重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.22 2001.3(平成13年)

IT革命と社会福祉
障害のある方の在宅雇用事例
SOHOグループの立ち上げ Vol.2
ONE・STEP企画のコーナー
どうなる、障害者のIT利用? −Let's watch!−
デザイン講習の開催
おめでとう!(雇用決定/合格)

「IT革命と社会福祉」
〜マイクロソフト 古川享氏の講演から〜

 2000年12月8日、日本障害者協議会(JD)の「新10年推進フォーラム」が開催され、マイクロソフト社の古川享氏(*1)による「IT革命と社会福祉」と題した基調講演が行われました。

 「"IT革命"と言うが、政府自らが"革命"を唱えて果たして世の中がよくなるのか。革命とは民の力で進めなければならない」という古川氏の指摘に、一同納得して講演がスタート。 これまでの社会は、国と国との関係にしても、会社同士の関係にしても、階層型のピラミッド型社会であり、その頂点に立つことが偉いのだと考えられていた時代でした。 しかし今は、お互いがネットワークで結ばれ協調し合いながら物事を進めていくその変革がまずIT革命の源流にあるものだ、との発言に、ITが単なる技術革新だけではなく、大きな社会構造の変革を支えるべきものなのだという思いを強くしました。

 「IT社会では、権威があるとかお金があるとか、そのような壁をとり払って誰もが能力次第で成功者になれる時代です。」その言葉に勇気づけられると同時に、"上からの指示に従って行動していれば安泰"だった時代から、自ら外部に働きかけていく力がますます求められていくのだと感じます。

 また古川氏は、ユニバーサルデザインにも触れ、価値観が多様化している今、一人一人が異なった幸せを追求した時にそれに応える技術がIT技術なのだと語られました。 IT技術を目的にするのではなく、それを使ってどんな豊かな社会を実現するかがこれから先いちばん望まれていることだということです。

 マイクロソフトというIT社会のリーディングカンパニーが、1人1人の価値を認め"個そのものが美しい"という思想のもとに製品を開発してくれる、そのことに21世紀の希望を見出したような思いがします。 IT社会においていかれないように、負けないように、それぞれが必死に技術を習得するという発想だけでなく、お互いが良いところ、不得意なところを認め合い、補い合って協調して物事を進めるのがネットワーク社会の姿なのだということを実感した講演でした。
[岩田]

*1 古川 享(ふるかわすすむ)氏:マイクロソフト株式会社 初代 代表取締役社長
現 米国マイクロソフト社 コンシューマ担当バイスプレジデント


障害のある方の在宅雇用事例

TBSのモバイルページ
島村 由利子

(脳性麻痺 1種1級)
(在宅パソコン講習11期生)

TBSのシンボルマーク 株式会社 東京放送(TBS)
デジタルビジネス局 勤務
TBSのホームページ

新しいシンボルも定着したTBS様に就職して10ヶ月。

今回は、iモードのページ作りに忙しい島村由利子さんをおたずねしました。
 
Q:iモードのページをお作りだということですが、どういったものでしょう。

 ドラマのあらすじのページ作りが中心です。 全部で現在4本のドラマがあるのですが、それらのあらすじをあらかじめある原稿からお手持ちの携帯電話で読めるように作っていく作業です。 「あ、今週見なくちゃ!」と思っていただけるように文章を考えるのは結構大変です。 元の原稿の意味を変えずに、文字数を読みやすく整える事が肝心ですね。

 ページはここです。よろしければ皆さん、携帯を取り出して今すぐチェックしてみて下さい(笑)。
http://www.tbs.co.jp/index_mobile-j.htm
 
Q:そもそもの在宅雇用のきっかけはどういったことだったのでしょう。

 東京コロニーの講習を終えた後、ONE・STEP企画という、修了生で作ったグループに加わり、在宅でできる仕事を委託でいたしておりました。 平成7年からですから、今流行りのSOHOを意外と早い時期からやっていたということになるでしょうか。

 その際、3年くらい前から東京コロニーを経由してTBSのwebの更新のお仕事をいただくようになり、昨年6月に嘱託雇用と言う形で新しくスタートいたしました。
 
Q:毎日の在宅勤務のやりかたを教えて下さい。

 はい。朝は10時から、終わりは午後5時までです。 休憩は12時から1時まで。たまに病院に行く時などは土曜日と勤務を振り替えさせて戴いております。 仕事のやりとりはほとんどメールです。緊急の場合は、電話で話す場合もありますが。

