重度身体障害者の在宅就労を考える トライアングル
 
 

Vol.34 CONTENTS  2005.3(平成17年)

   

■ATACカンファレンスに参加して

■障害のある方の在宅勤務事例

■グラフィックデザイナー養成講座 卒業制作展の開催

シリーズ「東京都障害者ITサポートセンター便り」

■コース共同グループワークの実践
      〜IT技術者在宅養成講座より〜

■おめでとう!

■編集後記




     ATACカンファレンスに参加して

 

 昨年12月3日、まだ紅葉の残る京都国際会館で行われたATACカンファレンスに参加してまいりました([主催]ATAC 特定非営利活動法人 e-AT利用促進協会)。我々東京コロニーは障害者の「働く場」の獲得を目指して長年施設の運営や教育に携わってまいりましたので、就労支援システムの発表等は大変身近な感がありましたが、ATACの柱である生活支援技術・コミュニケーション支援技術については正直初めて見るものや聞くものが多かった3日間でした。

 当日の内容は多岐に渡っており、「環境制御装置」、「コミュニケーションエイド体験」など、いわゆる支援技術の核となる道具の理論と実践からはじまり、「e-AT支援者に求められるものとは?」など、それを使う側の啓蒙や考察を引き出すものまで準備されていました。中でも特に私が興味を持ったのは「地域の中でITサポートを目指すには」の類の発表です。昨年末より私どもが事業を受託・開始した<障害者ITサポートセンター>が、実際に皆さんの日々の暮らしの中でどのようにニーズと関わっていけるのかが最大の関心事でしたが、予想以上に多くのヒントをいただきました。

 支援技術を学ぼうと当日積極的に集まった方々は、障害のある方やそのご家族、養護学校の先生、OT、PT、ST、施設指導員、看護婦、ヘルパー、福祉機器事業者、学生など本当に様々でした。時代は恐ろしいほどのスピードで情報とデジタル機器を結びつけていきますが、こうした場所で支援技術にきちんと触れた皆さんは、決してテクノロジーを過大評価も過小評価もせず、目の前の方に応じて適切に情報を編集していけるのではないか、と感じたクロージングでした。

[堀込]


  ATACカンファレンス2004のWEB  プログラム詳細はこちらをご覧ください
 

ATACカンファレンス2004のWEB
http://www.e-atac.jp/2004/index.html





     障害のある方の在宅勤務事例

 

下山 利博 さん

(在宅パソコン講習 2002年修了生)
(頚椎損傷1種1級)

株式会社沖ワークウェル 勤務

 
下山さんの作業風景

 

 今回は、在宅勤務を始めて3年になる下山利博さんの登場です。
 以前はコンピュータとも在宅勤務とも無縁の仕事をされていた下山さん。東京コロニーの「障害者在宅パソコン講習」の2年間を終えたあとの就職、どんなご苦労があったでしょうか。



  Q:仕事はお忙しいですか?
   おかげさまで、暇はあまりないですね(笑)。

  Q:下山さんの現在のお仕事の中身やしくみを教えていただけますか?
 

 はい。仕事の中心は沖電気グループの会社のWEB更新が中心です。イントラネットホームページの更新作業もあります。時間は9時から5時まで、お昼休憩は45分。会社や同僚とのやりとりは、仕事の開始、終了などの報告を含めほとんどがメールです。


  Q:お仕事の面白みはどんなところでしょう?
 

 そうですね、社外向けのWEBは公開されるとうれしいですねー。

 あと、面白いというのとは違うのですが、自分の足らないところを気づけることが多いのも興味深いです。在宅でのメールのやり取りの作業は、自分では目いっぱいやってるつもりなんですが、どこか抜けがあるもんなんです。例えば、本文は抜かりなく作成できていてもヘッダフッタに忘れものがあったり。伝わっていると思っても伝わっていないんですね。このような反省や気づきを積み重ねることが在宅勤務としてのノウハウになります。


  Q:今課題に感じておられることはありますか?
 

 うーん、スタイルシートのブラッシュアップなど技術的なことは山ほどありますけど、やっぱり同僚や上司と意思伝達がもっとうまくできればいいですね。作業の説明を正しく受け取っていなくて二度手間、三度手間になることがあります。こういう場合は、メールだけに頼らず、面倒でも電話と重複して連絡することもあります。大事ですね、これ。


  Q:今のお話は在宅勤務の方がよく指摘されることですね。他にも在宅ということで大切だとお感じのことはありますか?
 

 僕の場合ですが、ざっくばらんに仲間としゃべることも心がけています。なかなか顔をあわせる機会がない同僚ですが、イベントや会合で会う時は終わってから色々しゃべりますよ〜。お酒が入っている時も入っていない時も。


  Q:ムードメーカーの下山さんらしいですね(笑)。「仕事をしてよかった」と思われることと、後へ続く方へのアドバイスをお願いできますか?
 

