重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.18 1999.10(平成11年)

重度障害者の在宅雇用・就労支援システム研究会 報告
障害のある方の在宅で初めての仕事 レポート
テレワーク99国際シンポジウムに参加
緊急地域雇用特別基金による事業について
CGIの勉強会を開催
ONE・STEP企画のコーナー

重度障害者の在宅雇用・就労支援システム
研究会 報告4県からのヒヤリング

 7月27日に開催された標記の研究会にて、障害者の在宅就労に関して先進的な取組みを行なっている、高知県・三重県・岐阜県・宮城県の4つの県の方々をお招きし、ヒヤリングを行ないました。

 これらの県では、自治体(県)、企業、NPO(民間非営利団体)等が連携して、パソコンなどの情報化ツールやネットワークを活用した障害者の在宅就労を促進するプロジェクトを立ち上げています。

 当日は、各県のプロジェクトから、行政、企業、障害のある当事者の代表の方に、取組みの経緯や現状、将来へ向けての構想などをお聞きしました。 県は違っても「障害者の在宅就労による社会参加」という同じ目標に向かって試行錯誤で取り組んでおられるだけに、抱えている悩みや問題点も共通するところが多く、活発な意見交換がなされました。 その中で出された問題点や意見をいくつか挙げます。

<教育について>
仕事に結びつきやすい講習カリキュラムの内容を、どのようにしたらよいか分からない。
仕事のプロを育てるためには、教える側は超プロでなくてはならず、それがボランティアベースで見つかるか。
一定のカリキュラムを作り、講習を受けた人が次の人を教えていくシステムが作れないか。

<仕事の受注について>
量があって時間が十分にかけられるような継続的な仕事が欲しい。たとえば役所の文書のデジタル化など。
県としての仕事の発注や、県自身が在宅雇用を行なうことについての検討はどのくらいなされているのか。

<仕事の進め方について>
検品をボランティアでやっているが、負担が大きい。
仕事を分配するメンバーのスキルを把握することが難しく、仕事の流れがうまく作れない。

 これらの貴重なご意見をもとに、当研究会では在宅雇用・就労支援のシステム作りや制度・政策の提言に向けて今後も議論を続けていきます。 事務局である東京コロニー(日本障害者雇用促進協会から依託)もその一翼を担えるように努力していきたいと考えています。 なお、各県の取組みの詳細については以下のホームページでご参照いただけます。

[岩田]
 ☆高知県「マイセルフ・ネットワーク」 http://www.gallery.ne.jp/~myself/
 ☆三重県「PEP−COM」 http://www2m.biglobe.ne.jp/~tost/pepcom.html
 ☆岐阜県「バーチャルメディア工房事業」 http://www.fukusi.softopia.pref.gifu.jp/
 ☆宮城県「MIMINET CyBirdプロジェクト」 http://www2.tinet-i.ne.jp/cybird/

障害のある方の在宅で初めての仕事
レポート

在宅での作業様子


日々、初心で

阿部 大樹

(頚髄損傷1種1級)
(在宅パソコン講習15期生)

仕事のきっかけ

 トーコロ情報処理センターの在宅講習生として二年間の勉強を終えた春、ぽっかりと穴のあくような気分で、これからの事をどうしたらいいのか悩んでいました。 そんな時に、トーコロの堀込さんからVCOMのジョブマッチング広場(下記参照)に「VBの仕事の情報があるよ」と伺い、さっそく見たのがC社様のお仕事でした。

 期待とともに、不安な気持ちも同じ位ありましたが、お話を伺ってみると幾らかはお手伝いが出来そうだったので、委託でお引き受けさせていただく事になりました。

 
作業の内容と勤務状況

 仕事の内容は、VB + ACCESSを使用した商品管理システムの各部分の新規追加もしくは再構築等の作業を中心に行なうものでした。 実際開始してみると、仕様については担当者の方と電話を使用してかなりこまめに連絡を取れる状況があるため、話し合いながらある程度まで作ったものをメールで送る作業を繰り返し、とても楽しく仕事を進められています。

 実際、作り込んでいくと「ここをもっとこうした方が使いやすいんじゃないか」とか、「こういう面白い機能を追加したらどうだろう」と考えます。 しかし、実際追加したらトラブルが起きたり、結局使いにくかったり、と、知識の少なさからくる失敗も多くありますが、仕事の進め方なども含め大変勉強になっています。

 基本的には平日に仕事をしていますが、通院やその他介護等の関係で平日にできない時は土日に振り替えたりしています。 またどうしても、その日の体調によって勤務時間にムラが出てしまうので今後は何とかしたいと思っています。

 心がけていることは、ソフトを作る際に、「この機能を追加するなら納期を少し延長して欲しい」とか無理そうだなと思った時は、早めに正直にご相談することです。 元気とは言っても、普通の人ほど丈夫ではないので無理して寝込むと長くなり、逆に大迷惑をかけてしまう事になりかねないので、体調管理も重要だなと今更ながら感じています。

