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■重度身体障害者の在宅就労を考える
トライアングル
機関紙『トライアングル』は三菱商事株式会社様のご協力により発行しております。

Vol.55 
CONTENTS 2012.3(平成24年)

■在宅就業セミナー開催

■障害のある方の在宅雇用事例

■在宅就業支援団体の連携に向けた動き

■シリーズ第17回 東京都障害者IT地域支援センター便り
 センターの移転先が決まりました

■委託訓練「Web制作講座」実施しました

■新職員紹介

■おめでとう

在宅就業セミナーのようす
在宅就業セミナーのようす

 2月18日(土)、在宅就業(就労)に関する2つのセミナーを、港区の日本マイクロソフト本社にて開催しました。近年における情報通信の加速度的発展や、新しいデバイス機器の登場、さらに入力等を支援するツールや技術の普及により、「在宅ではたらく」ことは、就労形態の選択肢としてすでに定着しつつあると思われます。

 しかしこれらの一方で、充分な理解や支援がないまま、在宅という言葉のみが先んじてしまうケースも見受けられます。今回のセミナーでは、支援者および在宅就業者の方々それぞれを対象とした2部構成とし、請負・自営型就業のベースとなる「在宅就業障害者支援制度」の理解・啓発を目的として開催したもので、述べ50名の方々が参加されました。

 第一部は「地域で働き続けるために−在宅就労への支援ポイントを考える」と題し、主に支援者の方々を対象に、在宅就労を取り巻く現状と支援のポイント、厚生労働省の担当官による制度解説、そして実際に就労をされている3名の方のパネルディスカッションが行われました。

 続いての第二部「働くカタチは、ひとつじゃない〜ITがひらく在宅就業の可能性〜」では、スマートフォンなどのアプリ開発事例や活用方法を披露する実践的セミナー、そしてここでも本人や支援者にパネリストとして登壇してもらうなど、多彩な内容を盛り込んだ一日となりました。

 当日は寒い中、支援団体や学校関係者、在宅就業を目指す本人、企業関係者など、さまざまな立場の方が集まり、その中から、この働き方を必要とする方々の現状が特に印象に残ったという話も聞きました。こうした声を耳にすると、日々の業務に勤しみつつも、目線を同じくする方々との意見交換、情報共有を行っていくことの大切さをあらためて知らされた思いがします。

 今後は、在宅「雇用」をテーマにしたセミナーの開催も検討しており、いっそうの支援のつながり、実践のひろがりにつなげていきたいと考えています。

(吉田)

【参考】この日登壇した「es-team」の在宅ワーカーによる当日の様子もご覧下さい。 「es-team blog」

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ヴァイタル・インフォメーション株式会社様
ヴァイタル・インフォメーション株式会社様
http://www.vitals.co.jp/

大河内慎一郎さん (40代)
(筋疾患による体幹機能障害 1種3級)
(職業紹介事業 2008年登録)

ヴァイタル・インフォメーション株式会社
コーポレート本部 総務人事部 総務人事課



仕事開始時期
2011年4月
労働形態
雇用
就業時間
9:00〜18:00
仕事内容
人事、総務、情報システム等一般
就労場所
自宅

Q:1年間のご無沙汰でした。何だかスマートになられて、以前より一層精悍な感じです!

 そうですか(笑)。今、車椅子テニスやってて。そのせいかな。

Q:仕事もプライベートも充実なさっているようですね。では最初に、今の在宅でのお仕事内容をお願いします。

 はい、まず定期ものは入札案件のリサーチがあります。各省庁のサイトやメルマガの調達情報などで、うちの仕事に関係しそうなものがあればチェック。次に人事業務としては、人事データ作成や社員の出向先管理など。社内報の作成はHTMLで記事をおこし、編集、調整。WEBサイトのメンテナンスもやりますよ。

Q:そういえば、御社のWEBサイト、新しく見やすくなっていましたね!

 見て下さったんですか、あれは自分が入社してすぐに入ったプロジェクトなんですよ。広報の人など3人でスタート。昨年11月にHTML版をリリースし、次いで今年の2月にそれをCMSに乗せました。

 途中で技術的にわからないことも出てきてキツイ部分もありましたが、プログラマの社員にも協力してもらって助かりました。

Q:1年足らずでこんな立派なお仕事を…(しみじみ)。不定期業務もあるのですか?

