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■重度身体障害者の在宅就労を考える
トライアングル
機関紙『トライアングル』は三菱商事株式会社様のご協力により発行しております。

Vol.49 
CONTENTS 2010.3(平成22年)

■今動き始めた! 障がい者制度改革

■障害のある方の在宅就労事例

■「ユニバーサルベンチャー・ビジネスプランコンテスト」
  es-team橋沢春一さんが ファイナリストに選ばれました!

■「NPOマネジメントフォーラム」 世界各国の青年リーダーが来所されました

■おめでとう

 当事者の方はもとより、家族や支援者はどれだけ長くこの日が来るのを待ったことでしょう。そして、そのことが実現するかもしれない千載一遇のチャンスが今来ている、と言ったら言い過ぎでしょうか。

 多くの方がすでにご存じのとおり、昨年末、新政権の閣議決定により「障がい者制度改革推進本部」が内閣に設置されました。同本部は、障害者権利条約の締結に必要な国内法の整備をはじめ障害者制度の集中的な改革を行うためのもの。本部長である内閣総理大臣の下、全国務大臣が構成員です。また、基本法改正や「障がい者総合福祉法」(仮称)の制定に向けて具体的に議論を取りまとめるのは、その下部組織の「障がい者制度改革推進会議」となっており、障害当事者や有識者らで構成されています。

 委員会は、今夏をめどに基本方針を取りまとめるため、月2回開催、1回の会議は4時間!というハイピッチで議論を積み重ねています。情報保障が細やかな点、全会議がインターネットで中継及び配信されている点などは、これまでの国の委員会と比べ画期的。いやがおうにも新しい時代が来るようで期待に胸が高鳴ります。

 去る3月1日は「雇用」がテーマの一つでした。国際水準的に見た日本の遅れや審議の場の少なさなど検討の急がれるポイントが挙がっていましたが、更に熱く委員が疑問を訴えたのは、福祉的就労と呼ばれる、雇用と分断された働き方です。賃金や権利性における一般就労との差が極端であることに、今さらながら驚かれた方もあるのではないでしょうか。

 我々が推し進めていることの一つである在宅就業(雇用でない、自宅請負型の働き方)も、その実態はまだまだ広く知られてはいません。支援従事者に対する社会的な支えも曖昧なままです。

 今般必要なことは、論点を誰にでもわかりやすく整理し、福祉・労働・教育等を境目なく、合理的につなぐ制度を作ること。そのためにも、職能開発室は、今後始まる予定である各専門部会等に、現在行っている在宅就業調査研究の報告書(注1)を最適な形でお渡しし、巡ってきたこのチャンスを逃さないよう、国民的機運を共に盛り上げていきたいと考えています。

(堀込)

(注1)平成21年度厚生労働省障害者保健福祉推進事業
「重度障害者の在宅就業において、福祉施策利用も視野に入れた就労支援のあり方に関する調査研究」
トライアングルVol.48をご参照下さい。

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成田さんの作業風景
成田さんの作業風景

成田 昌樹さん  (40代)
(脳梗塞による体幹機能障害、言語障害 1種1級)
(es-teamメンバー)

SOHO開始時期
2009年
得意とする仕事
HTML作成および
開発作業に関わるドキュメント作成 等
就労場所
社会福祉法人翠昂会 
身体障害者支援施設「永幸苑」


 今回は、施設の生活の中でSOHO人生をスタートさせた成田さんのご登場です。昨今、入所施設や長期療養病棟の中で暮らしておられる方から、「仕事をしたい」というご希望をよくうかがいます。無理のない範囲で作業時間を確保できれば、成果物をあげること自体は不可能なことではありませんが、やはりそこは自宅SOHOさんとは別の課題もありそうです。インタビューは、底冷えのする2月の中日、千葉県四街道にある長閑な「永幸苑」さんの、暖かい成田さんのお部屋にて行われました。

 

Q:壁にオリンピック中継のスケジュールが貼ってありますね、スポーツ好きでいらっしゃいますよね。

 ええ、バンクーバーは楽しみにしていました。ブログを書いているのですが、そこでも開会式の話題などを書いています。(この時、速報で入った男子フィギュアSPの話等で盛り上がる!)。

Q:さて、お仕事の話に入る前に、SOHOに至るこれまでの道のりを教えて下さい。

 わたしは、病気になる前は、SEやプログラミングの仕事をやっていました。倒れた時の任務は、企業からの依頼により、システムの効率が上がるよう調整をするものでした。たとえばディスクを分散させるとかメモリを増やすとか、改善策のマニュアルなども書いていました。そこに、予想もしなかった98年の突然の脳梗塞。いきなり手足が動かなくなった。35才でした。8年入院して、そのあとこの施設に入所しました。

