重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.17 1999.6(平成11年)

'99 びわ湖会議開催!
障害のある方の在宅で初めての仕事 レポート
障害者に対する在宅就労支援事業(労働省)への協力
重度障害者の在宅雇用・就労支援システム研究会 進捗報告!
ONE・STEP企画のコーナー
プロップステーション社会福祉法人化記念シンポジウム
在宅パソコン講習の新講師紹介!
おめでとう!(勤務決定,情報処理・初級シスアド試験合格)

'99 びわ湖会議開催!
 4月3日・4日の2日間、滋賀県の琵琶湖ホテルにおいて「障害のある人の情報処理教育と就労を考える '99びわ湖会議」が開催されました。 全国から障害のある人の情報処理教育と就労に携わる関係者約80人が参集し、行政、教育機関、企業、NPOなどさまざまな立場の方からの講演やシンポジウムがありました。

 労働省障害者雇用対策課からは、障害者の就労・雇用対策として、「障害者緊急雇用安定プロジェクト」の主旨や実施方法などが報告されました。 これは、企業がまず「職場実習(1ヶ月)」という形で障害者を受け入れ、修了後には、障害者雇用の専門家によるサポートを受けながら「トライアル雇用(3ヶ月)」として契約を結ぶというもので、期間中は国から企業に対して奨励金が支払われます。 このような制度の利用によって、障害者雇用の経験がない企業が、雇用の門戸を広げるきっかけになるよう期待したいものです。

 「障害のある人たちの就労自立に向けた実践と自立宣言」と題したシンポジウムでは、コンピュータを活用し活躍する、障害のある方々による実践報告がありました。 シンポジストの多くは在宅就労が中心でしたが、従来からあるプログラム開発やホームページ作成といった仕事だけでなく、不動産業の経営にあたって、外での交渉をする代わりに様々な情報機器を駆使している例や、音楽活動をする中でCD制作やパンフレット印刷を在宅のグループで手がけるようになった例など、幅広い分野での就労事例が発表されました。 コンピュータの仕事ならば障害があってもできるのではないか、という発想から、社会の中に現存する様々な仕事がコンピュータを活用することによって可能になっていく、そのような時代の変化を感じます。

 NPO法人WeCAN! 代表 上條氏の「障害者SOHOの取り組み」と題した講演では、企業などから受けたホームページ作成等の仕事を、コンピュータネットワークで結ばれた全国の仲間と分配して作業するという実践報告がありました。 チームで受注することにより、個人が身体的に無理をすることなく、また成果物も個人の技量によらず一定の品質を保てるという説明には、体調に不安があり就労に踏み出せない場合の一つの解決策であると改めて納得させられました。 また、働き方という意味では、二日目のシンポジウムでオフィスライン代表の林氏が報告した、在宅就労者同士が"企業組合"という形態をとることで、雇用に近い安定性を目指すという試みも新しい視点でした。

 びわ湖会議は、今回をもって一旦終了するということですが、各地で障害のある方々自身による、新しい発想での就労自立に向けた旗揚げが次々となされていく中で、これからも同じ目的をもった仲間が共に情報交換をしながら議論できるような場が、何らかの形で続いていくことを期待したいと思います。

[岩田]

障害のある方の在宅で初めての仕事
レポート

テンプレートの一例
渡 恵美子
(在宅パソコン講習15期生)

 3月に在宅パソコン講習を終え、4月より私にとって初めての経験である「仕事」をスタートすることができました。 いくつかいただいた仕事の中で、今一番大きな割合を占めているテンプレート作りの仕事について今回は書かせていただこうと思います。

 この仕事は、WordやExcelで、学校用、家庭用、業務用などの様々な書類の雛形を作る仕事です。 例えば、母の日のカードであれば、カーネーションなどのイラストを入れ、自分で考えたイメージにそって色や文字の配置を決めます。 使う人は、自分のの名前、メッセージを入れれば簡単にカードが出来上がる、というものです。


この仕事やりたいっ!

 この作業のことを発注元のラクーン多摩様より初めてお話を伺った時は、「テンプレートを作る仕事」という存在自体知らなかったので、ちゃんと仕上げることができるだろうか、とか、どのくらい時間がかかるものなのだろうか、と少し不安になりました。

 しかし、いただいたサンプルを見た途端、「この仕事は私に合ってる!」と強く思いました。 というのは、指示どおりにハサミで切れば赤鬼のお面になるものや、小学校でクラス替えがあった時に書く可愛い図柄入りの自己紹介の用紙などがあり、見ているだけで楽しくなるサンプルばかりで「こういうものを仕事で作れたら素敵だなぁ」と感じたからです。

 
作業のコツ

 Word用のテンプレートの絵は、「図形描画」ツールバーの「オートシェイプ」(楕円や線や吹き出しなど)を組み合わせて作ります。 今までもお絵描きソフトを使って落書きをしてはいたのですが、パーツを組み合わせて描くのは初めてでしたので、慣れるまで時間がかかりました。 しかし、もともと絵は好きだったことと、オートシェイプの組み合わせ方を工夫することで結構複雑な図形も書けるのだという発見があり、楽しく作ることができました。

