重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.10 1997.2(平成9年)

在宅勤務に関するトピックス 「サイバード」
マスコミで紹介される機会が増えました!
平成9年度 東京都重度身障者在宅パソコン講習生決定!
ONE・STEP企画のコーナー

在宅勤務に関するトピックス「サイバード」
 「障害のある方の在宅就労」− 我々東京コロニーと同じ目標をかかげ、杜の都仙台で活動を始めた民間団体「サイバード」。 今回はその顧問でいらっしゃる坂爪新一さんにお願い致しまして、お忙しい中、その活動や経緯についてレポートしていただきました。
(堀込)
サイバード、その成り立ち

サイバード顧問  坂爪 新一
 「身体障害者が家にいたままでパソコンを使って仕事をし、日々の生活の中でささやかな充足感に浸り、それに加えて、それだけで生計を立てることは難しいにしても、なにがしかの収入を得ることができたら」。これは、誰でも直ぐに思いつくことですよね。 私に肢体不自由(CP2級)の娘がいるんですが、高校を卒業してどこへも行き場がなく、(親が)悶々とした日々を送っている時に、そんなことがちらと頭をかすめました。遙か10数余年前のことです。 「えっ、障害者がパソコン使うって。障害者がパソコンなんて判るの?」という時代でしたから、ただ妄想しただけで本気になって取り組む気もありませんでした。

 さて、発想はいとも簡単な「障害者の在宅就労」ですが、組織的にその実現を目指そうとすると極めて難しいものがありますね。 ハードルが3つあるのではないかと考えています。



 第1のハードルは社会通念だと思うのです。 「え、障害者の在宅就労? ふーん。そんな職業形態もあり得るか。」と受け取ってくれる人が近頃は随分増えたんじゃないかなあ、という印象を受けます。 まさに時代の流れであると共に、プロップステーションや東京コロニーの方々の先進的な取り組みのお陰と思われますから、これらの方々に感謝と敬意を払う次第です。

 その意味で、第1ハードルは、全国どこへ行っても、もう消え去っているのかも知れません。第2,第3のハードルについては、以下、順を追って申し上げましょう。



 ここで、サイバード結成の経緯をかいつまんでお話します。 日本筋ジス協会宮城支部に、筋ジス症児者の自立と生きがい追求のための事業活動を展開する、在宅プロジェクト委員会というチームがあるのですが、一昨年暮れに、この委員会からパソコン教室を開いて欲しいという要請が私どもにありました。

 主として筋ジス児を対象とする西多賀養護学校から機材と教室を提供して戴けることになり、また多くのボランティアの協力も得て、昨年春に毎週土曜日計9回のパソコン教室を開催しました。 この教室が仙台のマスコミに取り上げられ、それが「みやぎ情報交流推進グループ」(仙台市内の異業種交流グループ)の関心を引き、それがまたパソコンを利用した障害者の作業所といったニュアンスでマスコミによって報じられました。 そのニュースを見て現れた人物が現在サイバードの副代表である広岡です。



 広岡の出現によって、第2のハードル、最も高く厚いハードルがクリアされたのです。

 白鳥は筋ジスの子を持つ家庭の主婦、私はコンピュータとは無縁の世界にいてその方面の事情に疎いことから、仮にそういった組織を作ったにせよ、誰が中心になって組織の運営維持を図って行くことが出来るのか、という暗礁に常に乗り上げるわけです。 そんな折りに、私達と同様に在宅就労の道を志して、ソフトウェア産業から仙台へUターンして来た広岡は、私達にとってまさに天の配剤ともいうべき人材でした。

 そんな経過で、昨年8月の準備会を経て、同年10月、広岡を実質的な組織運営中心とし、白鳥を組織代表とする障害者就労支援組織サイバードが発足する運びとなりました。

 17名で発足した会員は次第に増え、現在のところ、正会員15名、支援・ボランティア会員30名、計45名の会員構成となっています。 会の運営に関する事務連絡、会員間の情報伝達、データの授受等は可能な限りインターネットを利用して行うため、メーリングリスト (同報通信)とFTPサーバを運営し、ボランティア会員がその維持管理に協力しています。



 さて、第3のハードルは会結成のための制約条件に関するものではなく、会の維持運営、今後の会の発展に対するハードルと言うべきでしょう。

 率直に言って、それは会員個々人のパソコン技術力、及びパソコン労働に対する気力の問題ではないかと考えています。 正会員は数人の健常者を除いて全て在宅障害者で、広岡以外は当然ながらコンピュータ業界に関わっていた人はおりません。 趣味或いは意思伝達手段としてパソコンを操作していた人はいますが、中には少数ですがパソコンに触れたのも初めてという人もいます。

 パソコンソフトは習えば判るというものでは無く、その効果的な修得術は「習うより慣れろ」、「考えて考えてそれでも判らなかった部分を習え」、「実戦で鍛えろ」等々であると思いますので、ここは一つ会員各自の気力に委ねるしかないかと愚考する次第です。



 出発したばかりのサイバードの未来を占うのは早計に過ぎるかも知れませんが、10年後に我がサイバードはどうなっているのでしょう?  健常、障害を問わず、在宅勤務、在宅就労といった形態は、今後徐々に、そしていずれは加速度的に広がっていくのではないでしょうか。 サイバードは果たして生き残れるのでしょうか?