 ええ。社内イントラのデザインやバナー制作、他部門の業務サポートとしてWEBリサーチやスマートフォンのモック制作をしたこともあります。

Q:モックって何ですか?、また,どうやってよその部署から業務依頼が来るのでしょうか。

 モックはサイトの本物を作る前の小さい見本のようなものです。依頼は上司から「他部門からの依頼がある」ことだけ連絡をもらい、あとは直接該当部門の担当者とメールでやり取りします。自分はコンピュータでできるものなら「何でも投げて下さい」って気持ち。重宝がってもらえるのは嬉しいし、一つのことやってるより面白いですよ。

Q:社内の必殺仕事人ですね(笑)。労務関係のことも教えて下さい。会社との連絡や労働時間、出社などはどうなっていますでしょう。

 基本は始業時に電話を入れ、終業時は日報メールを。社内システムで勤務表もつけます。仕事は大体こちらの裁量で進めますので都度の指示は受けませんが、急ぎの折は電話でやりとりです。勤務時間は9時半〜17時だったのですが、半年単位で契約内容の見直しがあり、現在は9時〜18時です。弊社ではランク給制度が採用されているのですが、この見直しではそれがついたのが嬉しかったですね。うちの社長は「ITで社会貢献を」と以前からよく言っておりますが、「会社は本気なんだ、お飾りではないんだ」と、わたしには自分の採用について強く伝わってくるものがありました。プレッシャーもあるけど、その分ガンバらないと、と改めて思っています。

Q:在宅でも労使でよい関係を築いておられることがわかります。秘訣を何か1つ教えて下さい。

 やっぱり日頃のコミュニケーションかな。会社のことが把握できる出社の効果は大きいかもしれません。上司は「情報共有」を重要視してくれていて、月一の社内MTGにはわたしも呼ばれます。会社全体が見えている信頼できる上司です。わたしも、自宅にいても社内ネットでみんなのスケジュールを理解し、会議の時間などを外して連絡や相談はするようにしてますね、そうすればお互い嫌な思いもない

Q:なるほど。話は戻りますが、「これできますか?」と初めての仕事を投げられても、何とかこなして来られたのはなぜなんでしょうね(笑)?

 うーん、何ででしょうかね(笑)。何一つ深く勉強してきたわけではないのですが、ただ調べること、そして応用することが好きなんです。これは意外と大事かも。小さなことでも調べようと思うか思わないか。また、調べてわからなかった時どうするか。何か展開やヒントがあれば、それが蓄積になっていく。今はネットもあるし、誰でも平等に調べることはできるはずです。高度なことをやれなくてもいい。調べて応用することの繰り返し、しつこい積み重ね。これって「知りたい」と思う執念なのかな(笑)。

Q:その執念の裏には、仕事への責任感などもあるのでしょうね。最後に、ご自身の課題と、次へ続く方へのアドバイスをどーぞ!

 課題は自分のこの先です(笑)。うちは人材育成に注力する社風で、e-ラーニングなども受けさせてくれます。この先何をどう学んでいくか。今後どういう風に会社に貢献していけるかということですね。社内有志の研究グループなんかにも積極的に参加したいと思っています。

 アドバイスというのは難しいのですが、わたしを車椅子テニスに誘ってくれた人が使っている言葉で共感したのが「意志あらば道あり」。やっぱり「働きたい」という思いを捨てないで。コロニーのこの就労事例で、入所施設の方の記事を読みましたよ。常識的には入所施設で普通に働くって難しいですよね。でも事実、立派にITを駆使して働いておられる。「意志あらば道あり」、そういうことなんじゃないかと思います。

 

インタビューを終えて:

 このやり取りからは容易に今の業務に携わられたような印象を受けますが、実はここ数年、何社かの試験に座礁しながらチャレンジを続けて来られたのでした。それだけに、入社式の帰り道わざわざ報告に寄って下さった時は、震災後で街も職場もまだ暗かった中、ポっと光が差したように暖かく嬉しかったものです。
 これからの更なるジャンプアップも、ずっと応援していますからねー!!

(堀込)

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 今号の冒頭記事でも触れた、「在宅就業(自営・請負型)」という働き方は、改正障害者雇用促進法によって今から6年前に登場した「在宅就業障害者支援制度」およびそれに基づいて認可される「在宅就業支援団体」(現在、全国で19団体)の発足により、法的な後押しが始まりました。しかし、当法人のように制度以前から草の根的に活動を行ってきた団体もあれば、地域ニーズに応じて新たに発足した団体、就労支援施設が団体として認可されたケースなど、多様な背景や規模、価値観のもとでそれぞれの活動を展開しているのが実情です(詳しくは後述の「報告書」(※1)ご参照ください)。