 イラストが入るテンプレート以外にも、「給与明細書」や「請求書」のような業務用の帳票を作ることもあります。 業務用のものは、私にとっては馴染みが薄く、サンプルを見せていただいても手間取ることも少なくありません。 しかし、様々な書類を見ることで、知らなかった世界の情報を垣間見ることができ勉強になりますし、形が出来てくるとそれはそれで楽しくなるものです。

 
在宅勤務の課題

 在宅勤務では孤立感がある、というようなことを聞くこともあるのですが、私はそう感じたことはありません。 というのも、この仕事自体はすべて在宅ですが、週に1回定例会があり、そこで他の方の作品を見せてもらったり、うまくいかないところをうかがったりすることができるからかもしれません。 また、メーリングリストがあるのも、孤独でない理由の一つではないかと思います。

 仕事をしてみて一番大変だと思うのは、時間の問題です。 毎週自分で予定を立てますが、なかなかその通りにいかず、ズルズル延びてしまい、何故か忙しい…という状況に陥ることもあります。 これが今後の課題の一つです。

 
仕事で自己を磨きたい

 この仕事を最初にいただいた時は、ただイラストを描くことが漠然と楽しみだったのですが、やってみると他の方の作品を見ていろいろなことに気づかされたり、苦手だった業務分野の情報を得られることも大きな魅力だと思うようになりました。

 まだ仕事の経験も浅く、見落としがあったりレイアウトが不十分だったりと、発注元の方にご迷惑をかけることも多いのですが、丁寧に説明していただいているお蔭で少しずつ身についていっている気がします。 また、外で打ち合わせをすることは初めての経験で、言葉づかいなどまだまだ社会性が身についていないなぁ、と自分自身痛感しています。

 しかし、この仕事を通して学んでいることは、将来他の仕事をする時にも必ず役立っていく貴重な経験だと思います。 これから、未熟な部分を磨き、楽しみながらもきちんとしたもの作りができるよう、頑張っていこうと思います。


★   ☆   ★
発注元:有限会社 ラクーン多摩 様

 地域開放型ソフトウェア会社を目指し、コミュニティに役立つソフトウエア製品・情報サービス商品の開発などを手がけておいでの企業です。 情報産業からの街づくりに参画したいという理念を持ち、テレワーク・SOHOの実践、報告においてもご活躍です。
http://www.tnt-net.co.jp/about/index.html

障害者に対する在宅就労
支援事業(労働省)への協力

 労働省では、障害者の在宅就労支援のあり方を多角的に検討するための実験的な事業を1998(平成10)年度第3次補正予算で実施しました。

 この事業は、障害者を対象に在宅就労に必要となるパソコン、周辺機器を貸与し、併せて在宅就労に必要なノウハウに関する相談、援助、指導を行なうというものです。 労働省の外郭団体である日本障害者雇用促進協会が本事業の実施主体となりましたが、約500台のパソコンの貸与と就労支援を行なうに際しては、私共、社会福祉法人 東京コロニーを含む9団体が連携機関として協力することとなりました。


 当法人の一事業所であるトーコロ情報処理センターでは、1982(昭和57)年の事業開始当初より重度の障害のある人を対象に在宅を含めた教育や就労形態を取りいれてきています。 また、何度かこのことをテーマにした実態調査・研究も受託しており、このような実績により連携機関の一つに選ばれたものです。

 当法人としては、トーコロ情報処理センターが行なう講習事業を修了し、在宅での雇用・就労をめざす方へのパソコン貸与と支援を行なっていくと同時に、法人内各事業所からも協力を得て各事業所につながる在宅の障害者への就労支援も併せて行なっていきます。


 また、当法人内のみでなく、障害者の就労支援活動を積極的に行なう外部の団体にも、いくつかご協力いただいております。 実施主体である日障協から連携機関として指定されるためには、障害者の就労支援に実績のあること、継続して就労支援が可能な体制があること等いくつかの条件があり、そのひとつに公益法人であるということがあります。 しかし、現在公的援助も不十分なままであっても、志をもって障害のある人の在宅就労支援を行なう団体、NPOが全国にもかなりあり、これらを通じてさらに広く、厚く、就労支援を行なっていただくことにしました。 当法人をつうじてご協力いただくのは岐阜県の福祉メディアステーション(在宅での就労を希望する方への支援)、埼玉県の在宅就労支援グループ(CADによる在宅就労支援)他、障害者の就労支援を行なうNPO、作業所等です。

 私共は連携機関の一つとして、本事業から、たくさんの在宅勤務事例に実を結ばせ、これらを報告していくことで障害者にとっての在宅雇用・就労の機会を広げていくことができるよう、組織内外の皆様と協力しつつ努力していきたいと思います。

[加藤]

重度障害者の在宅雇用・
就労支援システム研究会 進捗報告!

