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■重度身体障害者の在宅就労を考える
トライアングル
機関紙『トライアングル』は三菱商事株式会社様のご協力により発行しております。

Vol.60 
CONTENTS 2014.11(平成26年)

■難病の方の本当の就労支援はこれから

■障害のある人の在宅雇用事例
山田主税さん 「自分にとって大事なのは“持続可能なやり方”」

■在宅で働くために、あなたに足りない力は何?

■シリーズ第22回 東京都障害者IT地域支援センター便り
タブレット対応のインターフェイスが続々登場

■おめでとう(資格取得、就職)

 2011年の障害者基本法の改正を受けて、障害者総合支援法では難病等を障害の範囲としました。それにより、障害者手帳の取得にかかわらず、2013年4月から難病の方も障害福祉サービスが使えることになったことは皆さんもよくご存じのことと思います。

 さて、では現在どれくらいの難病の方が就労支援の分野で福祉サービスを利用されているでしょう。国立障害者リハビリテーションセンター臨床研究開発部の調査(H26.8)では、就労移行を含む福祉サービス事業所で「難病のある人が利用していない」と答えたのは84%で、理由の内訳の約8割が「利用相談がない」でした。

 また、「利用している」の16%のうち、「障害者手帳を持っていない」人はわずかに6%ですから、利用している方も「難病」というよりは「障害者」としてのサービス利用という印象で、根治が難しい疾病を持ちながら就労を目指す方への多様な後押しは始まったばかり、というところです。

 難病の方への就労支援の難しさは、全国の難病相談支援センターの調査においても実態があがっており、「就労をすることで病状が悪化しないか」と思い悩むことや、病気により職種を余儀なく制限されることもあるため、「現実を受け止めながら前へ進むための気持ちの支え」の重要性などが語られています(「希少性難治性疾患患者に関する医療の向上及び患者支援のあり方に関する研究」H26.1)

IT技術者在宅養成講座事業 修了生の障害別人数
IT技術者在宅養成講座事業 修了生の障害別人数

 これらを受けて、では私ども東京コロニー職能開発室の在宅就労支援はどれくらいの難病の方のご利用があっただろうかと、このたび改めて障害や疾病の種別を確認してみましたところ、1990〜2014年まで(25年間)の在宅講座修了生114名のうち30名近くが難病(130疾患)の方であることがわかりました。下のグラフにあるように、その他の障害や外傷と比較し、なんと難病の方が最も多いという結果でした。

 障害名や疾病名に関わらず、在宅での学びや労働の保障が、外出しにくい方々の人生をいかに前向きにできるかを改めて考えさせられます。支援の枠を広げるミッションが、我々にも課せられています。

(堀込)

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山田主税さん
(筋ジストロフィー 1種1級)
(在宅パソコン講習2013年修了生)

株有限会社 YPP(業務委託)
労働形態
フリーランス(請負)
有限会社 YPP 様(事務代行業)にワーカー登録し、業務委託契約で就労
仕事開始時期
2013 年4月
就業時間
14 時から 23 時までのシフト時間帯の中で実労働 6 時間程度。体調等により変動。月平均 14 日労働。
仕事内容
不動産物件の回線調査(インターネットによる調査)
就労場所
自宅
仕事上の連絡手段
メール、電話(登録会社およびクライアントとのやりとり)
山田さんの仕事のようす

Q:まずは差支えない範囲で障害の状況と、今の働き方を選んだ理由を教えてください。

 僕の障害は筋ジストロフィーです。大学時代は、将来的な事を考え、教職課程や司書課程を取得しましたが、体力面を考慮するとそうした仕事は現実難しいと思い、市役所に就職相談した際にコロニーの IT 技術者在宅養成講座を知り受講しました。

 受講修了後の仕事については、通勤は無理だと判断せざるを得ませんでした。睡眠時での吸引回数が多いため、朝起きる時間が遅くなることや、長時間同じ姿勢で座っていると腰が痛いこと、急激な気候の変化で体調悪化や吸引を必要とする時があることからです。在宅勤務だとしても、雇用ですと一定の時間は拘束されますし、安定した勤務が望まれます。そこで、ある程度自分の体調や都合で働く日を選べるフリーランス(請負)の形を選びました。

Q: 今の仕事の内容を教えてください。

 簡単に言うと不動産物件についての回線設備の調査です。引っ越し先の物件(集合住宅 or 戸建)にどんなインターネット回線設備(光回線・ADSL・CATV)があるか知りたいですよね。それを調査して引っ越し業者のオペレータの方につなぎます。正確性が求められるので当初は緊張しましたし、失敗したこともありました(笑)。

Q: その失敗と対処を、うかがえる範囲でお願いできますか?

  調査結果はネット上のデータベースに書き込むんですが、これは書き込んだら戻せません。ある時、夜の遅い時間に間違って書き込んで焦ってしまって。僕はフリーランスなんですが、この仕事はワーカー登録している「有限会社 YPP」さんからいただいているので、こちらの社長に電話で状況を伝えて何とか対処していただきました。社長は普段から「困った時、事務所に繋がらなかったらわたしに電話して!」と言ってくれるので心強いですね。

Q: 社員ではないけど、委託元の社長さんや登録ワーカーさんが一つの組織として働いておられるのですね。

 そうです、ワーカーには夜中から仕事してる人もいて、24 時間誰かがどこかで働いています。内部的な SNS でつながっていて、質問をすれば誰かが気づいて返事をしてくれる。その返事が間違っている時もあるけど、それも誰かが正してくれる(笑)。「一人でやってるのではないな」ってわかりますね。 教育も、セキュリティ研修はテレビ電話で受講しますし、複数人数でやる会議や個別のガイドライン研修もあります。疑問はすぐに聞くことが鉄則です。

