重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.4 1995.3(平成7年)

平成7年度東京都重度身障者在宅パソコン講習生試験
初の試み、グループワーク報告
もうすぐ修了、求職活動しています!
第2種情報処理試験の合格体験記(伊藤哲也/11期生)
ONE・STEP企画のコーナー

平成7年度 東京都重度身体障害者
在宅パソコン講習生


適性試験と面接

 平成7年4月から第13期在宅パソコン講習が始まるにあたり、新講習生の募集を行いました。

 その結果、身体に重度な障害のある方18名の応募がありました。 5名の講習生を決定するため、一次選考のための適性試験を1月18日(水)、二次選考のための面接を2月1日(水)に実施しました。

 今回は、この中から適性試験の内容と試験介助ボランティアについて紹介させて戴きます。

適性試験 NSPI
適性検査には、人事測定研究所の NSPI を使用し、応募者のコンピュータ技術修得における適性を能力的側面、情緒的側面、性格類型、行動的側面、意欲的側面から評価しています。
2年間の在宅でのパソコン講習を続けていくためには、達成意欲、粘り強さ、持続性等が求められ能力的側面以外の面も重要な要素となります。
三菱商事から介助ボランティア
応募者の中には、障害が重度なために問題用紙を自分でめくれない、答えの筆記ができないといった方が10名いました。この方たちの適性試験実施にあたって、介助ボランティアとして三菱商事株式会社の社員の方々11名が手伝って下さいました。仕事を半日お休みして駆けつけて下さった皆様に、心からお礼を申し上げる次第です。

初の試み、グループワーク報告
 在宅講習生11期生のうち3名と講師1名でチームを組み、昨年10月末から今年の1月末まで約3カ月の期間をかけプログラム開発(プログラム設計〜結合テスト)を実施しました。

開発チームのマネージャー(ボランティア講師)とメンバーの声をお聞き下さい。

マネージャーの声
 Cプログラミング在宅講習のお手伝いをさせていただいて足掛け2年、今年の目玉は“グループワーク”です。 地理的にも離れ、なかなか顔をあわすことのできない講習生達が、パソコン通信の助けを借りて、みんなで1本のアプリケーションを作ってもらおうという企みです。

 実社会におけるソフトウェア開発のほとんどは複数のデザイナ/プログラマによる共同作業です。 プログラミングにまだまだ不慣れなヒヨッ子たちに、はたしてチームプレイができるかと少なからず不安でしたが、独学あるいは講師と1対1での講習では不可能であり、プログラマとして自立するにはきっと役立つ、いや役立ててもらいたいと、トーコロのスタッフに無理をお願いしての実施となりました。 コードサイズは決して大きなものではありません。 受講した講習生の書いてくれたコードは全部あわせて数百行といったところでしょうか。 この程度のコード量なら1人でも書けます。 しかしながら講習生のみんなには1人で作るよりずっとためになったに違いありません

 プログラマにとって大切なのはプログラミング・スキルもさることながら、ソフトウェアの設計とは何か、そして自らのアイデアを仕様書という形で表現し、コードで実現することの難しさと楽しさを体感してくれたのなら、僕の企みはまずまずの成功を納めたわけです。

講師紹介

某大手メーカーのSE
TOC0456/GEB01501@niftyserve.or.jp
επιστημη(えぴすてーめー) *1
メンバーの声
 私達11期生は、今回初の試みとしてパソコン通信を使ってプログラム開発をするグループワークを体験しました。

 グループワークを始めるまでは、はたしてパソコン通信で上手くまとめる事が出来るかなと思いました。 チームを組むメンバは、講習で一緒に勉強してきた仲間ですが、会う機会も少ないので色々と話が進んできたときにしっかりと意見が言えるだろうかと不安でした。

 でも、いざ始めてみるとそんな不安はなくなり、皆すっかり夢中になり、思っていたよりもビシビシと意見を言い合いグループワークのボードはとても盛り上がりました。 そして、プログラム開発が進んでいくうちにその人の人柄なども見えだし、今までには気がつかなかった発見があり良かったと思いました。

 グループワークで一番良いと思った所は、やはり、一人ではないと感じられる所です。 一人だと解らなければ一人で悩み、落ち込む事もあります。 そして、自分の判断だけでプログラムを組んでいるので、チェックも曖昧になり、プログラムもやはり少し甘い物になりがちでした。 しかし、グループワークでは分からない時は、皆で考え、皆で悩み、 より良い考えが得られます。 そして、他の2人が厳しくチェックしてくれるので、自分では思いつかない事などを指摘され驚く事もありました。 本当に考え方は十人十色だなとつくづく感じました。

 そして何より、現場のプログラム開発を少し体験できた気がしました。 噂に聞いていた納期に追われる気持ちや、計画通りに開発を進める大変さ、皆の意見をまとめていく大変さが解った気がしました。 でも、大変ながらもとても楽しい経験でした。

メンバー

在宅講習生11期生 松下 英利子
足立区在住 29才 関節リューマチ 1種2級
TOC0525/チョビ *1
注*1)パソコン通信のネット局のID、およびハンドル名

