重度身体障害者の在宅就労を考える トライアングル
 
 

Vol.29 CONTENTS  2003.7(平成15年)

   

■身近になりつつある障害者対象の仕事情報

■障害のある方の在宅雇用事例

■在宅就労グループの契約更新と、仕事の進め方に関するガイドラインの作成

■グラフィック・デザイナー養成講座 1期生、作品展開催へ

■お仕事を希望する方集まれ!

■書籍紹介

■おめでとう!




 
 

 

身近になりつつある障害者対象の仕事情報

 

   

 大学生の就職に関するある調査では、8割の人が就職情報をWEBを通して入手していると答えていました。この1〜2年の間にその傾向は障害者の方の就労分野にも顕著になってきています。いくつか、オンラインで求職登録や情報閲覧のできるサイトをご紹介いたしますので、「登録はまだちょっと・・・」という方も、市場にどんな仕事があるかをチェックしたり、成功事例のポイントを参照してみましょう。きっとご自身の実践につながることと思います。

・クローバーネット (株)ジェイブロード
http://www.j-broad.co.jp/clover/

 障害者のための就職情報誌クローバーを出版しています。このサイトから登録すると雑誌が送られてきます(職安でも入手できます)。先輩や人事からのアドバイス、障害者のキャリアアップ事情など充実した内容です。

・障害者のための就職情報サイト サーナ 株式会社イフ
http://www.web-sana.com/

 ご存知の方も多いと思いますが、障害者対象の就職フォーラムなどを実施している会社です。このサイトでも求人求職のマッチングができ、「フレックスタイム制度をもっている」「通院の配慮がある」などの職場環境や雇用実績の条件で検索ができます。

・ジョイコンサルティング
http://www.joy-c.com/index.html

 ネット上で求人求職登録ができます。その他コンサルティングも無償です。

・身体障害者雇用促進研究所株式会社 (サンクステンプ)
http://www.tempstaff.co.jp/corporate/group/outline/ttl_17.html

 特例子会社でもあるこの会社では、障害者対象の人材紹介を提供するとともに、実務研修・障害者向けのビジネスマナー研修OA研修なども実施しています。

(堀込)



 
 
 

 

障害のある方の在宅雇用事例

 

   

黒澤 環 さん

(疾患 1種2級)
(IT技術者在宅養成講座 第19期生)

テレビ朝日(全国朝日放送株式会社)
人事部所属 
株式会社テレビ朝日データビジョン出向

 今回は、興味しんしん、テレビ番組の字幕放送を製作するお仕事に従事された黒澤環さんの事例です。さてどんなお仕事なのでしょう…。

       
    Q:まず現在のお仕事について入社時期、仕事内容、勤務形態などをお願いします。
   

 はい。入社は昨年9月ですから、9ヶ月になります。仕事は文字放送番組の字幕作成業務です。文字放送番組というのは、聴覚障害の方を対象の中心とした番組でして、字幕機能つきのテレビか専用チューナーが必要なので、残念ですがすべての皆さんに見ていただくことはできないんですよ。 勤務形態は、完全在宅です。10時〜6時勤務で、開始と終了はメールで上司に知らせます。

 

    Q:字幕をつける、というのはどういう仕事の流れになるのでしょう。
   

 ざっと申しますと、まず局のほうから番組の動画ファイルがWebサーバに入ります。それをわたくしのほうでネットワークからダウンロードし、字幕作成ソフトを使って、セリフやナレーションを入れていきます。文章を新たに作るわけではないですが、台本どおりにはいきません。画面に出る文字の制限や表示時間の制約の中で、「文字をみただけでパっと理解できる自分なりの工夫」がそこには入ります。大変だけどそこが面白いのです。

 

    Q:専門的なお仕事ですが、教育など準備はどのようなものだったのでしょう。
   

 まず、マシンやネットワーク環境の整備からでした。通信システムをきっちり自宅に作ってくださり、人事の上司や情報システムの担当者が何度も何度も環境を見に来てくれました。狭い部屋に男性が5〜6人来られたこともありました(笑)。でもこうした前準備を本当にしっかりやってくださったことが、今わたしがどうにかお仕事ができている要になっています。
 教育のほうは、全くの素人でしたから、最初のひと月は週に3〜4日通勤して研修をしてもらいました。その後は、6ヶ月間、週に1度通勤し、自宅でやった仕事をみながら指導してもらいました。これは本当に勉強になりました。

 

    Q:現在は仕事で困ったり、トラブったりした場合どのようにしておられるのですか。
   

 わからないことは電話で聞きますね。仕事上の上司には毎日メールで報告や連絡をしているのですが、「無理はないですか」とか「用がなくても顔を出してくださいね」など、配慮いただいてます。ペースがつかめてきたので、自分でも時間があったら無理ない範囲で時には出社したいと思います。また、所属部署である人事の上司も電話をくれたり、出社の際には他の人事の方とコミュニケーションできるようにランチに誘ってくれたり、ほんとに楽しんでやらせてもらってます。

