についてお伺いさせて下さい。
A :
大学4年の6月に障害を持つ人の新卒就職相談会に参加したのですが、「在宅勤務」を希望している旨を伝えましたところ、あと4〜5年すれば可能性も出てくるが現段階では非常にむずかしいという職安の担当者のお話でした。

実際、「SE」を希望職種として20社程ハガキを出しましたが、「在宅勤務」がネックで殆ど良い回答は得られませんでした。 「在宅勤務」が可能だった所でも、内容は、いわゆる「プログラマー」であり、「SE」とは異なるものでした。

 その後、大学の紹介で凸版印刷の面接等を受け、在宅勤務での採用が決まりました。


Q :主に在宅勤務ということですが、出社される日は決まっていますか?
A :
なるべく、出社しなくても良いように電子メールを活用する等、上司や先輩方の配慮によって、特に出社日は決まっていません。 会議や調べ物等、必要に応じて現在週2日程度出社しております。 (池田さんは、お母様の運転する車で出社されています。)

Q :研究所までかなりの距離ですね...。
A :
距離としては50km程なのですが、渋滞箇所が多く、2時間はかかります。 毎日の通勤でしたら、体力的にとても無理だったと思います。

Q :在宅日はどのような時間帯で仕事をされていますか?
A :
研究所はスーパーフレックス(*)ですが、私は自宅で朝9時から夜11時頃まで勤務しますが、途中で身体を休めたり、生活時間を除くと正味8時間程度になります。

Q :将来に向けての豊富をお聞かせ下さい。
A :
この様な身体機能ですので、できれば、現在の総合研究所でのシミュレーションの仕事を続けていきたいと思っています。

 職場の上司 総合研究所生産技術センター 塚原祐輔課長

  ★ 入社時から現在まで、ずっと池田さんの上司である塚原課長にお話を伺いました。

「とにかく彼はものすごく優秀です!」

Q :採用の経緯などをお聞かせいただけますか
A :
新卒採用で応募があった時、本人の希望、能力が高いこと、また納期に追われることが比較的少ない(身体的な負担が少ない)ということから、研究所への配属がすぐに決まりました。
また、当社は在宅勤務という制度はありませんが、通勤に時間がかかることから在宅勤務としています。
仕事柄、在宅勤務で何ら問題がないですし、とにかく彼はものすごく優秀ですから、いい仕事をしてくれています。

Q :池田さんの勤務形態について、どのようにお考えですか?
A :
研究所はスーパーフレックス制度を採用していますから、1日1時間出社すればよいわけで、在宅の場合も何時間勤務しなければならないといったことはありません。
出社についても特に決めていませんが、平均すると週に1回以上は会議や顔合わせのために出社しているようです。
なるべく来なくてすむ方が理想的だと思うし、ネットワークが発達していますから仕事も完全在宅で充分に可能です。
でも、彼自身もたまには出社して皆と顔を会わせたい思いもあるでしょうし、月初朝礼(朝9時から)や所内発表会にも積極的に出ているようです。

Q :在宅勤務については、仕事に対する評価方法がむずかしいというお話を耳にすることがありますが、その点はいかがでしょうか。
A :
研究所全体がスーパーフレックス制度の導入で、すべて成果で仕事の評価をしています。
ですから、在宅勤務の彼の場合も同様です。
入力などのスピードの問題は能力でカバーしているのか全くハンデを感じませんね。


Q :在宅での業務報告や連絡などは、どのような方法をとられていますか?

A :
全ての連絡はインターネットメイルで行っています。
電話もほとんど使いません。
まとまった報告は、週1回、週報の形で提出してもらっています。

  

*)凸版印刷様のスーパーフレックス
一日に実働1時間以上の勤務を行うことが決められているが、コア時間はない。

★   ☆   ★

 池田さんは、「養護学校の中でも重い方だった」とご自身が話されるように、上下肢に重い障害がおありです。 しかし、池田さんは、筑波大学付属桐ヶ丘養護学校の小学校6年の時の先生から「大勢の中でもまれて社会性を身につけた方が良い」と勧められ、中学2年から地元の区立中学に転校されたそうです。 その後、都立高校から筑波大学に進学し数学を専攻されました。