 仕事を引き受けた以上は責任がありますから「やり遂げたい」という思いがあります。そこに仕事への固執が生まれます。今まではあきらめることの方が多かったから、そのことだけでも大きな喜びです。また、現在会社のほうの配慮で、仕事として小中学校で講演をしています。「障害」等について自分の体験を語らせていただくのですが、テクニカルの仕事とは別の醍醐味がありますね。

 アドバイスといえるかどうかわかりませんが、わたくしは常に、与えられたものを提出した時の相手の喜びを想像することにしています。社内の担当者だったりユーザーさんだったり。仕事ってうまくいかないこともあるけど、一つ一つ積み上げていく、これしかないと思っています。



    小学校での講演の記事 http://www.oki.com/jp/
「社会貢献活動」→
「最近の社会貢献活動から」→
「BackNumber」→
「2004年度」→
「葛飾区夏休み小学生親子ボランティア〜」


 

インタビューを終えて:

 丁寧な言葉でわかりやすく話してくださる下山さん。優しく暖かいキャラクターは子供にも大人にも?大人気です。社内の仕事でいったん納品したものを、あとでどうしても画像処理をレベルアップしたいとお願いし、修正された話をうかがいました。その誠実さに時折出る寒いギャグも許してしまいますね。これからもステップバイステップで!

[堀込]




     グラフィックデザイナー養成講座 卒業制作展の開催

 

 職能開発室では就労支援の一環として、グラフィックデザイナーの養成を目標とした講座を2001年2月から2004年10月まで約3年半に渡って開催してきました。1期生と2期生それぞれ3年間という長期間に及ぶ講座も2004年10月で6名の方が修了を迎えました。そこで、学習の成果を一般の方にも見ていただこうということで、12月21日から27日まで卒業制作展を開催しました。

 場所は池袋にある東京芸術劇場で、コンサートや演劇など様々なイベントが開催されている所です。その地下にある展示室を使用し、約40点の作品を展示しました。

 展示した作品は、平面構成、アートビリティ(http://www.artbility.com/)の素材を使った意見広告、各新聞広告賞への応募作品のほか、実際に仕事として制作したポスターなどです。

 本講座の受講生で展示会を開催するのは初めてでしたが、企画から準備、運営までほとんど全てを受講生自身で行い無事成功したことは、大きな自信につながったのではないかと思います。

 今回の卒展では、年末という時期ではありましたが、500名近い方がお見えになりました。お越しいただいた方々、また本講座や卒展の開催にご協力いただいた皆様にお礼申し上げます。

[鶴田]

   
  卒業制作展のウェブサイト(出展作品も閲覧できます)
  卒業制作展のウェブサイト
  http://www.es-team.net/exhibition/



     シリーズ 「東京都障害者ITサポートセンター便り」

 

 前号でオープンをご紹介しました「東京都障害者ITサポートセンター」について、不定期に近況をご報告いたします。

サポーター養成講座に200人の応募!

 昨年11月にオープンしました東京都障害者ITサポートセンターは4ヶ月目に突入いたしました。この間<サポーター養成講座>を2度行ったのですが、2回目の募集では何と20名の定員に200名近い応募がありました(抽選の結果20名を選出)。

 ここでのサポーターとは、センターや障害のある方のご自宅で、IT利用の支援をする人をいいます。具体的には、パソコンやネットの設定支援、Windowsやメールなど基礎的な操作習得のお手伝いなどです。

 集まってくださった方々は受講後口々に「パソコンというものの価値を再度見直した」とか、意外と身近に利用できるテクニックが多かった」など感想を語っておられました。これからこの40名の皆さんは、様々な場所に派遣され、色々な出会いと体験を繰り返されることでしょう。いつの日か、こうした方々の経験をまとめて、広く一般の都民の方も身近に利用できるよう、情報提供の場を考えていきたいと思っています。

[堀込]

   
 
  ↑東京都障害者ITサポートセンター 展示室
ウェブサイト  http://www.tokyo-itcenter.com/



     コース共同グループワークの実践
    〜IT技術者在宅養成講座より〜

 

 職能開発室が実施している「IT技術者在宅養成講座」講座では、既存のソフトを使用して業務のIT化を学ぶ「アプリケーションコース」とプログラミング技術を学ぶ「プログラマコース」があります。今回初めての試みとして、コースの違う二人が一組となり、グループワーク授業を行いました。アプリケーションコースの生徒がWeb全体のデザインと制作を担当し、プログラマコースの生徒がCGIによる「お問い合わせフォーム」を作成しました。

 同じコース内での共同作業とは違い、立場の違う技術者との作業は気を遣う面も多くあります。デザインとプログラミングの接点の部分では、どこまでを自分が担当すればよいのか、自分側の都合を相手にどのように伝えるか、など、悩みながら学んでいただけたと思います。

 今回は3週間という短い期間でしたが、今後も実際の仕事に近い形での演習を企画していきたいと考えています。

[岩田]

  作成したサイト
作成したサイト



     おめでとう!

 

◆株式会社沖ワークウェルに勤務決定

 S.S さん  頚椎損傷 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 '05年修了)

 Y.T さん  頚椎損傷 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 '05年修了)

◆情報処理活用能力検定(J検)準2級合格

 Y.H さん  脳性麻痺 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 受講中)

◆マイクロソフトオフィススペシャリスト試験(MOUS) Word 合格

 I.K さん  疾患 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 受講中)

 S.T さん  頭部外傷 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 受講中)



 

編 集 後 記

 年度末となり、今年もIT技術者在宅養成講座で5名が修了を迎えました。修了後の進路は様々ですが、2年間で学んだことをいかして充実した仕事を目指して欲しいと思います。いろいろと変化の激しい時代の中で、こうした毎年恒例の行事を迎えると少しホッとします。

[鶴田]



 

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