重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.16 1999.2(平成11年)

有料職業紹介事業の許可おりる!
障害のある方の在宅で初めての仕事 レポート
SOHO支援の高まる気運を活用しましょう!
今年もやります! パソコンボランティア・カンファレンス'99
ONE・STEP企画のコーナー
平成11年度 東京都重度身障者在宅パソコン講習生決定!
おめでとう!(勤務決定,初級システムアドミニストレータ試験合格)

有料職業紹介事業の許可おりる!
 かねてより申請手続きをすすめておりました有料職業紹介事業について、平成11年1月1日付で労働大臣の許可がおりました。 このほど(1月21日)、新宿職業安定所にて許可証が授与されましたので、この紙面でまずご報告させていただきます。

 平成9年4月、ホワイトカラーの職業紹介が解禁になったことを受け、当法人は主に障害のある方を対象とした職業紹介事業の許可を得るため、その手続きを開始いたしました。 背景としては、かねてから実施しておりました「重度身体障害者在宅パソコン講習事業」(都の補助事業)の講習生への就労支援をとおして、いくつかの在宅就労の実績が生まれつつあったことや、講習生以外の方からの在宅雇用を希望する問い合わせの増加、企業側のニーズの把握などがあげられます。 また、長年にわたる授産施設や福祉工場の経営をとおして障害のある方への就労支援を行なってきた法人全体のノウハウもあわせ、「雇用されたい」人材と「雇用したい」事業主とを結ぶことにおいて、新しい可能性の拡大につながることを確信したからです。

 ところが、有料職業紹介事業の申請者として社会福祉法人という立場は我々が初めてであったということや、厚生省管轄である社会福祉法人が「有料」で職業紹介事業を行なうということの是非が問われ、許可に到達するまでいくつかのハードルがありました。 その都度、職安の窓口や都福祉局他関係機関に資料と共に説明に伺い、担当の皆様の誠意ある対応のお陰で何とか今日を迎えることができました。

 申請手続きを開始してからの2年という間にも、「在宅雇用・就労」という課題を取り巻く社会環境がかなり変化しているのを感じます。 各省庁は在宅勤務をすすめるための調査研究に取り組み、職業安定所の中には障害者の在宅雇用に関するセミナーを主催するところも見え始めました。 そういった波に呼応するように積極的に在宅勤務を制度として取り入れようとする企業も増えています。

 また一方では、新年早々の新聞記事に職業紹介事業の自由化に向けての記事が掲載されました。 これにより、さらに各方面からの本事業への参入が期待されます。

 当法人としましては、正式な事業開始を本年4月1日とし、職安をはじめ関係機関より教えを請いながら、現在準備を進めております。 まず初年度は、「仕事をしたいと願う方」と「企業」とのよい出会いを1ケースでも2ケースでも取り持つことができれば幸いと考えております。


●これまで、私共がこの事業に取り組むことを、支援・協力して下さった各団体の皆様、また、「まだ許可がおりませんか?」と期待をもって待って下さった方々や企業の皆様にこの場を借りて、深く感謝申し上げます。


障害のある方の在宅で初めての仕事
レポート

三好さんの在宅での作業様子  今回は、トーコロの在宅講習現役2年生の三好亮太さんの登場です。
 以前からMacintoshでデザインを自己流に楽しんでいた三好さんですが、「仕事」となると生まれて初めての体験。 普段の講習との違いなどを、たっぷり語っていただきます。

図書館のホームページ作りました!
三好 亮太

(頚髄損傷1種1級/在宅パソコン講習:15期生)
(アプリケーションコース)


仕事のプロフィール

 昨年の夏、初めての在宅での仕事の話をいただきました。 仕事の内容は、住民図書館というNPO団体のホームページをゼロから作るというものです。 期間は夏休みの約1ヶ月ということでした。
 
作業前の気持ち&準備

 初めての仕事ということで、いくつか不安な点がありました。 まず、納期が約1ヶ月と大変短く、私一人で間に合うのだろうか、ということ。 次に、在宅というやり方で、メールと電話だけで作業上発生する問題を本当に対処できるのだろうか、ということ。 そして最後に、私の趣味程度の微々たる技術で、満足していただけるホームページが出来るのだろうかということです。

 ところが、作業が始まってみると、それまでの不安はすぐになくなりました。 実際に仕事を始める前に、一度発注担当者の方とお会いして、私の能力や状況を前もって把握していただき、作業内容もある程度細かい部分まで詰められたことが功を奏したのです。 担当者の方がメールやブラウザを自由自在にお使いだったということも、確認作業の効率アップに大きく関わりました。 おかげで大きな問題や行き違いも無く、ほぼ順調に作業を進めることが出来ました。

 
作業の進め方

 作業は土日を除き、1日平均4〜5時間。 お互いの連絡方法は緊急時以外はメールを使い、デザインやレイアウトのチェックは、私のホームページの空きスペースを使いブラウザで発注担当者の方とともに行ないました。

