重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.3 1994.11(平成6年)

スクーリング開催!
第2種情報処理試験合格の体験記(中島徹治/11期生)
障害のある方の在宅勤務調査研究受託
「障害者の情報処理教育と就労を考える」びわ湖会議
ONE・STEP企画のコーナー

「モジュール分割とプログラム
開発の進め方」のスクーリング開催!

 実際の開発体験は、机上の詰め込み式だけでは得ることのできない豊富な成果が期待できます。 そこで、在宅講習の初の試みとして講習生がチームを組んでプログラムの開発を体験する「グループワーク」を取り入れる事にしました。 このプロジェクトは10月末からスタートし、来年1月末に終了する予定です。全てパソコン通信を介して行ないます。

 講師も講習生も初めての体験ですから、不安はあるもののそれ以上の成果があるものと期待しています。 このグループワークは、在宅就労のメリット・デメリットを検討する上でも有用な手かがりになるのではないかと思っています。

 そこで、このグループワークを開催するにあたって、去る10月5日(水)に東京都重度身体障害者在宅パソコン講習生の11期生(2年目)5人を対象に「モジュール分割とプログラムの開発の進め方」の日帰りスクーリングを開催しました。

 スクーリング(年に3回程度実施)は在宅講習のフォローアップ的な位置づけとして実施していますが、講習生が親睦を深めることも狙いの一つにあります。 

 今回のスクーリングも恒例により「まずは腹ごしらえ!」と昼食会からスタートしました。講師は某大手ソフト会社の現役 SE(経験10年男性)のボランティアにお願いしました。 内容は、「モジュール分割とプログラム開発の進め方」です。モジュール分割はプログラムを開発する上で必須の知識です。 講師の講義は現場で実践している話が中心で参考書の説明ではありませんでしたから、講習生も目を輝かせて聞き入っていました。


第2種情報処理試験合格の体験記
中島 徹治 23才 頚損1種1級(在宅講習11期生)

 僕が、第2種情報処理試験を受けようと決めたのは、昨年の暮れでした。 前からコンピュータの勉強をするなら、この試験に合格する事を目標に勉強していきたいとは思っていたのですが、夏ごろに過去の試験問題を初めて目にした時は、ほとんど問題の意味さえもわからず戸惑っていました。 でも、せっかく勉強してきているのだから、自分の実力を試す意味で挑戦してみようかなと最初は軽い気持ちで決めたのです。

 しかし、年が明けてだんだんと勉強していくうちに、自分の中で試験に関する気持ちが変わっていきました。自分の力を試すだけでなく、合格をするんだと強く思うようになったのです。 それから、試験までの約2か月間、全力で一生懸命勉強しました。 一番心配だった時間内に全部答えられるだろうかという悩みも模擬試験をやっていくうちに、時間配分がわかり、なんとかなるようになりました。

 そして、試験当日を迎えました。やる事はやったのだから、後はその力を悔いが残らないようベストを尽くし100%発揮すればいいじゃないかと自分で自分を奮い立たせ試験に臨みました。

 その結果、合格する事ができました。 合格を知った時は、一瞬何が起こったのかわからなくて、ぼーっとしてしまいました。 そして、しばらくして合格の実感がだんだんとわいてきました。 その気持ちは、嬉しさと喜びと満足が重なりあったなんとも言えない気持ちでした。 ただその時はっきりと思った事は、一生懸命頑張れば、その後には人によって時間差はあるかもしれませんが、必ず頑張ったなりの結果がでるということでした。

 これからも、チャレンジ精神を忘れないで、ひとつレベルアップした目標を持ち、さらに今まで以上に努力を続けて頑張っていきたいと思います。


障害のある方の在宅勤務調査研究受託
 この度、社会福祉法人東京コロニー(トーコロ情報処理センター)として、日本障害者雇用促進協会から「在宅勤務方式による重度障害者の雇用の促進に関する調査研究」を平成6年度から3年間の研究事業として受託しました。

 在宅勤務者*については、平成3年4月1日から雇用保険制度と同時に身体障害雇用率制度においても適用の対象とされるようになりました。 この背景には、通勤が困難な重度障害者などの雇用の進展につながるという期待がありました。

 しかし、実際には在宅勤務者の事例、雇用管理の方法、環境設定等について、まだまだ研究する余地が残されていることもあり、企業が重度障害者のために在宅勤務方式による雇用を積極的に進める状況にないのが現状です。