 移動は電動車椅子なので、自宅で働けることは本当に体も楽ですし、効率がいいですね。 朝、仕事前に洗濯ができるなんて、ホントに最高ですし(笑)。
 
Q:今在宅でお仕事をなさっておいでになって、ポイントだと思われることは何でしょう。

 メールを迅速に、かつきっちり書くということでしょうか。 当たり前のことですが、なかなか慣れていないと相手に読みやすい文章はかけないものです。 それと、健康に十分注意することと自分なりの生活のパターンを作り、それに慣れることでしょうか。 仕事にのるために、BGMも私の場合は必要ですね。

 いずれにせよ、東京コロニーで在宅パソコン講習を2年間やったこと、そのあとSOHOで仕事をしていたことはそれらの礎を作ったと思います。

 また、作業環境を整えるということも大事です。 今はアナログ回線ですが、今後はISDN、ADSL等新しい技術の動向をよく見て、仕事ににあわせてバージョンアップしていく予定です。
 
Q:この仕事の醍醐味と、今後の抱負をお聞かせ下さい。

 今はドラマのあらすじを構成しているので、人よりも早くドラマの内容がわかることが楽しいですね!  もちろん、口外はできないので、ちょっとジレンマなのですが(笑)。 ドラマの原稿を元に、言葉を一つ一つ吟味しながら最もふさわしい言葉を選ぶ楽しみや、どの出来事、どの登場人物に視点を置いてあらすじを構成するかという考える楽しみもあります。 それらの選択の仕方によっては、同じドラマの原稿でも全然違ったものができたりするんですよ。

 この仕事は、言葉のセンスを磨きながら、表記法、視点の置き方などを通して、自分なりの個性を"キラリ"と輝かせることができるというのが、私にとってはこの仕事における一番の醍醐味だと感じております。 このような夢のある仕事に出会うことができて、幸せだと心から感謝しています。

 仕事ではないのですが、個人でも仕事の合間を縫って、心がほっと安まるようなサイト作りにチャレンジしているんです。 また、今、近所の60代の方に自宅でパソコンを教えていますが、そういったIT教育とノーマライゼーション推進につながることも、これからどしどしやって行きたいと思っています。 いろいろとやりたいことが多くて困りますね(笑)。 "個性を活かしてやりたいことをやり、イキイキと楽しく生きる"が、今の私のポリシーなんです。

 今後は、ドラマのあらすじの仕事に加えて、最もカレントなニュース関係の仕事や、サイト作成、あらゆる情報提供サービスの仕事などにも挑戦していきたいと思っています。 iモードでできることは今後どんどん増えていきます。 全ての人にとって情報を手軽に取り出せる端末であることは間違いないですよね。 ご意見ご要望などありましたら、TBSのサイトからどんどんメール下さいね。

★   ☆   ★

◎インタビューを終えて:

 いつも明るく前向きな島村さん。テレビ局の喫茶店で色々話しこんで2人で大笑いしたこともあります。 文章の上手な島村さんには、決まった文字数との戦いである今の仕事はピッタリなのではないでしょうか。 IT時代といえども、情報を受け手にわかりやすく伝える工夫は人間の技。 今後、より必要性の増す大事な職域だと感じました。

 また、iモードは島村さんもおっしゃっているように、今日の「情報の玉手箱」に変わってきています。 障害のある方や高齢の方にも、より使いやすい機器開発や利用技術が望まれています。
[堀込]


SOHOグループの立ち上げ Vol.2
 2000年度からスタートしたSOHO(在宅就労)支援事業も、1年を迎えることになりました。

 この間、いろいろな困難があったものの、概ね順調に進んでいるように思います。

es-termのロゴ ◎ ロゴの決定

 ロゴのデザインは、イラストが得意なes-teamワーカーにお願いしました。 前回のトライアングルに掲載したロゴの案を更に洗練し、ワーカーの投票で次のデザインに決定しました。 また、es-teamのホームページデザインについてもワーカーから公募し、現在制作中で近日公開できる予定です。

◎ ワーカーへのサポート

 一般的なSOHOの課題として、支払金額や納期上のトラブルが少なくありません。 es-teamでは、ワーカーそれぞれへの支払予定や負荷状況などをWeb上で確認できるようにしており、トラブルの事前防止に努めています。

web作業 ◎ 仕事の状況

 現在、es-teamが取り組んでいる仕事の多くはホームページ制作です。 一口にホームページといっても、最近はデザインを凝ったり、プログラムやデータベースを開発したりと、かなり内容が濃くなっています。

 es-teamでは、ワーカーそれぞれの得意分野を活かして協力しながら、難しい仕事にも積極的に取り組んでいます。

 今回は、ワーカーのお一人である福里国光さんに、これまでの仕事の様子を簡単にコメントしていただきました。
[鶴田]



〜 福里国光さんから一言 〜

 昨年の夏からes-teamに参加させて頂き、和風料理店のホームページ制作をはじめいろいろお仕事をさせて頂きました。 趣味でホームページを作っていた頃と違い、基本の大切さを痛感しています。 仕事を通じて勉強をさせて頂いている感じです。

