報告書の目次へ | 東京コロニー職能開発室のトップへ

重度障害者の在宅就業において、福祉施策利用も視野に入れた就労支援のあり方に関する調査研究

第3章 社会が後押しする新しい在宅就業支援のイメージ

 この章では、2章であがった課題や論点をもとに、在宅就業支援を、現在の雇用対策の中に位置づけられた視点から、福祉就労(施設就労)も含めた社会的支援に拡大して検討してみる。

3.1 「働きたい」の声を、社会で支えられる制度へ

(1)新しい制度概要の検討

 「在宅で働きたい」というただひとつの理由によって、数少ない在宅就業支援団体に、これまであまりにも多様なニーズが集まっていた。この現実を何とかせねば、今後、ITやネットワーク社会がどんなに発展しようとも、小さな作業の可能性を確実に「仕事」につなげることはできない。そこで、この研究の骨子である「福祉就労の中での在宅就業支援の可能性」を中心に、ここでは検討していきたい。

 障害者自立支援法の廃止が決定し、総合福祉法(仮称)や周辺の制度設計がどのように変わっていくか未知数ではあるが、とりあえず本報告書では、現段階での就労移行支援、就労継続A/B型をひとつのカテゴリーとし、「一般雇用」のようなカテゴリーも併せ、それぞれが在宅就業に適した人を受け入れられるよう役割を考慮したい。これまで「通所が基本」であった福祉就労にテレワークの手法を取り入れ、週1日〜毎日まで、その人の状況にあわせ、可能な限りこれを一労働形態(一訓練形態)とする。これにより、重い障害や疾病ゆえに要支援度が高く通所が難しい方でも、一定の社会支援を受けて在宅で働く(訓練する)ことがある程度保障される。通所できる日は、施設はサテライトオフィス的な機能となるであろう。

<< 施設外支援について >>

 具体的に制度イメージを展開する前に、2008年4月、厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課長より発せられた「就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)における留意事項について」の通達を説明しておきたい。この中には、『就労移行支援事業、就労継続支援事業(A型、B型)においては、職場実習や求職活動、在宅就労など、事業所以外の場所での活動(以下「施設外支援」という。)も重要であることから、下記の要件を満たす場合は、原則年間180日を限度として報酬の算定の対象とする。』とあり、ここに初めて福祉就労の中で「在宅で働くこと」を視野に入れた訓練・就労が位置づけられた。通達の中の一文ではあるが、このことはキーポイントであり、ここから新しい支援が展開できるものと期待している。

① 在宅就業を後押しする現在のイメージと未来の改善イメージ

 図1は、現在、「在宅で働くこと」を誰が(どんな要素が)支えているのかを描いたものである。縦は在宅就業者(希望者)の働くことについての準備度、横は就労可能時間とした。

  このイメージでは、週20時間以上働けて、一定の就労準備度がある人については、「在宅雇用」の道が開けており、事業主によって必要な配慮を受けながら働けるとしている。また、就労準備度は高いが時間に制限がある方等は、自営業として請負業務を自分で受注している場合もあり、「在宅自営」として位置づけている。一方、就業経験や訓練経験が乏しく、きわめて就労(訓練)できる時間が短い人については、2章で見たように、病院内や教育現場のスタッフ等によって、一部生きがい的な活動も含めボランタリーな支援があるとしている。その3つの場合を除く部分が、「在宅」というニーズでほぼ在宅就業支援団体の支援の範疇になっていると言える。あまりに広範囲を受け持っているため、支援対象者を育て「雇用」や「在宅自営」に導くことが円滑に行なえず、人の流れがあまりない状態をイメージしている。

<図1「在宅で働くこと」を支援する現在のイメージ>

図1「在宅で働くこと」を支援する現在のイメージ

 一方、図2は、今後「在宅で働くこと」を誰が(どんな要素が)支えていくかの改善イメージである。縦と横は図1と同様である。

 このイメージでは、働ける時間にこだわらず、就業準備度が十分でない人については、福祉就労のカテゴリーでも在宅就業支援(施設外支援)ができるようになっている。それにより、2章であがった資質的教育の必要性のある人や生活支援が必須である方などについては、時間をかけて、福祉就労の場で育てることができる。週に数日でも通所ができるならそういった通勤の復帰リハビリも含め、精神障害や発達障害等の方の利用も可能である。そうすることにより、在宅就業支援団体に余裕が生まれ、支援団体を必要とする度合いが極めて高い方(本来的なニーズの方)を受け入れ、支援レベルを上げることが可能となる。その結果、在宅自営者や在宅雇用につながる人を増やしていけるとし、図2においては、在宅自営や企業の円の部分が図1よりも大きくなっている。また、在宅就業支援団体の右肩上がりの矢印は、そうした人の動き、支援の動きを示している。

