重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.9 1996.10(平成8年)

Challenged Japan Forumに参加して
在宅パソコン講習生による在宅勤務プロジェクト
企業への就職報告
ONE・STEP企画のコーナー
平成8年度春期 第2種情報処理 合格

Challenged Japan Forumに参加して
 去る、8月31日東京南麻布のNTT(関東支社)ラーニング・システムズにおいて「Challenged Japan Forum」が開催されました。

 『チャレンジド(Challenged:アメリカでは障害のある人々をこう表現しています)たちを納税者にできる日本』をキーワードに Challengedの自立と社会参加、とりわけ就労の促進を目標に活動を続けている大阪のNPO(民間非営利組織)プロップ・ステーションと(株)ニューメディアとの共催で行われました。

 意欲と能力を持つすべてのChallengedを「納税者」にと一言で言っても、既存の社会システムを越える新たなシステムを構築するには、多くの創造的行為が必要です。そこで、各立場の方々が意見を自由に交換することで、新たな社会構造と政策的な展望づくりを目指す目的でこのフォーラムが開かれました。フォーラムにはChallenged・企業・外郭団体・各省庁大学関係者と各界でご活躍されている方々50名程度が参加しました。Challengedを納税者にということでは、既に多くの関係者による実践がありますが、最近の動きや今回のフォーラムからこの分野においても一つの変化の確かな兆しを感じました。

 フォーラムの中で話し合われた内容まではこの紙面では語ることはできませんが、特に印象深かったことは『これまでは国家主体の健常者中心の社会であり、障害者や子供、老人は保護・観察・強制の対象であったが、これからは市民を主体としてひとりひとりの生き方を尊重するボランタリな社会に変わっていくだろう』とある方が話されたことです。 確かに、PC通信やインターネットなどネットワーク化が急速に進み、上下の階層化された情報伝達システムが急速に壊れつつある今、ハンディを持つ人たちも一市民として対等に社会に参加する可能性が高まってきました。併せて働きたいと願っているChallengedにとってもコンピュータネットワークは強力なツールとなり得るに違いありません。これまでの「社会から何とかしてもらおうとする受け身的な考えではなく、社会に対して何ができるかという能動的な考え」が、ごく普通にできる社会を築きあげていきたい。 ひとりの市民として対等な関係を保障するには、もっと積極的な社会構造の支援のあり方が必要ではないだろうかという思いがこみ上げてきました。 このフォーラムの目的もまさにここにあるのだと思います。このフォーラムをキックオフとして新たな何かが生まれていくことを期待すると共に私自身微力ながらも関わりを持ち続けて行きたいと思いました。

 このフォーラムに関する記事のホームページアドレスは

http://prop.vcom.or.jp/CJF11-9-2.htmlです。
(小川)

在宅パソコン講習生による在宅勤務プロジェクト
−ご協力:株式会社 ロジクール様−

 この6月より、トーコロ情報処理センターの在宅講習生2名(内1名は修了生)が、メーカーからの委託により完全在宅でユーザーサポートの仕事にチャレンジしています。

 お仕事の依頼をいただきましたのは、ワールドワイドな視点でパソコン用周辺機器を製作・販売なさっている(株)ロジクール様です。

株式会社ロジクール

(旧ロジテックパシフィック)

設    立:1988年3月(日本法人)
資  本  金:15,500万円
本社所在地:東京
主な製品 :マウス、ジョイスティック、スキャナー等

 今回は、この仕事を始めて3ヶ月が過ぎようとしている13期生の講習生小林秀浩さんに今の心境をインタビューさせていただきました。小林さんは現在26歳、大学在学中に事故で受傷(頸椎損傷1種1級)されましたので、このプロジェクトがはじめての「仕事」です。

 車椅子用に改築されたご自身のお部屋兼オフィスで、緊張した面もちでインタビューに答えてくださいました。


Q :どういった経緯でこのお仕事を引き受けられましたか?
A :
昨年からトーコロの在宅講習を受けていたのですが、この春に講師の方から「在宅でユーザサポートをしてみないか」という話をいただきました。現在は試用期間のような段階でロジクールよりトーコロ情報処理センターに仕事を発注していただき、トーコロ情報処理センターから委託という形で仕事を受けています。