Q:入所されて、確か1年後の2007年に、わたくしども東京コロニーに「仕事がしたい」とう一通のメールをいただくわけですが、このキッカケは何かあったのでしょうか。

 入所して1年経った頃、電話線を引いてADSLにしたんです、この時からネットを活用するようになりました。自分にできることといえば、キーボードを使うこと。でもこれがあれば、ものを書いたり、やれることの幅が広がる。メモを見なくても色々なことを記憶し入力ができる。

 仕事をしたいと思ったのは、それまではやることもなく、ただただテレビなどで時間をつぶしていたんですが、それよりも遥かにいい時間の使い方だと思ったんです。そこで、ネット検索でコロニーさんを見つけ、「できるかも」とメールいたしました。

Q:この時いただいたメールは今でもとってありますよ。書き添えてあったお仕事の履歴もさることながら、非常に社会性が高く配慮のある書き方だったので、「こんな方が入所施設で何もされていないとはもったいない!」と思ったのを覚えています。その後、HTMLのe-ラーニングを受講していただき、SOHOグループes-teamでのお仕事につながったわけですが、開始1年、率直なご感想をどうぞ。

 やらせていただいたWEBのコーディングの仕事はとても面白かったです。ただ、悔しかったのは、半分くらいのところで入院してしまい、やり遂げられなかったこと。でもそういう時、代わっていただける仲間がいるというのは有難かったです。また、仕事にまつわる相談も、グループ内ではあんまりできないんじゃないかと思っていましたが、開始当初コーディネーター役のデザイナーの方に、動かないFTPの解決法など教えていただき助かりました。一人で考え込まないでよい、というのは大きいです。勝手な希望を言えば、仕事の量はもう少し多くてもいいでしょうか。わたしは仕事ができる日の8割くらい作業を入れたい。今はその半分くらいかな。

Q:入所施設で働く実態については、まだまだ一般の人は理解できない部分だと思います。あくまでも成田さんのケースで結構ですので状況をお教えいただけますか。

 やはり施設にはそこでのルールがあります。時間も決められていますから、慣れるまでは、途中で入浴があったりなんかするとイライラしていました。が、段々と「午後行事がある日は午前に短い作業を入れよう」などと割り振りができるようになり、それは解決しました。

 基本的には、施設の職員の方はわたしが働くことを理解してくれていますし、施設内で収入のある「仕事」をしてもOKです。ただ、スタンスは「自分でやってね」ということ。例えば今やっている確定申告もそう。自分でネットでやっていますが、そうしたことに職員さんの手を煩わせたりはできません。自身の責任のもとでやる、ということです

Q:では、最後の質問です。100人いれば100人の「働く意味」がある。成田さんの「働く意味」は何でしょうか。

 さっきも申しましたが、変な言い方ですけど、やっぱり「仕事で時間をつぶしたい」。テレビを見るくらいなら、ずっとそのほうが面白い。それだけです。幸いにも、納期に追われるようなキツイ仕事でないものをやらせてもらってます。自分自身も、迷惑をかけないで、きちんとできる仕事をしたい。未経験のものにトライするのもいいけど、やったことのあるものや、過去の経験につながるようなものを中心にこれからも頑張っていきたいです。


インタビューを終えて:

 「SEをやっていたと言っても、当時はUSBなんてインターフェースもなかった時代ですからね」と笑う成田さん。技術者だった過去の経験が今につながっているのは自明のことですが、新しい情報もネットで仕入れ独学をかかしません。働く場所が会社だろうと家だろうと施設だろうと、やっぱりこの姿勢があるかないか、なんですよね。

 施設の職員の方々は、いつも我々が打ち合わせなどでお邪魔すると暖かく迎えて下さいます。生活の支えはお任せするとして、もう少し「仕事」に関わる部分はes-teamでキメ細かく支えたいところ。そのためには、在宅就業支援団体の活動にも、福祉施設と同様の意義を認めていただき、公費による支援がほしいところです。

(堀込)

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プレゼンを終えて、安堵の表情に
プレゼンを終えて、安堵の表情に

 「障がい者福祉から、ユニバーサルベンチャーの時代へ」をスローガンに、障害のある人たちの起業を支援するイベント「ユニバーサルベンチャー・ビジネスプランコンテスト」(協力:東京コロニー職能開発室 他)の記念すべき第一回目が開催され、数ある応募者の中から、在宅就労グループ「es-team(エス・チーム)」のWebプログラマーでもある橋沢春一さんと、友人の市川脩さんがファイナリスト5組の中に選ばれました。

