重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.19 2000.3(平成12年)

CADのオンライン教育 実験報告!
在宅で初めてのリサーチ業務 体験レポート
米国の在宅就労事例紹介
ONE・STEP企画のコーナー
平成12年度在宅パソコン講習「カリキュラムをより実践的に」
おめでとう「初級システムアドミニストレータ試験 合格」

CADのオンライン教育 実験報告!
修了時に矢嶋さんが描いた「かなばかり図」  「CADを勉強して設計図を描いてみたいんです」。 在宅講習15期生の矢嶋清美さん(関節リウマチ 2種2級)は、講習生として面接を受けた数年前から希望を語っていました。 しかしながら、トーコロ情報処理センターでは、CADやDTPといった、いわゆる非情報処理系の本格的な講習はノウハウを持っていません。 リハビリテーションセンターや職能開発校などの集合教育に通えればいいのでしょうが、これに参加するには、移動や日常生活動作の確立が必要なケースが多く、それらが不十分な移動困難者にはなかなか学習に参加できない現実があります。

 そこで、このたび、CADにおいてすでに高いノウハウや経験を持つ民間の専門学校(注1)に技術教育を委託し、我々の持っているリモート教育・コミュニティ作りのノウハウをこれに併せることで、「CADのオンライン教育」の実験を行なってみました。

 基本的には、専門学校の通常5ヶ月間のカリキュラムをもとに、日々在宅学習によって出た不明点をメールや月一回のスクーリングで解決していく方法をとりました。

期間:1999年7月より1999年12月までの6ヶ月間

環境:
   環境

成果:1999年11月に行なわれた「平成11年度CAD利用技術者試験2級後期」に矢嶋さん見事に合格!(合格率28%)。 現在、都内の建築事務所にて、建築一般にかかる伝票処理や耐震診断等の雑務も含めた業務見習いを在宅+通い(週1程度)で受けています。
 今回実験した方法には、特に新しいツールや技術はありません。 既にある民間の「専門学校」という職能訓練のプロと、我々のような障害者在宅就労支援団体が連携しただけです。 今ある組織や機能をうまく組み合わせる事によって、効率のよい在宅教育の可能性が、まだまだあるはずだと実感しました。
[堀込]

注1)協力機関:ヒューマンアカデミー東京本部校様 http://www.the-human.co.jp/haa/home/

在宅で初めてのリサーチ業務
体験レポート

ホームページ制作とリサーチ

在宅での作業様子  今回は、福祉車両や福祉サービス、介護情報など、主に外出に役立つ情報を掲載するWebサイト(ホームページ)の企画制作に関して、車関係に詳しい在宅講習修了生の渡辺さん(右の写真[自宅])が、情報のリサーチを担当したレポートをお届けします。

 渡辺さんは、事故で障害を持つ前は自動車メーカーで営業の仕事をしており、車の知識を豊富に持っています。 リサーチャーという仕事に初めて取り組んだ渡辺さんに、仕事の内容や感想について語っていただきます。





渡辺 光明 (頚椎損傷1種1級)(在宅パソコン講習14期生)

 今回いただいた仕事は「リサーチャー」というもので、新しいWebサイトの立ち上げ前に、福祉車両や福祉サービスなどについて情報収集をするというものでした。
 
仕事の内容

表  実際の作業はインターネットのオンライン検索の結果を基に調べてゆく事と、その結果をまとめたレポートの作成、それに引用やリンク先のWeb管理者に対する許可の申請などです。

 仕事は昨年10月に始まり、今回立ち上げるWebのコンセプトに近い福祉車両関連Webと、各自動車メーカーの福祉車両Webの内容・構成についてレポートを提出しました。

 そのレポートを使って、トーコロ情報処理センター職能開発係の方に発注元とコンセプトを詰めていただいて、そのコンセプトに沿って下記(右記)項目について内容を調査したレポートを昨年12月に提出しました。

 
苦労した点

 情報の検索は、検索サイトのキーワード検索を用いてその検索結果の中から目星をつけて探して行くのですが、インターネット上の情報はその数が膨大なので、どこまでの情報が有用なのか判断する必要があります。