 今後もより一層勉強をして、様々な仕事に挑戦していきたいと思います。


トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 解 散 報 告 

 在宅パソコン講習の修了生グループ「ONE・STEP企画」は、ここ数年のITの発展により、会員は個々の活動(就職、SOHO等)に入り、会の目標(習得した技術を社会に活かす)が達成された今、活動に一区切りを打つ時期を迎え、3月末日に解散することになりました。 今まで支援していただきました皆様方には、心より感謝申し上げます。

 なお、「らくらくマウス」の事業は、「杉並ここと」のテクニカルサポートと合体して、NPO法人とする方向で準備を始めています。     

(代表補佐  吉川 誠一[在宅パソコン講習 第8期生])


どうなる、障害者のIT利用?
−Let's watch!−

 先回(VOL.21)で、「IT戦略本部」「IT基本法」のことについて少し触れましたが、その後も、市民のIT利活用については、更なる施策、委員会が次々と生まれています。

 その中でも総務省の「IT推進有識者会議」は、地域間・自治体・個人間の格差是正など、利用者の視点から施策展開について意見聴取する機能を持ちます。

 この会議には2つのワーキンググループがあるのですが、そのうちの一つは、まさに個人・地域のデジタルデバイドを中心とした場であり、委員の中には東京コロニーも加盟団体である日本障害者協議会をはじめとして、高齢者や障害者の当事者団体、支援団体等が名前を連ねています。

 このような動きと共に、市民一人一人にも発言の場はありますので(下記参照)、個人あるいは職場や団体でまとめた意見など、積極的にあげていきたいものです。 こういう生の声が一番「力」になるに違いありません。
[堀込]
※「IT推進有識者会議」
  http://www.mha.go.jp/singi/it.html
※「e-Japan重点計画(案)」に関するパブリック・コメントの募集
  http://www.iijnet.or.jp/cao/kantei/jp/it/e-japan_iken.html

付録 : IT基本法の抜粋

(すべての国民が情報通信技術の恵沢を享受できる社会の実現)

第三条◆高度情報通信ネットワーク社会の形成は、すべての国民が、インターネットその他の高度情報通信ネットワークを容易にかつ主体的に利用する機会を有し、その利用の機会を通じて個々の能力を創造的かつ最大限に発揮することが可能となり、もって情報通信技術の恵沢をあまねく享受できる社会が実現されることを旨として、行われなければならない。

(利用の機会等の格差の是正)

第八条◆ 高度情報通信ネットワーク社会の形成に当たっては、地理的な制約、年齢、身体的な条件その他の要因に基づく情報通信技術の利用の機会、または活用のための能力における格差が、高度情報通信ネットワーク社会の円滑かつ一体的な形成を著しく阻害するおそれがあることにかんがみ、その是正が積極的に図られなければならない。


デザイン講習の開催
講習会の様子  職能開発室では2001年2月から、デザイナー養成を目的としたデザイン講習を開始しました。 期間は、基礎講座部分で1年間を予定しています。 講師はプロのデザイナーの方にお願いし、受講者は、将来デザインの仕事を目指している方々4名です。

 日常は、受講生それぞれが在宅で課題に取り組み、2週間に1回トーコロに集まって、それぞれの課題についてディスカッションします。 本講習では、デザインの基礎を重視しながらも、講師の方の豊富な経験に基づいたアドバイスや、たくさんの実習を通じて、将来デザインの仕事に就けるレベルの教育を目指しています。

 従来からこうした講習のニーズはあったものの、講師の確保や費用の問題などでなかなか実現することができませんでした。 しかし、今回、外部のデザイナーやSOHOエージェントと協力することで、問題点をクリアしました。

 今後も、こうしたプロの養成講座を企画し、就労分野の拡大につなげていきたいと考えています。
[鶴田]

おめでとう!
 株式会社東京放送(TBS)に勤務決定 

  M.S さん 脳性麻痺 1種2級
    ONE・STEP企画(在宅パソコン講習第17期生)

 マイクロソフトオフィスユーザ
    スペシャリスト(MOUS)試験
      Word2000一般レベル合格
 

  K.K さん 脊髄炎 1種1級
    (在宅パソコン講習第18期生)



編 集 後 記

 いよいよ年度も変わり、新しい在宅講習生との勉強も始まりました。 2001年度は、トーコロBBSのリニューアルや、カリキュラムの見直しなど新しい取り組みも検討しています。 また、SOHO支援事業も2年目を迎え、新たな気持ちで次のステップに挑戦していきたいと考えています。

 今後もご期待ください。
(鶴田)    


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