Q :仕事の内容は?
A :
まず英語マニュアルの翻訳があります。これは米国ロジクールのインターネットホームページから資料をおとし、それを翻訳します。 英語のテクニカル用語がなれないうちは難しかったですね。次に、ユーザ向けのFAX用 資料作り。初心者の方に理解しやすい言葉でわかりやすく書くことの難しさを知りました。
それから電話での製品についてのユーザサポートの仕事があります。お客様と直に接しますので技術的なことはもちろんですが、最初は話し方などから勉強しました。

Q :在宅勤務への不安はありませんでしたか?
A :
仕事の経験がなかったですし、スキル的な不安や在宅ということでの会社とのコミュニケーションの点が心配でした。 障害について理解していただけるかという思いもありました。しかし、採用の前の段階からトーコロの方が会社との間に入って心理的な面や身体的な面などいろいろとバックアップしてくださいましたし、ロジクールの事前の教育もありましたので予想以上にはやく仕事になじむことができました。

Q :教育はどのように行われているのでしょう?
A :
基本的なハードのしくみを教わったり、実際のユーザサポート場面を見学したりする場合は会社に出社します。サポートについての諸知識は、電話での教育やメールなどでも日々教わっています。

Q :ずいぶんと製品がお部屋にありますが、在宅勤務のための環境はどのようなものでしょう?
A :
マシン、プリンタの他に、ロジクールの販売している製品(マウス、ジョイスティック、スキャナー)を約10種類おいています。マウスのポート切り替えなどはトーコロを通して微力で切り替えられる機械を作っていただきました。
その他、情報のやりとりのためのISDN、TA、DSU、TV会議システムなどを入れていただいています。マシン環境や労働環境についてはロジクールの方が自宅に来て事前に見ていただきましたし、細かいところはトーコロの方が整備の援助をしてくださいます。

Q :在宅でユーザ援助業務をするというのは難しい点もあると思いますが、いかがでしょう?
A :
そうですね。ユーザのトラブルを解決するための情報の検索や情報の共有が鍵かと思います。現在は電話やメールで本社とコミニュケーションしていますが、グループウェアを構築中なのでこういったツールでデータベースを共有できれば楽になります。  
在宅勤務という形は、本来は閉鎖的な環境なわけで、ある程度分担作業のような仕事を黙々とする………というイメージになりがちですが、今の仕事は多くの人と直接お電話等で触れあうことができるので自分にはとても向いていると思っています。

Q :仕事をはじめて一番変わったとお感じになることは何でしょう?
A :
何に対しても非常に積極的になりました。
受傷して以来入院が長かったですし、退院しても仕事をせず家で生活していましたので何となくボーッとしていました。それが仕事を始めたら生活にメリハリがつきましたし、お客様に真剣に対応することが多いので、そうした中でだんだんと頭がクリーンになっていくのがわかりました。今後はユーザサイドの業務をする立場からもっと積極的に企画、提言していきたいと考えています。

Q :今後の課題は何でしょう?
A :
現在は知識の収集を雑誌やインターネットで行っていますが、自社製品についての会社内での細かい情報を入手したり、社員同志の情報交換などを円滑に行うためには、グループウエア等の活用の他、やはりある程度の出社は必要ではないかと考えています。

Q :最後に今後の展望を!
A :
働くようになって,実践の場ではじめて「これもやらなきゃ、あれも勉強しなくちゃ」ということに気づきました。障害の有無に関わらず,在宅勤務でも、会社の一員として生産性をあげられる社員でいたい。
在宅勤務の利点をいかし、少し客観的な立場からユーザニーズを分析し、お客様の満足のための提言をしていきたいですね。ちょっとカッコよすぎますかね。
職場の上司 ロジクールカスタマーリレーションセエンター  堀田 正幸氏の声