 作業内容は、ゼロからホームページを作るということで、まず、大まかなページのデザインを数パターン作ってアップし、その中から担当者のイメージに合ったモノを決定しました。 次に、コンテンツごとに、事前に渡された文章や、文章のイメージに合わせて作った画像をレイアウトし、毎日作業終了後にそれをアップして担当者に細かいチェックをお願いしました。 そして、全てのコンテンツ作り終了後、担当者のサーバにファイルを移行し終了とあいなりました。

 
仕事の反省点&感想

 1か月の間には、良いアイデアが思い浮かばず早々に切上げた日もあれば、調子が良くて3・4時間多く作業をした日もあり、作業時間にバラツキが出てしまいました。 また、連絡方法にメールを頼り過ぎ、数日間連絡が途切れてしまうことや、文章の微妙なニュアンスが上手く伝わらず、小さな誤解を招くこともありました。 社会人としてのマナーを知らず、失礼な対応もしてしまったのではないかと思います。

 ページを作りこむ際も、技術不足から発注者の選択肢を狭めてしまったり、こちらからの積極的な提案が少なかったり、多くの反省点が挙げられます。 しかしながら、自分にとっては、この初仕事から実に多くの情報を得ることができました。 ホームページの知識のみならず、契約するということの意味や在宅で働くためのコツを身を持って学べたことは、2年間の机上学習の実践となりました。

 今後、目指している在宅就労に、この経験をぜひ活かさなければ!と張り切っています。

 最後に、初仕事と実践の場を提供してくださった住民図書館様には、この場を借りてお礼申し上げたいと思います。


★   ☆   ★
住民図書館の担当者 矢澤さんより

 三好さんはデザインワークが非常にお得意で、拙い説明からうまくイメージをとらえてくださり、 本当に素敵なホームページができました。 お会いしたのは1回だけですが、一緒に試行錯誤しながら仕事をしたことで信頼関係ができたと思います。 ホームページのおかげで確実に来館者が増えており、スタッフ一同とても喜んでいます。

SOHO支援の高まる気運を活用しましょう!
(SOHO : Small Office Home Office)

 巷に流れる「SOHO」の文字。 今年の在宅パソコン講習を受験された方々の作文にも、少なからずこの言葉が出てきていたように思います。 「SOHO」の定義を「自宅または小規模オフィスを仕事場とする自営業者」と捉えると、従来からある小規模・零細の自営業者と何ら変わりませんが、実際は組織に頼らず、デジタルネットワークを活用し、個別に顧客や業者とコミュニケーションをとりながら仕事を進めようとする自分流のワークスタイルなんだと考えられます。 そして、テレワーク、在宅ワークはその一般的な作業形態の一つとして、捉えることができるのではないでしょうか。

 さて、定義はともかくこうした働き方が現代社会のある種の流れにマッチし、種々の支援策、サービスが増えてきています。 99年度政府予算交渉で、労働省が1兆円、通産省が5,000億円、郵政省が1,000億、それぞれ従来になかったSOHO関連支援案で、来年度予算要求をしているそうです。
(支援内容は、草の根ベンチャー支援、SOHO創業対策、人件費補助、デジタル通信環境整備等)
(参考:SOHO GUILDのホームページより)

 また、民間のサービスにも続々と興味深いものが出てきています。 SOHOワーカーやモバイルワーカーのための一時的に利用できるレンタルオフィスや、カラーコピー、プリンタなど最新のデジタル機器の準備施設などもその一つです。 例えば、三鷹のSOHOパイロットオフィスは利用登録カード発行実費+格安の利用料で会議室やコピー、パソコンなどが利用できます(現在実証実験中)。
http://www.parkcity.ne.jp/~matikou/_html/sohocity/index.html
クライアントさんとの打ち合わせや勉強会など、自宅ではちょっとね…という時に活用できるのではないでしょうか。

 ホームページでその活動が顕著に出てきているものとしては、複数のSOHOによるバーチャルカンパニーがあげられます。 営業ノウハウや人脈を持ち独自でバリバリやるタイプの方はもとより、ネットワークによってチームの一員として能力を出すタイプの方にも適す働き方でしょう。
http://www.ysstaff.co.jp/(女性によるチームSOHO例)
http://www2.famille.ne.jp/~mutsumi/index.html(在宅ワーカー登録会社)

 上記のようなページには、SOHOのためのスキルアップのノウハウや、トラブルQ&A、ジレンマ脱出の体験談など読んで勉強になるものも少なくありません。 SOHOを応援するための非営利団体もあります。
http://www.nifty.ne.jp/forum/fjsc/index.htm(Japan SOHO Center)

Japan SOHO Centerのホームページ


 トライアングルをお読みの皆様の働き方や勉強の仕方は様々だと思いますが、時間のある時、上記のようなサイトで自分にあった情報があれば、ぜひ利用してみられてはいかがでしょう。
[堀込]

今年もやります!
パソコンボランティア・カンファレンス'99

1997年の模様[日本障害者協議会より拝借]  情報アクセスは、現代の人権です。 しかし、パソコンやインターネットはやっぱり厄介。 そのうえ障害のある人には、障害の種別や程度、環境などによっても様々な困難があります。 いま必要なのは、使いやすい機器と共に、困った時には自転車で来てくれるような個別のサポーターなのです。 日本障害者協議会では、そうした活動を「パソコンボランティア」と呼び、3年前から1年に1度の「集いのお祭り」を開催してきました。 (歴史はこちらを!)