 
作業の悩み

 唯一の悩みは、技術的に分からない問題がある時に身近に聞ける人がいないところです。 仕事に必要な更なる実力をつけるには、実務上の先輩がやはりいてほしい。 SOHOで働いている場合、そういった技術の交流やアドバイスを受けることのできる環境の大事さを痛感します。 現在はメールやFAXなどを利用すれば、技術的にはあるところまでの開発の支援・フォローはできる時代になっています。

 願わくば、専門的な技術的サポート等を行なう公的な機関や、もしくは、民間のシステム開発業者などを活用した支援サービスなどが増えていけばいいなと切実に望みます。 そうすれば、努力する事を諦めない多くの障害者が実力をつけて、健常者と仕事上で同等、もしくはそれ以上に渡り合える日が来ると思います。

 最後になりましたが、このような機会を与えてくれた企業様やご協力いただいている多くの方々に、この場を借りてお礼を申し上げるとともに、今後も「日々、初心で」、仕事にのぞんでいくことを再度自分に戒めまして筆をおきたいと思います。


★   ☆   ★
― ネット上で仕事情報を! ―
 VCOMは、慶応大学SFC研究コンソーシアムのひとつとして、参加企業や自治体の支援を受けて実施されているネットーワーク・コミュニティ作りのプロジェクト。 この中のひとつが、インターネット上で障害者対象の求人求職情報が参照できるジョブマッチング広場です。

http://jms.vcom.or.jp/

 上記をはじめとして、昨今ではネット上で仕事情報が行き交っています。 そうしたものを利用した仕事探しや自分アピールは、プライバシーの問題や情報の真偽など留意しなければならないことは確かに多いのですが、移動の困難な方にとって気軽に企業にアプローチできる今までになかった画期的な方法であることにも間違いはありません。

 「できること」、「できないこと」、「やってみたいこと」などを一度客観的に自分で分析し文章化した上で、メールで積極的に企業にアプローチすることも、いい勉強になると思います(成就するかどうかは別として?)。 特に、社会人としての文書を書く練習なども必要な方は、本屋さんで仕事のマナー類の本などを探されるのも大事な一歩になるでしょう。

 在宅での受注仕事であれば、実力や実績がともなっていればインターネット上の一般の仕事情報サイトを参照してみるのもいいかと思います。 中には登録すると、自分の求職情報がメールで企業に流れる(プライベート情報はふせてある)というような積極的なものまであります(検索サイトで、SOHO、アルバイト、在宅、プログラマーなどを条件にかけてみるとかなり情報は出てきます)。

 しかし、当たり前ですが、受注した限り「プロ」としての仕事が期待されますので、特に開発経験が少ない場合は、アドバイスや情報交流ができる在宅ワークグループやSOHOチームに属すなどで、助け合えるネットを持っておくことが大事でしょう(これについては別途書きたいと思いますが、ご相談はメールでいただければと思います)。

 阿部さんが書いておられたように、努力することをあきらめない方々の「あと一歩」のところをしっかりと支援できるシステムづくりを、これからも共に考え提案していけたら、と考えます。

[堀込]

■企業の方々へ:障害者緊急雇用安定プロジェクトのご案内■
 労働省では、障害のある方を対象とした「障害者緊急雇用安定プロジェクト」を実施しています。

 これは、厳しい雇用情勢の中で、障害者の方の職場実習や、雇用機会の創出を目的としたトライアル雇用(短期間期限つき雇用)を日経連に委託・実施している支援策です。 事業主も実習生も一定の収入を得ながら職場での適応力を高めていけるので、非常に実践的であり、終了後引き続き雇用の可能性も期待できます。 在宅勤務の実習も時間などの要件をみたせば、OKのようです。

 このプロジェクトは、平成12年3月末までの実施ですので、詳細は以下にお問い合わせ下さい。

     事業主の方:日経連障害者雇用緊急支援センター 03-3213-4485
     求職者の方:ハローワーク(職業安定所)へ


テレワーク99国際シンポジウムに参加
 国際的なテレワーク推進団体である国際テレワークファウンデーション(ITF)が主催した「テレワーク99国際シンポジウム 〜テレワークは21世紀を切り拓く〜」が、9月3日に東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催されました。 このイベントは、8月31日から9月3日の4日間にわたって行なわれた「第4回テレワーク国際会議」に付随した公開シンポジウムで、13ヵ国から約250人が参加しました。

 基調講演では、「テレワークは何を変革し、どのような未来をもたらすのか 〜テレワーク先進国の現状と将来」と題してテレワークコンサルタントのギル・ゴードン氏が講演を行ない、テレワークの成長過程で起こることや必要なこと、テレワーク促進のために個人ができることなどについてお話がありました。