 

    Q:この在宅でのお仕事の醍醐味と、ご自身で「これからの課題だな」と思っておられるところをお教えください。
   

 はい。今担当しているのが「ドラえもん」「釣りバカ日誌」が中心なのですが、自分が打ち込んだドラえもんの言葉が画面に出た最初の日は、本当に感動しました。これを見てくれる人がいる、楽しみにしてくれてる人がいる、と思った時、「仕事は本来どんな仕事であっても誰かのため、社会のためになっている」という基本的なことを再認識しました。

 これからの課題ですか。様々なジャンルの番組を経験したいですね。アニメだけでなく、ドラマ、トーク番組、海外ドラマなんかも手がけてみたい。あと、課題というわけではないのですが、仕事は分担なので、自分の持ち場を誠実にこなし、あとは次の工程の担当の方に委ねることになります。会社とわたくしでお互い全部の進捗を掴めるわけではないので、そこはもう信頼関係以外ありません。実績をつんで信じていただけるように頑張りたいと思います。

 

    Q:最後に、今後在宅勤務を目指す方にアドバイスをお願いします。
   

 会社から最初に言われたことは「できない場合は早めに言うこと。放映前にできていないというのが一番困ります。仕事を分け合ってやることは全く問題ないのですから」ということです。先にも申しましたが、一番大事なことは信頼してもらえること。そのためには「できることはできる」「できないことはできない」。それを明確にした中でとにかく真面目にやっていくことが次につながると思っています。

 また、今ITを必死に勉強している後輩の方々に向けて。仕事の現場では、ほとんどが勉強したこととは別な次元の問題だったりします。でも私は2年間ITを学んだ下地がなかったら今の仕事もできなかったと思うんです。下地があることで、どんな仕事が来たって頑張れるって思いましたし、自信がありました。だから、今やってる勉強が即社会で役立つかどうかよりも、様々な課題に真面目に取り組んでいくことが大事です。頑張ってくださいね。

 

     
   
テレビ朝日のウェブサイト
テレビ朝日データビジョンのウェブサイト
     テレビ朝日
 http://www.tv-asahi.co.jp/
 テレビ朝日データビジョン
 http://www.tadv.jp/
       
 

◎インタビューを終えて

 ご自身は「そもそも文系型の人間」とおっしゃる環さんですが、講習中は、初めて本格的に学ぶパソコンに一歩もおじけずひるまず、「へーこんな風にコンピュータって考えるんだぁ」と常に楽しく、感動を持って勉強されていましたね。仕事に取り組んでいらっしゃる姿も基本的には変わっていませんでした。言葉や文章を扱う今回のような文系のお仕事も、こうして自宅でできるのはブロードバンドをはじめとしたIT技術、インフラ整備の賜物です。これからも、技術は多くの方の適性を引き出す道具でありつづけてほしいものです。

(堀込)

 


 
 
 

 

在宅就労グループの契約更新と、仕事の進め方に関するガイドラインの作成

 

   

 SOHO支援事業を開始し「es-team」(エスティーム)という在宅就労グループを立ち上げてから丸3年が経過しました。現在、契約をしているワーカーは約12名で、ワーカーそれぞれの収入は仕事の質や量によって様々ですが、2002年度は合計約800万円をワーカーにお支払いしました。

 職能開発室では、仕事を依頼する在宅ワーカーと毎年契約(覚書)を交わしています。覚書の中では仕事上の事務手続きや秘密保持など基本的な事項を記載し、万が一のトラブルに備えています。

 仕事単位の契約のため、仕事をする時間はワーカーそれぞれの自己判断によりますが、最近は複数のワーカーによる共同作業が増えており、仕事の進め方や連絡方法などに関してある程度のガイドラインが必要と考えました。そこで今年度は、お互いが気持ちよく仕事をしていくために守っていきたい事項をまとめ、ワーカーに配布しました。

 障害者のSOHOでは、自発的にSOHOという働き方を選択する場合と、体調や能力的な問題でやむをえず在宅ワーカーを選択する場合があります。es-team も、両者が共に働きやすい環境を整えていくことが今後も重要と考えています。

(鶴田)

 

●ガイドラインの抜粋●

仕事の進め方に関するガイドライン

 このガイドラインは、社会福祉法人東京コロニー 職能開発室(以下、甲という。)の社会的な責任、ワーカー(以下、乙という。)が仕事を通じて果たすべき責任、および各作業者の体調維持や権利などを総合的に考慮した上で、甲から乙へ仕事を発注した際に、乙と甲の間で守っていきたい事項をまとめたものです。お互い気持ちよく仕事していくために、ぜひ参考にしてください。