 今回、福祉車両や福祉機器などハードの部分に関しては、インターネット上の情報量も十分あり、自分にもある程度の知識があったので苦労する事は比較的少なかったのですが、介護方法や民間福祉サービスといったソフトの部分に関しては、自分の知識も十分ではなくインターネット上の情報も少なかったため、自分が必要とする情報になかなかヒットする事ができず、キーワードを変えて検索を繰り返し、ついつい時間を忘れてのめり込んでいくことが多々ありました。 その際の自制心という部分が、私にとって最も難しかった点かもしれません。 その後、情報検索を行なう時は時間を限って行なうようにしています。

 
最後に

 Webサイトの制作に、この様な準備や配慮があったとは今まで全然思っていなかったので、今回の仕事でそれが分かったことは、大きな収穫でした。 このWebが、何らかの理由で外出を控えている方への一助になればと強く思っています。 現在は、リサーチした内容を実際にWeb化する作業を行なっています。

★   ☆   ★
■今回の仕事では、トーコロ情報処理センターの職能開発係がサイトの企画を担当し、関連団体へのヒアリングや、渡辺さんのリサーチレポートをもとに全体的な構成を取りまとめました。

 こうした仕事は初めての経験であり、今後も職能開発係の知識や経験をいかした仕事に取り組んでいきたいと考えています。

[鶴田]

在宅就労事例紹介
アメリカでJAVAプログラマーとして生きる!

−米国サンマイクロシステムズでテレワークするイサムさんを訪ねて−

お住まいの近くで/茂森勇  スタンフォード大学から車で10分、パロアルトの閑静な住宅街に茂森勇さん(右の写真)はひとり暮らしでした。 友人の紹介で日本からメールのやりとりを何度かしていたものの、初めてのパロアルト、どうやって御自宅に行けばよいのかさっぱりわからない私に、イサムさんはインターネットでとったバスの時刻情報をホテルにFAXしてくださったり、モバイル端末に的確な指示メールをくださったり。 お会いする前から、デジタルネットを使いこなすスマートな印象と細やかな心遣いが十分に感じられたのでした。
 
仕   事

 イサムさんのお仕事は、JAVAで有名なサンマイクロシステムズ米国本社にて、日本サンマイクロシステムズのサポートをすることです。 日本からの技術者とシステム構築にあたったり、米国での仕事のコーディネートなどを担当します。 形態はテレワーク。会社のシステムにログインすることで、ほとんど会社と同じ環境が自宅で得られます。 「しかし、どんどん新しい情報や戦略が出てくる業界ですから、できるだけミーティング以外にも職場に行くことを大切と考えていますよ。」イサムさんは語ります。

 通勤する時は、一般の市バス。さすがに日本に比べると、交通におけるバリアフリーは進んでいます。 「じゃあ、差別が全く無いか、というとそんなことはない。電動車椅子で動いていますが、乗車拒否だってあります。 でも、そんなことを気にしたり落ち込んでいたら、この国で仕事なんかできない」。

 
サンの社員になるまで

 イサムさんは、日本では拓殖大学で経営をご専攻。 もともとは理系に進みたかったとのことですが、日本では障害を持っていると、実験などの問題からなかなか難しい。 そこで、まず日本で一人暮らしを体験し、やっていく自信がついた上で、単身渡米を決行。 コミュニティカレッジ(注1)を経て、難関のバークレー大学に進み、夢だったコンピュータサイエンスを学びました。 「パソコンのスキルはコミュニティカレッジや大学で身につけました。 僕の障害は脳性麻痺ですが、そういう人を対象にしたPCの授業もありますから」

 大学卒業後、今の会社でまずはインターンとして無給で働き、パートタイムから本採用になるわけです。

 
仕事へのステップにおける日本と米国の大きな違い

 米国では、大学での専攻は職業に結び付くかなり実践的なもの。 また、障害者にとってそれを受ける権利は日本と比べるとかなり保障されています。

 大学側の受入はもちろんですが、交通の面など生活環境の利便性がそれらをぐっと後押ししています。 「大学の授業の雰囲気もまったく違いますよ。 こちらでは、誰もおしゃべりなどしていない。それだけ、皆必死なのです。 実際、カレッジはきつかったですよ!」。イサムさんは続けます。

 「通信料金の違いも大きいですね。 私は、JAVAの勉強の多くはインターネット上のWEBを利用したのですが、日本の料金ではとても考えられない。 まず、日本もここから始めるべきでしょうね」。


★   ☆   ★
 滞在中、お会いしたイサムさんの上司は言いました。 「ここでは、出身や外見は関係ない。能力があればまず採って、問題はあとから解決するんだ」。 テレワークという選択は、まさにこの言葉を裏づける自然な選択だったのでしょう(注2)。