 7月から始めたこのプロジェクトも、小林さんや東京コロニーの堀込さんのおかげで、ユーザーサポートの業務がようやくうまく回り始めたところです。

 パソコン関連のサポート業務は明らかに人材不足であり、またその製品自体は価格競争にさらされています。よって、企業としてはサポートのコストを低く抑えながら、お客様に満足のいくサポートを実施するための検討をしていく必要がありました。

 在宅勤務という形をとることによって、いい人材を長期的に保ち、サポートの質を上げながらコストを抑えることができることを確信しました。


★   ☆   ★

 今回ロジクール様からいただきました在宅勤務でのユーザサポート業務のお話は、実現の可能性をさぐる段階からチームに入れていただき、福祉的な立場からの意見も取り入れていただきました。このことは当プロジェクトが現在何とか動いていることの重要なポイントではなかったかと考えます。

 こうした企業と障害者との間での、雇用に結びつくまで、あるいは雇用後軌道に乗るまでのコーディネート機能の重要さを今回改めて実感しました。両者の出会いのルートの確保、職業能力開発とも連動した形で今後も実績を積み、システムをつくっていけるよう考えていきたいと思います。 また、小林さんもインタビューの中で「勉強が必要」であることを痛感していらっしゃいますが、情報処理の分野で働きたいと考えている人は、できるだけ世の中の流れにアンテナをはり、チャンスがあればそれを逃さないよう日頃から得意分野を磨いておく努力を怠らないということも、当たり前のことですが明暗を分けるのだと思います。

(トーコロ職能開発担当:堀込)

企業への就職報告
 在宅講習の12期生で今年3月修了した時村佳伸氏が、このたび『沖通信システム(株)』に就職することができました。両足切断で義足で日常は車椅子を利用していますが、松葉杖を使えば少しの距離は歩くことができます。

 5月の集団就職面接会が千駄ヶ谷の東京体育館で行われ、それに参加したことが今回の就職につながりました。会社も障害のある人を採用したのははじめてと言うこともあり、車椅子での通勤(毎日出勤しています)をどのように克服するか、社内のコミュニケーションをどう図るかなど課題は多いようですが、共に考えいい解決策を逗見いだすことで、普通に仕事ができる環境になればいいなと思います。

 とにかく、長年の夢だったことが実現できた時村氏には、この山を越えていって欲しいと思います。

[小川]

トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 Java始めました! 

 私たちONE・STEP企画の開発チームは、ONE・STEP企画のソフト開発部門の活動と可能性を広げようと、7月からJavaの勉強を始めました。 Javaとは、インターネットのホームページ上で動くアプレット(小さなプログラム)やWindowsやMacなどの様々なOSに依存することなく実行できるアプリケーションを書くことができる、最近もっとも注目されているプログラミング言語のひとつです。

 はじめは、入門書を読み、昨年もお世話になったテクニカルサポートの方の講義を受け、Javaを使ったプログラミングとはどのようなものかを大まかに学んでいきました。 新しい技術を身につけるというのは、思っていた以上に大変で、メンバー全員、毎日、四苦八苦しながら、勉強を重ねています。 現在は、なんとか入門レベルに到達したということで、各自、キー入力練習用ソフトである「花火」の試作品をつくりながら、実践的な勉強を進めています。

 新しい技術取得への道はまだまだ険しいですが、是非とも仕事につなげたいと今後もメンバー一同頑張っていきたいと思います。

ONE・STEP企画 会員 中島徹治

平成8年度春期 第2種情報処理

合格おめでとうございます!


N.A さん  在宅パソコン講習生13期生 24才 脳性小児麻痺1種1級

中村さんは1回目の試験で見事に合格されました。


編 集 後 記

 いっぱいは要らない、ほんの少しでいい。 褒めることや声かけや関心を持つことが、その人にとってとっても大きな力となることがよくあります。

 自分の存在意義とか自分は認められているんだと感じたとき、からだの中から熱いものがこみあげてくる、エネルギー。 さぁ、やってやろうじゃないか、頑張るぞぉーという気持ちになる。                      

(ひ)    


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