<図2「在宅で働くこと」を支援する未来の改善イメージ >

図2「在宅で働くこと」を支援する未来の改善イメージ

② 改善イメージの中の在宅就業支援団体の意義

 ①でも記したように、「在宅しかない」と駆け込んで来た人をニーズや適性に応じて福祉就労(施設外支援)にも誘導できるという選択肢が増えれば、これまでのようなゲートキーパーの役目から、一定の負担や非効率性が解消されると予想できる。

  また、受け入れた対象者が生活訓練で就労時間を増やせる見込みがある場合などは、施設と連携することで有効なケースが考えられる。逆に、就労施設がIT作業によるテレワーク手法を開始しようとする場合、技術的なスキルはもとより、人材のコーディネート力が必要で、一朝一夕にできるものではない。こうしたことを考慮すると、改善イメージの中では、在宅就業支援団体はアドバイザー的な位置づけになり、福祉就労の施設外支援を牽引していく役目であるということが言える。

  一方、たとえ福祉就労の分野が在宅での訓練や就労を引き受けられる実力を持ったとしても、投薬の関係で生活リズムが不規則である方(夜しか作業不可能等)、また、生活施設・医療機関に入所していて、現段階では制度として就労施設が利用できない方など、福祉就労を利用することが適さない人は必ず存在する。したがって、在宅就業支援団体の役割は、やはり引き続き「在宅で働く」を包括的に支援する機関として位置づくであろう。

③ 改善イメージの中の福祉就労施設の意義

  福祉就労側においては、障害の進行や体調不良により定期的な通所が困難になる方もあり、そういった人々の就労継続には大きなメリットとなるであろう。また、在宅就業支援団体に駆け込まざるを得なかった人や、さらにはそれすら叶わなかった人たちを新たに取り込むこともできる。訓練と就労の計画的なサービス提供者として、在宅就労における「もうひとつの柱」としての役割を地域で今後は担っていくこととなる。2章で見たように、福祉就労は全国にあり、支援対象も様々であることから、より在宅で働くことの底辺が広がっていくと思われる。

  実は、ヒアリングの折に、すでにテレワークの手法を使った福祉施設が増加の傾向であることを知った。横浜の就労移行事業を行なっているある特例子会社では、昨年春の段階で神奈川県に相談し、在宅にて訓練する方法で「施設外支援」を行なっている。また、すでに松山市には就労継続A型施設で「施設外支援」を実施している株式会社もあった。就労継続A型は、ベースは「支援つき雇用」であるから、能力軸と時間軸の比較的高い人たちにとっては、一般就労に比べて、より配慮のある在宅雇用が実現可能となる。

④ 具現化の要件

 ①の図2の改善イメージを具現化するためには、大きく2つの条件が必要である。まずひとつめは、福祉就労側の在宅支援を一般化していくために、「施設外支援」の認識を、例外的措置のようなものから脱却させ、日常的に利用しやすい仕組みにしていくこと。よりわかりやすい表現によって新たなそして柔軟な制度編纂が望まれる。

 そのための「施設外支援」の条件を、粗い段階ではあるが下記のとおり考えてみた。

  1. 福祉就労サービスの位置づけの中から、通所の条件を排し、純粋に「作業提供が行われ、そこに相談、助言等の支援が発生する。」ことに対して報酬が認められる、新たな制度が設けられること。
  2. 施設外支援利用の申請にあたっては、制度単独での利用のほか、既存の通所サービスを受給しながら、本件に該当する事態が生じた場合(通所困難により作業提供場所の変更が余儀なくされる場合)に、転じて利用可能となること。
  3. その際、作業提供が行われる場面として、当事者の居宅のほか、病院、入所施設、グループホーム、短期入所事業所なども認められること。
  4. 既存の在宅就業支援団体や障害者就業・生活支援センターと課題を共有し、必要に応じ業務提携や相互のバックアップが図れること。
  5. また、福祉就労事業所は、これら通所実態を持たない利用者の方々に、事業所が持つ他の機能(医療相談、福祉相談、短期入所など)も含め、総合的な福祉サービスを提供出来るように体制を整えることができれば、更に利用される方にとっての有益性が増すことに繋がるのではなかろうか。

 さて、図1の具現化のための要件2つめは、福祉就労における在宅支援(施設外支援)の導入と平行して、あらためて在宅就業支援団体の安定・発展のために、一定の公的支援策を講ずることである。2章で明らかになった支援団体の疲弊した姿では、要支援度の高い障害者をきめ細かにサポートなどできないはずである。

ページの先頭へ

報告書の目次へ | 東京コロニー職能開発室のトップへ