  • 一日の作業時間は最大で6〜8時間程度とし、一週間の作業日数は最大で5日間程度にしましょう。また、毎日の作業時間は可能な限り同一時間帯とし、深夜の作業を避けるなど、健康管理、生活のリズムに十分留意してください。
  • 複数のワーカーが共同で仕事をする場合、他のワーカーへの連絡は原則として平日9:00〜17:30までの間とし、やむをえずこの時間外に連絡をする場合でも、相手の時間外の回答を強要しないようにしましょう。
 


 
 
 

 

グラフィック・デザイナー養成講座1期生、作品展開催へ

 

   

 2001年2月に開講したこの講座も、早いもので1期生はあと半年程度で修了となります。この間、アートビリティ(http://www.artbility.com/)の作品を使った意見広告ポスターなど、課題として様々な作品を作成してきました。そこで、3年間の学習の成果を発表するため、今年の秋にギャラリーを開く予定です。詳細は後日ホームページ等でご案内する予定ですので、ご期待ください。

(鶴田)

グラフィック・デザイナー養成講座のホームページ
http://www.es-team.jp/design/



 
 
 

 

お仕事を希望する方集まれ!

 

   

 わたくしども社会福祉法人東京コロニー職能開発室では、就職を目指す方対象の「職業紹介サービス」と、SOHOを目指す方対象の「SOHO支援サービス」を行っております。いずれも在宅でITを活用して仕事をする新しい働き方です。

     
一例
求人情報
(現在こうした
求人を受けています)

・ソフトメーカー
在宅ないしは、サテライトオフィスで、自社製ソフトの顧客サポートに従事できる方を募集

・レコード会社
WEBの更新業務に従事できる方希望 通勤が基本だが、部分的な在宅勤務も可能

SOHO情報
(現在こうした
発注を受けています)

・社会福祉協議会
WEBのデザインから製作まで、利用者の方にわかりやすいものを

・都内の私立大学
休講情報など効率よい検索機能を備えたWEB製作を

     
   

 お仕事を希望なさる方はぜひ一度お電話かメールをいただいたうえでこちらにおいでいただき、職業紹介サービス、あるいはSOHOチームにご登録ください。その際、在宅で働く上でおうかがいしたい必須項目としては、

  • 自宅にパソコンとネットワークの環境があり、メールやWEB参照は常時利用できるか
  • ITを活用した、どんな情報処理技術を現在持っているか
  • 週に仕事ができる状況にあるのは何時間か

等があります。

 なんらかの技術をお持ちの方は、それらを明確にお教えください。作成したデータやプログラムなどをメールで送ることができる方は、ご送付いただけますと助かります。

明日のあなたの可能性に向けて、一緒にチャレンジしていきましょう!



 
 
 

 

書籍紹介

 

   

「アクセシブルテクノロジ ITと障害者が変えるビジネスシーン」
  
Gary Moulton他著、(株)ユーディット監訳

 アクセシブルテクノロジとは、障害のある方を支援するコンピュータ技術のこと。この書籍は、単に代替マウスやキーボードといったアクセシブルテクノロジを紹介するものではなく、これらの技術を利用して仕事に携わっている方々の事例を多く掲載し、アクセシブルテクノロジが企業にどのようなビジネス価値をもたらすか、という視点で書かれています。

 日本からは、東京大学助教授の福島智さん、(株)トミーの高橋玲子さん、そして、沖電気工業(株)勤務で「IT技術者在宅養成講座」修了生の中村亜矢子さんの事例が掲載されています。

 以下のサイトに書籍本文の抜粋がありますので、ぜひご覧ください。
   http://www.microsoft.com/japan/enable/default.asp



 
 
 

 

おめでとう!

 

   

沖ウィンテック株式会社に勤務決定

 T.E さん  疾患 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 第19期生)

ユビランド知的財産綜合事務所に勤務決定

 K.H さん  頚椎損傷 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 第13期生)

基本情報技術者試験 合格

 A.Y さん  疾患 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 第20期生)

初級システムアドミニストレータ試験 合格

 K.R さん  疾患 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 第19期生)

マイクロソフトオフィスユーザスペシャリスト(MOUS)試験
 Word2000一般レベル 合格

 I.M さん  脳性麻痺 2種2級
  (IT技術者在宅養成講座 第20期生)





 

編 集 後 記

 節電対策が国をあげて始まりました。企業では、昼休憩に照明を全部落としたり、ピーク時には充電したノートパソコンのみを使ったり。さっそく我が家でもエアコン禁止令を出して窓を開けたのですが、悲しいかな住宅密集地なので、お隣さんのテレビの音やご夫婦の喧嘩声、お子さんのたて笛の音がぴーひゃらり。でもこれも慣れてくるとよいものです。今朝はお隣の焼き魚とお味噌汁のにおいで送り出されました。

(堀込)

 


 

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