 パネルディスカッションでは、行政、企業、社会福祉法人などから6人のパネリストが参加し、テレワークの意義、SOHO社会を広げることは可能かなどテレワークのもたらす可能性などについて討論が行なわれました。 また、障害のある方の雇用機会を広げるためのテレワークの重要性についても紹介がありました。

 今回のイベントは、障害のある方、企業で働いている方、あるいはSOHOで仕事をしている方などに対し、新しいライフスタイルとしてのテレワークの重要性を感じさせる有意義なシンポジウムでした。

[鶴田]

緊急地域雇用特別基金による事業について
 平成11年度補正予算により臨時緊急の措置として、国から都道府県に「緊急地域雇用特別交付金」(平均的な県で20〜30億円程度)が交付されることになりました。 現下の厳しい雇用失業情勢を踏まえ、新たな雇用・就業機会の創出を図ることを目的としたものです。

 これを受けて、各都道府県により交付金を財源とした基金を造成して、地域の実情に応じた創意工夫に基づく事業(基金事業)が実施されることになりました。

 基金事業としては、(1)都道府県自らが実施する事業、(2)都道府県が民間企業、社会福祉法人、NPO等に委託して行なう事業、(3)市区町村が自ら実施又は委託して行う事業に対して補助金を交付する事業とされています。

 委託事業については、その範囲としていくつかの事項が示されています。 教育・文化、福祉、環境・リサイクル等緊急に実施する必要が高い事業であること、新規雇用・就業の機会を生ずる効果が高いものなどとされています。 併せて、基金の設置期間に限って実施する事業であること、事業の実施に伴う新規雇用は6ヶ月未満の期間雇用に限定し雇用期間の更新は行なわないこと、といった条件もあります。

 基金事業については、130以上の具体的例示がされています。詳細につきましては、各都道府県、市区町村にお問い合わせ下さい。

[加藤]

CGIの勉強会を開催
 最近、ホームページ上で掲示板やデータ検索などの機能をよく見かけるようになってきました。 これらは主にCGI(Common Gateway Interface)という機能を使用したものであり、内部的にはPerlという言語によるプログラミングが中心となっています。 最近はCGI関係の書籍も増えてきていますが、プログラミング的な要素が強く独学で学習するのは容易ではありません

 ONE・STEP企画でも、「らくらくマウスII」オンライン申込みの企画が出るなど、CGIのニーズは非常に高まっています。 こうしたニーズに対応できるよう、在宅講習生とONE・STEP企画会員を対象にCGIの勉強会を、8月4日にトーコロ情報処理センターで開催しました。 この勉強会には、在宅講習のプログラマコースを修了した人やホームページ制作に関心のある人など約15人が参加し、主に次のような内容を学習しました。

     1.CGIの概要とPerlプログラミング
     2.フリーのスクリプトによるCGIの簡単な設置方法
     3.CGIスクリプトのカスタマイズについて

 今回は掲示板や簡単なデータ検索を行うCGIを中心に学習しましたが、今後はオンラインショッピングやデータベースとの連携など、より高度な技術が望まれていくものと考えられます。

 今後もこうした勉強会を開催し、新しい分野の仕事に対応できるようにしていきたいと考えています。

[鶴田]

トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
らくらくマウスII
 オンライン申し込みができるようになりました! 

オンライン申込書  今インターネットでは、電子マネー、オンラインショッピングといったオンラインで買物をするシステムが流行っています。 今後も、ますます増えることでしょう。

 そのような中、ONE・STEP企画でも「らくらくマウスII」をより多くの方に使っていただくために、従来のFAX、郵送での申込みに加え、ホームページ上からのオンライン申込みができるようにしました。

 詳しくは、らくらくマウスIIのホームページをご覧下さい。

 オンライン申し込みの実現にはCGIの知識が必要ということで、「プログラム開発部隊」のメンバー二人が3月頃から「Perl」の参考書を読みながら勉強を始め、6月後半にはオーダーフォームの開発を手がけ、8月後半からCGIに取りかかりました。 CGI技術の習得には参考書を読む他に、CGI勉強会(上記)にも参加しました。実際のCGIの開発において苦労した点は、プラットフォームやインターネットツール(ブラウザ、メールソフト)の依存による不動作の解決などです。

 ONE・STEP企画では、今後もこれらの技術の向上に努めていきたいと思っています。


ONE・STEP企画 田中 崇、橋沢 春一




編 集 後 記

 現在の仕事に就いて半年が経過しました。 在宅講習や勉強会などを通じて、新しい技術を学んでいくことは決して容易なことではないものの、それを乗り越えれば、そのぶん就労の可能性も広がっていくことを少し実感し始めています。

 委託業務をトーコロの講習生や修了生へ振り分ける作業も担当していますが、1人が10歩技術や経験を高めること、そして10人がそれぞれ1歩ずつ技術や経験を高めること、それらのバランスを考えながら今後も取り組んでいきたいと思っています。

(鶴田)    


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