Q:ICT があってこその今時の働き方ですね。そんな中で就労上気をつけることは何でしょう。

 計画性とセキュリティかな。毎月、仕事が可能な日と 1 日分の希望件数を決め、シフト表を送ります。無理すると体にきちゃって周囲に迷惑をかけるので、これをうまく組立てることが大切です。また、ウイルスバスター等のセキュリティアプリは必須ですが、ネットを使わない時はネットから切っておく、なども大事ですね 。

Q:在宅ワークを始める前とあとで「仕事観」などに変化はありました?。

 「ミスをなくす」ということの本当の意味が、最初のころは焦るばかりで見えていなかった。ネットワークの交流で次第に見えてきました。仕事が早めに終わった時や質問しなくてすんだ日は「うまくいった」っていう充実感がありますね。

Q:最後になりますが、在宅ワークの今後の課題と夢をどうぞ!

 時代とともにネット環境も変わりますし、セキュリティ対策もどんどん厳しくなるので、経費の課題はあります。もっと効率よくやりたいけど、色々な意味で自分にとって一番大事なのは“持続可能なやり方”。それを目指してこれからも自分なりに頑張ります。

インタビューを終えて:

 作業の間違い防止に、自分で Q&A をつくるとおっしゃってた山田さん。2年間の講座がしっかり花開いていて嬉しくなりました。ご趣味の近現代史探究のほうも頑張ってください!。

(堀込)

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 「在宅で働く」というとデータ入力やテープお越しといった比較的軽微な作業から、Web 制作やプログラミング等と言った高度なIT知識・技能を必要とする仕事まで、様々な仕事内容が思い浮かびます。しかし、どうしても具体的な仕事内容にばかり目が向いてしまい、仕事をする上で最も重要な「ビジネスマンとしての振る舞い」というものにスポットを当てて考える機会が少ないのが現状です。

 私共が実施している「IT技術者養成講座」では、2年生になると技術の習得に加えてビジネスマナーや実務上の進め方など、就労に向けてより実践的な内容を取りあげます。その一環として、当法人内の他事業所に協力を仰ぎ、「模擬就労」という形で本番さながらの体験型実習を行っており、本年も 7 月に実施致しました。

 このカリキュラムは、技術的な内容では無く仕事の進め方(作業手順では無く、慣例・マナー等)や仕事相手との接し方など、机上の学習では学べない内容に重点を置いています。また、在宅勤務特有の問題である健康管理についても、実際の作業を通じながら感じ取ってもらうなど、現実味を持って体感してもらいました。

 ここで浮き彫りになった「足りないもの」の一例をご紹介いたしましょう。多くの受講生の皆さんが抱える課題です。

 といった、いずれも当たり前のようでいて、実践にならないと気付けない内容ばかりです。

今日からできるあなたの改善ポイント

 この結果を受け、受講生の皆さんには「今日からできるあなたの改善ポイント」として、具体的な行動指標を各自に 3 点ほど示させてもらいました。

 あれから 3 ヵ月が経過しましたが、ビジネスメールをはじめとして、皆さんポイントは守られています。立派な社会人にまた一歩近づきました。

(山崎)

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左上から時計回りに、
「なんでもワイヤレス」「Miyasuku Keypad」
「でき iPad。」「ZyBox 2 SC(ザイボックス)」
「ワイヤレススイッチボックス S」

 タブレットやスマートフォンが右肩上がりに普及しておりますね。今年の福祉機器展でも多くの展示が見受けられました。当センターでは「私にも使えるかしら…」というご相談をよくいただきますが、時にはご案内したその足でショップへ向かい購入なさる方もおられるほど、生活を支える身近で便利な道具となってきております。

 タブレットをスイッチで使うために必要なスイッチインターフェイスも、ここ数ヶ月で新たに続々登場してきております。ホームページに現在5機種を掲載中ですが、貸し出しをしている販売店さんもあります。当センターに展示している機種もありますので、お試しになりたい方は、ご予約のうえご来館ください。

(今津)

●お問い合わせ先
東京都障害者IT地域支援センター
〒112-0006 文京区小日向4-1-6
電話 03-6682-6308  FAX 03-6686-1277

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<就職おめでとう>

◆株式会社 TBS テレビにて在宅勤務決定
 M.K さん 変形性関節症 2種3級
 (IT 技術者在宅養成講座 2014 年修了)

M.Kさん
   

◆東京事務代行株式会社にて在宅勤務決定
 I.H さん 両下肢機能 2種4級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

I.Hさん
   

◆株式会社セラクにて在宅勤務決定
 K.M さん 疾病 1種2級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

K.Mさん
   

◆株式会社セラクにて在宅勤務決定
 I.N さん 精神疾患
 (職業紹介2014年登録)

I.Nさん
   

<資格取得おめでとう>

ITパスポート試験 合格
 K.M さん 疾病 1種2級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

K.Mさん
   

 T.T さん 筋ジストロフィー 1種2級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

T.Tさん
   

 M.R さん 筋ジストロフィー 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

M.Rさん
   

 K.Y さん 筋ジストロフィー 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

K.Yさん
   

◆マイクロソフトオフィススペシャリストExcel
 M.T さん 先天性ミオパチー 1種2級
 (IT技術者在宅養成講座 2014年修了)

M.Tさん
   

 K.M さん 疾病 1種2級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

K.Mさん
   

 T.T さん 筋ジストロフィー 1種2級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

T.Tさん
   


編 集 後 記

本機関誌「トライアングル」の発行が、運営の事情で少し間があいてしまいました。大変申し訳ございませんでした。「楽しみにしてます」、「インタビューは参考になるよ」と皆さんからお声をいただき、あらためてお届けする意味を確認いたしました。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

(堀込)

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