 イサムさんのサクセスストーリーとも言える軌跡を聞いて、「こういう優秀な人は特別だよ」と思う方もあると思います。 事実、JAVA等お持ちの技術は相当なものでしたが、お部屋に並んだ圧倒されるほどの本を見た時、それが並外れた「努力」に裏うちされたものだということが、瞬時にわかったのでした。

[堀込]

(注1)地域にある大学よりも入りやすい教育機関。日本の専門学校、短大のような機能。カルチャーセンターなどとは違い、進級は厳しい。
(注2)当訪問は、平成11年度の日本障害者雇用促進協会の海外視察の一環。企業訪問等の詳細については、後日上記協会より報告書が出る予定。

トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
COMJAPAN
 「アクセシビリティーコーナー」に展示参加 

ブース前の筆者  ONE・STEP企画は、昨年11月2日〜5日に有明の東京ビックサイトで行なわれた、COMJAPANの「アクセシビリティーコーナー」に展示参加しました。 COMJAPANは、皆さんご存知のとおり情報通信機器関連の展示会です。

 特定非営利活動法人「WeCAN!」のブースに共同参加という形で、他団体と共に『コンピューターとネットワークを活用した社会参加と就労の促進』をPRしました。 ONE・STEP企画は、活動の様子をパネル展示すると共に、「らくらくマウス」の展示と製作実演を「杉並こことテクニカルサポート(らくらくマウスの製作担当)」と協力して行ないました。

 巨大なモニターやスモークを使った派手なデモを行なっている隣接の大手企業のブースを見に来た人が、「WeCAN!」のブースにも立ち寄ってくれたので、予想以上にたくさんの人たちに私たちの活動をアピールすることが出来ました。


ONE・STEP企画 田中 崇


平成12年度 在宅パソコン講習
−カリキュラムをより実践的に−

 平成12年4月から第18期在宅パソコン講習を始めるにあたり、昨年末に新講習生の募集を行ないました。 適性試験、面接試験を実施し、その結果男性3名、女性2名の計5名の方を新講習生として決定させていただきました。

 適性試験にあたっては、三菱商事様より介助のボランティアの方々にお越しいただきました。 紙面を借りて心から御礼申し上げます。

 12年度からは、講習カリキュラムの一部変更を予定しています。 これまでは、1年次は全員が第2種情報処理試験のカリキュラムに従う形で基礎を学び、2年次よりプログラマコース、アプリケーションコースに分かれて専門知識を学習していました。 しかしながら、近年のパソコンによる仕事の領域が、プログラミングからWebページの作成、DTP、アプリケーションソフトを活用した事務処理など、様々な分野に拡大していることを受け、講習もそれぞれの方の適性に合わせて、より実践的な能力を身に付けられるようなものとしていきます。 具体的には、1年次の後半にコース分けを行ない、各コースで専門技術を学んだあと、2年次の最後に卒業制作と発表を行なうことを計画しています。

 めまぐるしく変化する情報技術業界に即応し、実践に役立つ知識、技術を身に付けられるよう、今後も柔軟なカリキュラムの見直しや講師の技術向上に努めていきたいと思います。

[岩田]

おめでとう!
 平成11年度秋期 初級システムアドミニストレータ試験合格 

U.R さん 関節リウマチ 2種2級

  在宅パソコン講習第16期生(平成12年3月修了予定)

N.M さん 疾患1種1級

  在宅パソコン講習第16期生(平成12年3月修了予定)




編 集 後 記

 トーコロ情報処理センターは、1982年より重度の障害のある方を対象とした情報処理教育と就労支援事業を開始、1989年からは外出が困難な方を対象にパソコン通信と訪問指導による在宅講習(都の補助事業)を行なっております。

 講習修了生への就労支援活動の一環として生まれたのが本紙「トライアングル」で、次号はVol.20となります。 事務局であるトーコロ情報処理センター職能開発係は、この間に「在宅」に関するノウハウを蓄積し、皆様に情報をご提供できるように成長してきております。 昨年4月から職業紹介業を開始、そして新年度4月からは「職能開発室」として法人内の独立した1組織となり、さらに新たな展開に向けて準備を始めることになりました。 重度障害のある方の「働く」ことを応援する本事業を大切に育てるために、どうぞ皆様の知恵と力をお貸し下さい。

(加藤)    


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