 日本障害者雇用促進協会から委託の標記研究会は、昨年10月より始まり東京コロニーが事務局を担当しております。 法政大学の諏訪先生を座長に、障害のある人の雇用就労支援に様々な角度から関わりをもつ委員の方々にお集まりいただき、今後3年間に亘る調査研究の内容やスケジュールについて熱心な討議が行なわれてきました。 1999年度は、いよいよ調査研究が本格的にスタートします。 障害のある人の就労支援を行なう機関は、全国に数多いものの「在宅」を視野に入れて取り組んでいるところはまだ数える程度しかありません。 本年はまず、この貴重な在宅雇用・就労支援の取り組みをヒヤリングすることになりました。

 ヒヤリングの第1回は7月に実施しますが、自治体、地元のNPO、企業がうまく連携して取り組んでするケースとして、高知、三重、岐阜、宮城の4県からお話を伺う予定です。


 また、本年は在宅就労をめざす人やグループ、また企業の在宅雇用事例などについて、雇用・就労支援の経過を追い、レポートしていく「モニタリング」を7件ほど実施します。 この他、労働省の在宅就労支援事業としてパソコンを貸与された障害のある数百人の方々に定期的にアンケート調査を行なうことも計画しています。 このアンケートにより、相当数の在宅雇用・就労をめざす方、またすでに在宅就労を始めている方の実態と、どのような支援が必要とされ、また有効なのかを数値的に把握できることを期待するものです。

 本年度は、盛りだくさんの調査内容となり、2000年度も引き続き内容や手法を変えた調査を実施する計画です。 そして、2001年度夏に重度障害者の在宅雇用・就労支援システムに関する施策提言をすることを目指していきます。

[加藤]

トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 1999年5月 USB対応「らくらくマウスII」ホイール機能追加 

USB用・ホイール機能付き  今年3月にリリースされた「らくらくマウスU USB用」が、ホイール機能に対応しました。

 上スクロールと下スクロールの機能を持つ、2つのスイッチが追加されたことにより、今までの様にカーソルをスクロールバーまで移動することなく、画面を上下にスクロールさせることができるようになりました。 この機能によって、長い文章の閲覧や編集作業時にスクロール操作を気にする必要がなくなりました。 その為、使用者の負担を大幅に軽減することが可能となりました。

 また、スクロールボタンと「CTRL」キーを同時に押すことによって、画面をズームイン/ズームアウトさせたり、インターネット エクスプローラ使用時では、リンクされたウェブ サイトからのリターンや「戻る」「進む」などページのジャンプも瞬時に行なうことができます。 ホイール機能が組み込まれたことによって、「らくらくマウスU USB用」は操作性が格段に向上しました。

 私どもは、これからもより快適なPCの操作環境のご提供を目指していきたいと思います。


E-MAIL:one.step@tocolo.or.jp
電話:03−3204−0451(担当:加藤)
ONE・STEP企画 小林 秀浩


プロップステーション社会福祉法人化
記念シンポジウム

 コンピューターネットワークを使って、challenged(障害がありながら様々なことに挑戦する人々)の就労促進活動を行なっているプロップ・ステーション(代表:竹中ナミさん)がいよいよ社会福祉法人化を果たし、その記念のシンポジウムが4月17,18日の日程で神戸ファッションマートにて開催されました。

 ジャーナリスト櫻井よしこ氏の基調講演から始まり、ドキュメンタリー映画放映、シンポジウム、チャレンジド・アート作品展など、障害者や高齢者が自ら社会参加していける仕組みつくりについて、2日間にわたり熱く展開されました。(詳細はこちらで)

 これまでプロップステーションが社会に対して実践してきた「産・官・学・メディアの連携」を今回もしっかりと視点の中核に据えてありましたが、シンポジストから報告された省庁の施策や企業の方針の中に少しずつそれらが形となって実を結びつつある現状を感じ取ることができました。

[堀込]

在宅パソコン講習の新講師紹介!
鶴田 宏樹さん

  講習生の皆さんが技術を高め、就労の機会を得られるように、頑張ります。

 <経歴>
  電機メーカーに8年間勤務し、コンピュータ機器の設計を担当。
  本年3月21日よりトーコロ情報処理センター職能開発係に。


おめでとう!
 沖電気ネットワーカーズに勤務決定! 

T.S さん 頚椎損傷1種1級

  ONE・STEP企画(在宅パソコン講習第15期生)

 立正佼成会附属佼成病院医療情報サービス課に
  非常勤勤務決定!
 

M.T さん 頚髄損傷1種1級

  ONE・STEP企画(在宅パソコン講習第15期生)

 春期第2種情報処理技術者試験合格! 

N.M さん 疾患1種1級

  在宅パソコン講習第16期生

 春期初級システムアドミニストレータ試験合格! 

Y.K さん 慢性関節リューマチ2種2級

  ONE・STEP企画(在宅パソコン講習第15期生)

W.E さん 慢性関節リューマチ1種1級

  ONE・STEP企画(在宅パソコン講習第15期生)




編 集 後 記

 いよいよ(?)1999年の7の月がやってきます。 このノストラダムスの大予言が流行したとき、子供心に遥か未来のこの年の自分の姿を想像したものです。

 予言の真偽はともかくとして、現在の自分を見直す機会にはなるかもしれませんね。

(岩田)    


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