 そして今年、再び舞台を初回と同じ東京・早大国際会議場とし、メインテーマを「情報バリアフリーの新世紀をむかえるために」と銘打って、下記の場所と日程で、2日間元気に行ないます。

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日   時:1999年3月6日(土)〜7日(日) [早稲田大学国際会議場]
主   催:日本障害者協議会(JD)
プログラムの概要:リレートーク(パソコンリサイクルの話題等)、記念シンポジウム 「情報バリアフリーの新世紀をむかえるために」、講習会、企業ブース、パソボラブースなど(詳細

皆さん、ぜひ、誘い合って、PSVC'99へおいで下さい。         [堀込]
※申込は、http://www.vcom.or.jp/project/jd/psvc99/subscription.htmlでもOK。
<事前申込締切>2月26日(金)
お問い合わせ先:日本障害者協議会「PSVC'99」係  E-mail: psvc99-info@psv.gr.jp
〒173-0037 東京都板橋区小茂根1-1-7  TEL: 03-5995-4501

トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 1999年3月 USB対応の「らくらくマウスII」新発売!! 

標準サイズとminiサイズ  昨年の夏、Windows 98の発売に合わせ、USB(Universal Serial Bus)が登場し、その後、発売されるパソコンのほとんどにUSBが採用されています。 普及も想像以上に早く、今までマウス接続の標準であったPS/2を無くし、マウスもUSBのみというパソコンも現れてきています。

 今後も「らくらくマウス」を必要とする方々にサポートを続けるには、USB版の開発が不可欠となっていました。 「らくらくマウス」の販売は、任意グループの利潤を得ない方針の活動であるため、開発面など容易ではなかったのですが、メンバーや周囲の協力によって完成させることができました。

 ONE・STEP企画でお求めの方は、直売価格がございます。お問い合わせください。

価格一覧
製作:「ネットワーク杉並ここと」テクニカルサポート担当
販売:ONE・STEP企画
電話:03−3204−0451(担当:加藤)

ONE・STEP企画 平野 貴史


らくらくマウスII 対応表

機種名 PC-98用 DOS/V用 USB用
NEC PC-9801/9821機 × ×
EPSON PC-286/386/486/586機 × ×
NEC PC98-NX機 × PS/2端子付 機種 USB端子付 機種
Windows98
DOS/V機 × PS/2端子付 機種 USB端子付 機種
Windows98
Apple Macintosh機 × × USB端子付 機種
MacOS 8以降

平成11年度 東京都重度身体障害者
在宅パソコン講習生決定!

 平成11年4月から開始する第17期在宅パソコン講習の募集・選考が行なわれました。 今年は、作文・書類選考を経て、22名の方が1月20日の適性試験に臨まれました。 当日は冬とは思えないほど暖かく、会場の中は、受験生の皆さんの熱気で暑く感じるほどでした。

 2月3日の面接では、障害の状態、将来の仕事に対するイメージなどをお聞きし、最終的に5名の方が合格されました(男性4名、女性1名)。

 今年も三菱商事様よりボランティアの方々にお越しいただき、答案の代筆やページめくり等の介助をしていただきました。 紙面を借りて心から御礼申し上げます。

[岩田]

おめでとう!
 社会福祉法人 東京コロニー関連事業本部 勤務決定! 


M.R さん 頚椎損傷1種1級

  在宅パソコン講習第15期生(平成11年3月修了予定)
  ホームページの作成や印刷の版下デザインなどの仕事をされる予定です。


 初級システムアドミニストレータ試験合格 


T.S さん 頚椎損傷1種1級

  在宅パソコン講習第15期生(平成11年3月修了予定)

M.T さん 頚椎損傷1種1級

  在宅パソコン講習第15期生(平成11年3月修了予定)




編 集 後 記

 トライアングルを発行して丸5年。 創刊当初は、在宅勤務はまだまだ夢を掴むようなもの。 こうなったらいいね、こうできたらいいね・・・・と思い描きながら試行錯誤の日々。 パソコンやインターネットの急激な普及で、SOHOが働く手段として巷に流行り出した。 障害者のための特別な在宅勤務ではなく、普通に在宅勤務があればいいのになという思いも時代と共に実現されつつある。 可能性は広がり、夢も夢ではなく手の届くところまできている。 長かった暗いトンネルに明るい光が見えてきた。春はもうすぐ・・・。
(小川)    


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