 橋沢さんたちのビジネスプラン名は「ユニコン(ユニバーサルコンタクトデバイス)開発事業」。その背景には「いま一番困っているのが携帯電話。上肢が不自由だと小さいボタンは押せず、せっかく持っているのに使えない」と本人が言うように、シンプルながら非常に切実な思いが込められています。自らが望む重要なニーズ。それを自らが解決に導こうとする果敢なものだけあって、プレゼンテーションには説得力がありました。

 残念ながらグランプリ受賞にはいたりませんでしたが、コンテストを通じてあらためて市場調査を行ったり、大手企業や団体に商品開発の提案をしたりと、実現に向けて「試行錯誤したが、全力を尽くした」とは本人の弁。実際に多くの参加者がその必要性を感じ取ったのでしょう、懇親会であらためて熱弁をふるう二人の姿に多くの人たちが集まり、こちらのほうはまさに「グランプリ級」であったと思います。

 グランプリを受賞した大分の団体は、地域に根ざした個性的な取り組みと、積み重ねた実績が評価されましたが、受賞を機に多くの関係者の注目を集め、活動の広がりに大きな効果をもたらしたと聞いています。コンテストも回を重ねていけば、起業を目指す人たちの仕事ぶりやアイデアも顕在化していくことでしょう。「障害のある人の後押しを中心に考えたビジネスプランコンテスト」は、これまでにはないユニークな取り組みであると同時に、雇用中心の施策に加えて、SOHOなどとともに「働くカタチ」を構成する起業支援の仕組みをなすものとして、これからも注目すべきことと考えています。

(吉田)

関連サイト
「ユニバーサルベンチャー・ビジネスプランコンテスト」公式サイト

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 内閣府事業「青年社会活動コアリーダー育成プログラム」の一環として、英国、ドイツ、フィンランドの各国において社会活動(障害者・高齢者・青少年の3分野)に従事する青年リーダー約40名を招へいし、各地の施設訪問や日本青年との相互交流を通じて社会活動の担い手を育成することを目的とした「NPOマネジメントフォーラム」が、この2月に開催されました。このフォーラムの中で、障害者就労分野で「先駆的な取組を行う機関」として、前年度に引き続き当法人がその視察先に選ばれ、約30名の海外青年が職能開発室やコロニー中野の施設を訪れました。

 早朝、大型バスに乗り込んでやってきた一行は、各分野においてNPO等の事業運営マネジャーとして自身の能力を向上させたいというテーマをもって臨んだ人たちばかり。迎える私たちはまず勝又理事長が「東京コロニーの理念」を紹介。戦後間もないころ、結核回復者が仕事と生活の場を自ら創りだしていった設立背景や、60年の歴史を重ねていく中で常に「当事者主体」「民間性」「企業性」を理念として実践してきたこと、そして障害の有無や区別なく人材登用を行ってきた原則や方策について述べていくと、一同が真剣なまなざしで聞き入ってくださいました。

 続いて、職能開発室が20年以上にわたって取り組んできた在宅就労支援事業の実績として、ITを活用して在宅で雇用や就労に結びついた人たちのエピソードを披露。就職先などにおいて後進の指導や育成を手がけるようになり、その循環が次の人材を生み出している事例を紹介すると、その経緯や特徴に対して非常に高い関心を示してくださいました。

 最後はコロニー中野が運営する、「ホットドックの店『ころころ』」のスペシャルランチを召し上がっていただきましたが、前年度同様とても好評で、フィナンシェやアートビリティカレンダーのお土産もすっかり喜ばれた様子。来日して最初の視察先だったこともあり、最初は少し固さもみられた一行でしたが、日本における就労支援機関の特徴的な事例として大きく印象に残ったのではないでしょうか。同時にこの日は、私たちにとっても他の事業所と連携をしながら東京コロニーのありようを振り返り、自身の立ち位置やミッションを外に向けて発信することのできた、とても有意義な機会でもあったと考えます。

(吉田)

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◆マイクロソフトオフィススペシャリスト、マイクロソフト認定アプリケーションスペシャリスト Excel 合格
 K.M さん 心臓機能障害 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

   
 S.E さん
 脳性麻痺 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)
   
 H.H さん
 筋ジストロフィー 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

 



編 集 後 記

 今号で紹介した成田さんのSOHO事例。時間の長短ではなく、働いて生活したいという気持ちそのものの普遍さをあらためて感じました。わずかの時間であっても仕事をしたいという声は日々届きます。さまざまな「はたらく」を社会がどう評価するか。そのことを問われているようにも思います。

(吉田)

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