もうすぐ修了、求職活動しています!
 早いもので、2年前に入ってきた講習生6名(11期生)は、もうすぐ修了します。 2年前は、全体的にひ弱な印象を受けましたが、今は顔つきも逞しくなり、とても頼りがいのあるしっかりした講習生に成長しています。

 講習生は、葛飾区の田村さん(男:20才:筋ジス)、杉並区の中島さん(男:23才:頚損)、板橋区の村上さん(女:19才:脊髄疾患)、足立区の松下さん(女:29才:関節リューマチ)、世田谷区の伊藤さん(男:21才:筋疾患)、江戸川区の島村さん(女:38才:CP)です。
 この中で、伊藤さん中島さんは見事に情報処理技術者試験2種に合格し、更に1種に挑戦します。 ほかの講習生も合格を目指し試験勉強に意欲的に取り組んでいます。

 講習は、プログラマコースでは情報処理2種のカリキュラムに沿った内容になっています。 何と言っても念願のC言語を使ってのグループワークが実施できたことは、講習生にとって大いなる成果であったと思っています。 また、アプリケーションソフトコースでは、修了後すぐに役立つようにと一太郎、Lotus1-2-3、桐の学習をしてきました。

 修了後の進路は、田村さんが通所施設でデータの入力、村上さんが企業の在宅勤務者として講習で学んだ事を生かしていきます。 この他の4名は、まだ進路が決まっていません。 2月23日に障害者の集団就職説明会が千駄ヶ谷の東京体育館で行なわれるので、それに出席する予定です。

 プログラムの開発の仕事がしたい、ゲームソフトを作りたい、社会に出て少しでも恩返しをしたい、経済的に自立をしたい、もっと勉強したいと希望は様々です。 少しでも多くの講習生らが希望の道へ進むことができればと思います。 講習生の多くは重度な障害があり、車椅子を使用しています。 在宅勤務の形態をとることができれば一番良いのですが、現実的には厳しいようです

 週に2,3日出勤することも可能ですので、この記事をご覧下さいました企業の中から、受け入れの可能性、または検討の可能性がありましたら、トライアングル事務局まで、ご連絡を賜りますようお願い致します。


第2種情報処理試験の合格体験記
伊藤 哲也 21才 筋疾患による四肢体幹障害1種1級

 昨年秋、5回目の挑戦で2種情報処理試験に合格する事ができました。 5回目と言うのが何とも恥ずかしい話しなのですが、それだけに合格した時の喜びは大きかったです。

 僕が情報処理試験を受けるきっかけとなったのは、就職する際、何らかの資格があった方が良いだろうと考えた事もありましたが、何よりコンピュータについて学ぶという目標をやりとげた証として2種の資格が欲しかったからでした。 だから、途中で投げだすわけにはいきませんでした。 3度落ちた時には、さすがに自分には向いていない、自分では無理なのだと思い、もう受けるのは止めようと思いました。 でも、止めてしまったら、結局何にもできない自分を認めてしまうことになると思い諦められませんでした。 今思うと2種に向けて勉強していた時は、常に前に進む気持ちや大切な時間を目標のために使っていると言う満足感がありました。

 今度は新たな目標として、1種を目指したいと思っています。それが、合格するまでまた何年かかるとしても、納得のいくまで挑戦したいと思っています。 目標を失なってしまうとそこから何をやっていけばいいのか解らなくなってしまいそうです。だから、一から始められる事があるのを今は嬉しく思っています。

(在宅講習11期生)

トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 メンバーの活動紹介 〜その1〜 

 講習が終了して、もうすぐ1年が経とうとしています。 現在、ONESTEP企画正会員、事業所運営ととても忙しい毎日を送っております。

 私の趣味はパソコン通信で、自宅でBBS(ネット局)も運営しています。 最近、このパソコン通信をする時間も無いほど暇がなくなってしまいました。 今回はこの暇がなくなった理由である、事業所運営についてご紹介します。

 練馬区に設立された《有限会社 かしの木事業所》のことです。 一見なにやってるの? と思いたくなるような会社名ですが、この会社ではソフトウェアの開発をしており、現在、企業からの委託でWindowsのアプリケーション開発を行なっています。 UNIXの技術者もおり、UNIXからWindowsへの移植業務も行なっています。 全国でも数少ないと言われていますが、重度の肢体不自由者の雇用も達成しています。 なかなか面白い会社なんですよ。

 今後DOS/Vの組み立て及び販売業務を行なう予定でそのセッテイングをしている最中です。 残るは販売ルートだけなのですが・・・・これが難しい。

 このように日々忙しく事業運営に携わりプログラマ営業もしている私です。

秋山 司(練馬区在住、27歳、頚椎損傷1種1級、元在宅講習10期生)


編 集 後 記

 立春も過ぎ、桜や木々のつぼみのほんの少しの膨らみに、わずかながら春の訪れを感じます。 3月には、6名の講習生達が巣立っていきます。

 身体に障害がありながらも希望を持ち、トライする姿に、その希望を叶える手助けをしなければという思いにかられます。

 在宅勤務の実現は、一人では難しすぎる、でも、多くの人の知恵と努力と勇気があればその可能性は広がっていくと思っています。



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