 また、この制度がスタートして3年目に、本誌47号(※2)において、「制度の一巡」を機とした検証の必要について述べましたが、特に支援団体の運営基盤の改善や、団体数の増加については大きな進展を見ることなく現在に至っています。時折、行政もその普及・啓発を推し進めてはいますが、在宅就業を希望する人の数はそれをはるかに凌駕する勢いです。

 こうした状況を受けて、今後、支援団体はどうあるべきか、団体同士による情報の共有と連携を築こうという機運が、協議会(仮称)の設立という構想によってようやく高まってきました。具体的な方向性はこの先の話になりますが、団体や在宅就業者の声をまとめ、伝えていくことは行政サイドも求めていることでもあり、また、在宅就業支援制度の改善にとどまらず、国連の障害者権利条約の批准に向けた一連の制度改革や各法改正、新法構想の動きの中にもかかわっていく必要があると考えます。各団体は、改善点や思いこそ様々ですが、現行の制度上、ほぼ共通して運営基盤に課題を持っています。「在宅で働く」という就労スタイルの存在を社会の中で確たるものにするためにも、この先の連携・連帯は不可欠であるように思います。

(吉田)

※1 「重度障害者の在宅就業において、福祉施策利用も視野に入れた就労支援のあり方に関する調査研究」
   (2010年3月、東京コロニー発行)

※2 「この先どこに向かうのか? 在宅就業支援制度 〜更新手続後の雑感〜」
   (2009年7月、トライアングルVol.47)

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 当センターは、エレベーターや建物の老朽化が進み、防災上の観点から、今年度中の移転を予定しております。場所は「東京都社会福祉保健医療研修センター」の1階です。

東京都社会福祉保健医療研修センター
東京メトロ丸の内線「茗荷谷」駅下車、徒歩8分

 移転先のビル管理の都合上、開館時間や開館日等が変更になる可能性がございます。決定しだい、サイトに情報を出してまいりますが、皆様のご理解ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

(堀込)

●お問い合わせ先
東京都障害者IT地域支援センター
〒112-0006 文京区小日向4-1-6
東京都社会福祉保健医療研修センター1階 (最寄駅:丸ノ内線「茗荷谷」駅)
電話 03-6682-6308  FAX 03-6686-1277
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グループワークで作成したWebサイト
グループワークで作成したWebサイト
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 今年度も委託訓練e-ラーニングコース「IT講座Web制作基礎・応用」を実施し、12月に無事終了しました。今年は4名の方全員がほぼ100%の出席率で、意欲的に学習をされました。最後のグループワークでは、旅館のサイトをリニューアルするという課題に挑戦、ツイッターやブログなど流行の技術も取り入れ、実用レベルのものに仕上げることができました。


納期直前にはディレクタとのメールのやりとりが分刻みで飛び交い、体力的にも精神的にも大変な思いをしたようでしたが、「在宅で仕事をする」ことが夢ではなく現実としてイメージできるようになったようです。それぞれの進路で、今回の経験を活かしていただければと思います。

(岩田)

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新職員  山崎義則

 新年度よりIT技術者在宅養成講座を担当致します。
 受講生のみなさんが、講座を通じてパソコンを生活の便利アイテムとしてだけでは無く、ビジネスツールとして活用できる専門知識を学びながら、加えて目的意識や問題解決意欲など、主体的な就労姿勢を養えるよう努めて参ります。

●経歴
ソフトウエア開発会社にて14年間、採用・人事・社内教育等の人材育成も担当しながら、システムエンジニア・プログラマーとして勤務。本年2月21日よりトーコロ情報処理センター職能開発室に。

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◆株式会社東京商工リサーチにて在宅勤務決定
 A.K さん 両膝関節機能障害 2種4級
 (職業紹介事業 2012年登録)

A.Kさん
   
◆株式会社シーイーシーにて在宅勤務決定
 N.T さん 頚椎損傷 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 2008年修了)
N.Tさん
   

◆ITパスポート試験 合格
 S.E さん 脳性麻痺 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 2011年修了)

S.Eさん
   
◆マイクロソフトオフィススペシャリストWord 合格
 K.R さん 筋ジストロフィー 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)
K.Rさん


編 集 後 記

 今号で紹介した「在宅就業セミナー」では、ともに働く在宅ワーカー数名にも登壇してもらいましたが、日ごろより仕事を通じて接していたつもりが、初めて聞く意見や思いなどがあることに気づかされました。顔を合わせる機会が少ないからこそ、普段のコミュニケーションやミッション共有など、ごくあたりまえのことがチームには必要であると、今さらながら痛感した一日でもありました。

(吉田)

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