 池田さんが、一企業の中でこれだけ戦力となって仕事をされていることの背景にあるものは、非常に優秀な頭脳の持ち主であるということは勿論ですが、池田さんが、仕事に対して、又職場の方とのコミュニケーションに対して常に積極的な姿勢を持っておられることを感じました。 加えて、「大勢の中でもまれて」培われた人間性、社会性も持ち併せていらっしゃる...という印象も受けました。

 制度を超えて「在宅勤務」を受け入れられた凸版印刷様がこのような「優れた人材」を得られたことを多くの企業の方にお知らせしたい!

 今後とも池田さんのご活躍を心からお祈りいたします。

(加藤)

平成8年度在宅パソコン講習生、順調な船出!
 平成8年度の在宅講習も早いもので、2ヶ月が過ぎました。

 14期生(1年生)5名もオリエンテーション(4/3)の翌日から講習に突入。 10冊を超えるテキストの山に恐れと不安を抱いてのスタートでしたが、2ヶ月を過ぎた今、予定通り順調に進んでいます。 初めて直面する専門用語とその多さ、忘れていた2進数や容量計算など頭をフル回転させて奮闘しています。

 13期生(2年生)5名は、プログラマーコース3名とアプリコース2名に分かれそれぞれにより専門的な知識の修得に日夜がんばっています。 アプリコースは昨年のアンケート「企業のニーズ調査」結果を参考にカリキュラムを大幅に見直し、Word、Excel、Access、インターネット利用技術等を修得する内容にしました。 また、プログラマーコースもCに加えてVBの修得も取り入れての盛りだくさんの内容となっており、修了後の進路に役立つようにとできるだけ実践的な内容にしています。

 めまぐるしく技術革新するコンピュータの教育は、なかなかどうして大変です。 講師も現在進行中の技術を取り入れるようにと、固くなりはじめた脳に叱咤激励しながら講習生と同じように奮闘中です。


トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 最近の活動から「報告」 

ホームページ作成の講習会
 巷ではInternetが流行っておりますが、ホームページはどのようにして作られているか、仕事のチャンスがあった時の準備のために、3月21日に講習会を開催しました。

 トーコロ情報処理センターの堀込さん(職能開発係)が講師として、ONE・STEP企画からは5名が受講しました。

 
『らくらくマウス』の販売開始
 前回、取り上げました『らくらくマウス』は、肢体不自由児養護学校の開発ソフト(ONE・STEP企画が開発)の発表会(4月23日)で、学校関係者にパンフレットを配布しました。 BBSやパンフレットで当製品のPR活動を行なっています。

 自宅で試用していただける有料サービスを実施しており、『自宅で製品を試せるパソコン周辺福祉機器は少なく、良い試みだ』と関係者からお話をいただきました。

 
港区パソコン通信講習会
  6月17,18,20,21日に港区三田にある障害者福祉会館にて、身障者向けのパソコン通信講習会を開催しました。Windows95とPC-VANナビゲーターを使い、4日間、20人の受講生が参加されました。

主催:東京都障害者福祉会館,
協力:日本障害者協議会 ネットワーク通信小委員会,トーコロ情報処理センター,ONE・STEP企画
協賛:NEC

ONE・STEP企画 代表 吉川誠一


編 集 後 記

 先日、重度の視覚障害のある友人が数年の浪人後、某省の外郭団体にやっと就職いたしました。しかし、現実はなかなか厳しい。 初めての障害者枠雇用ということで、同僚も接し方や仕事の与えかたにとまどい、友人自身も同じ障害のある仲間の中で訓練を受けることに慣れきっていたので、大海の中に一人投じられたような気分に・・・。

 障害のある人の雇用定着率の低さについては様々な要因分析がされていますが、今までまったく社会とつながりのなかった人が、何もかも初めての環境にハンディを持って飛び込むのは大変なこと。 米国で行われているような援助付就労のシステムを、我が国でも本格的なものとして制度化してはどうでしょう(現在は、職業センターにて同種のサポートがあるが、非常勤職員によるものであり、ケースも限られている)。

(M)    


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