 そこで、今回の調査研究の目的は、在宅勤務を実際に実施している企業、身体障害者雇用率制度等において労働者として認定されている障害者の実態を調査研究し、企業に在宅勤務方式による雇用の方策をマニュアル等により示せるようにすることです。

在宅勤務者*=労働日の全部またはその大部分について事業所への出勤を免除され、かつ、自己の住所又は居所において勤務することを常とする者。

「障害者の情報処理教育と就労を考える」
びわ湖会議開催

 「'94 障害者の情報処理教育と就労を考える−びわ湖会議」は、滋賀県大津市の琵琶湖ホテルにおいて、10月19、20日の2日間に亘って開催されました。

 今回は『変動期における情報処理技術者の養成と障害者の就労支援を探る』をテーマに、下表に示す日程で情報処理産業界の激変の中にあっての障害者の技術教育と就労の現状と将来を探ろうとするものでした。

 1986年に第1回の会議がもたれて以来、2年毎に開催されてきたこの会議も今回で5回目となり、参加者も毎回増え続けています。
これは、通産省、労働省、経済団体連合会、情報処理学会、全国社会福祉協議会などの後援を得て、行政、企業、教育・福祉関連施設の担当者や当事者などが一堂に会するわが国唯一の横断的な会議として特徴を成していることによるものです。

 当センターは会議の事務局の一端を担うと共に、企画の段階から深く関わり、バブル経済崩壊後の情報処理産業界の変化について広く関係者に知って戴く内容にしたつもりです。 参加者からは特に2日目の江村潤朗中央情報教育研究所技術顧問の特別講演「新情報処理技術者養成指針の意味するもの」が衝撃的だったとの声がありました。 このことを私なりに解釈するならば、『これまでの技術者育成方針は”普通自動車運転免許”をとらせるものであったが、今後はこの育成方針を”大型や特殊などの免許取得”に格上げし、この免許を持つ者だけを情報処理技術者と呼ぶ』と言っていると思っています。

 今の時代を表する言葉に「本物を問う」がありますが、まさしくそのことが前面に出た会議であったと思っています。

(トーコロ情報処理センター 所長 勝又和夫)
 

トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 〜 パソコン通信講座を開催して 〜 

 去る8月25日と26日にONE・STEP企画(トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ)主催の身障者向けパソコン通信講座は昨年に引き続いて行われ、 今年は、NECの C&C 新宿校をお借りして開催しました。

 当日は受講者6名、ボランティア4名、ONE・STEP 企画の講師2名、トーコロ情報処理センターの職員1名、それにNEC さんから見学者が数名来られました。

 会場は講習会専用とあって、非常に良く設備が整っていました。 パソコンは受講者一人1台ずつあり、講師の操作を受講者のモニタに写し出すことや受講者の様子を講師側のモニタで確認することができます。 講師が受講者の所へ巡回する必要はなく、限られた時間を有効に利用することができました。 特に、我々のように講師が車イスを使用している場合、なおさら好都合です。

 講習会ではパソコン通信の魅力から説明を始め、実際にネットにアクセスし、パソコン通信の凄さや便利さ、面白さを体験して戴きました。 受講者からは「アットホームで落ち着いて学ぶことができた」と話しておられました。

 小さな規模の講習会でしたが、沢山の皆さんのご支援とご協力があってこそ実現できたのだと実感しています。 「一人で見る夢は夢で終わるけど、みんなで見る夢は夢で終わらない」ことを身を持って体験しました。 帰りに打ち上げをし、「また、やろうよ!」と言う言葉を交わして別れました。

 最後になりましたが、NEC 様には講習会場を提供して戴きましたこと、また、会場の提供にとどまらず、何かと講習会当日もご配慮戴きましたことを深く感謝致します。

ONE・STEP企画 代表 吉川誠一(元在宅講習8期生)


編 集 後 記

 在宅講習生から久々の情報処理技術者試験2種合格者を出し、本人はもとより講師陣や事業担当職員も喜びと今後の期待感に包まれています。

 「やればできる」という中島さんの思いを、「在宅講習」から「在宅勤務」につなげていきたい!と私共は思います。

 そのような時期に受託することになった在宅勤務調査研究は、単に委託されたものとしてではなく、我々自身のテーマとして取り組んでいく所存です。



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