 最後に、広岡によるサイバード命名の由来を。
サイバードとは、体にハンディがあっても、ネットワーク上のサイバースペースでは鳥のように自由に翔ぶことができる、という意味を込めました。

 シンプルながらホームページを持っています。どうぞ、ご覧下さい。

http://www2.tinet-i.or.jp/cybird


 ほんとの最後にちゃっかりと、何か仕事あったら声をかけてください。

マスコミで紹介される機会が増えました!
 当センターの事業もマスコミで紹介していただくことが増えてきました。 昨年11月、在宅パソコン講習修了生グループONE・STEP企画のメンバーの在宅での仕事ぶりが朝日新聞に紹介され、またトライアングルVol.9で紹介させていただいた講習生の在宅でのカスタマーサポート業務(ロジクール社)について「ASAHIパソコン」の96/12/15号、97/1/1号で2回にわたり紹介されました。 続いて、今年に入ってからは、1月の末にテレビ朝日のニュース番組の中で講習生の就職活動(在宅勤務希望)についてレポートされています。

 紹介していただいた記事について、トライアングルの読者の皆さまにも是非ご覧いただきたく、朝日新聞の記事をこのページに、また「ASAHIパソコン」の記事を付録で添付させていただきます。(「ASAHIパソコン」の取材・原稿を担当された中和正彦様にはご了承をいただきました。)

朝日新聞     1996/11/20
ASAHIパソコン  1996/12/15号、97/1/1号

平成9年度東京都重度身体障害者
在宅パソコン新講習生決定!

 平成9年4月から第15期在宅パソコン講習を始めるにあたり、昨年11月中旬から12月下旬にかけて新講習生の募集を行いました。 今回は特に在宅講習生、修了生の活躍の様子や本事業などがTVや新聞、PC雑誌などマスコミに多く取り上げられたこともあり、34名もの応募がありました。 1月22,23日と2日間にわたり1次(適性)試験を実施し、2月5日の2次試験(面接・作文)で5名の合格者と1名の補欠が決まりました。

 試験当日は、この冬1番の冷え込みにも関わらず誰一人欠席することなく試験に臨んでいました。 また、今回の応募者の障害状況をみたところでは脳性小児麻痺の方や筋ジストロフィーの障害のある方が少なく頸椎損傷の方が多く見受けられました。

 試験介助のボランティアとして今回も三菱商事様から大勢の皆様のお手伝いがありましたし、個人的に会社員の方も駆けつけて下さいました。この紙面をお借りして心よりお礼申し上げます。

(小川)

トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 ふれあいの祭典’96に参加!! 

 昨年の12月6日,7日,8日と、港区三田にある東京都障害者福祉会館にて、「ふれあいの祭典'96」が開催されました。 このお祭のいくつかの催しの中で、パソコン通信コーナーがあり、会館からの依頼で、ONE・STEP企画がパソコン通信コーナーの担当を引き受けることにしました。

 これまで、ONE・STEP企画では、年に1,2回のパソコン通信講座や年賀状講座など身障者向けに様々な活動を行なってきましたから、今回の会館からのイベントの協力依頼の話が来た時は、積極的に受けることができました。

 パソコン通信コーナーでは、BBSのデモや今はやりのインターネットのネットサーフィンをやりました。 お越しになられたお客様の多くは、初めて通信の世界を体験され、喜んで帰られました。 2日目は順番待ちが出てしまう程の、大盛況でした。

 このイベントが終わってから数日後、会館館長様よりお礼の手紙をいただきました。 ONE・STEP企画としては、本当にこの依頼をお受けしてよかったとメンバー一同あらためて感激した次第です。

 今後もONE・STEP企画では、パソコン通信講座や色々な催しが企画されており、こうした外部からのイベントの協力依頼にもできる限り、お受けしていきたいと思っています。

ONE・STEP企画 会員 橋沢春一


編 集 後 記

 東京コロニーで受託し、当センター職能開発係(すなわちトライアングル事務局)で担当しております日本障害者雇用促進協会からの在宅勤務方式による重度障害者の雇用の促進に関する調査研究が3年(最終年)目も終わりに近づきました。

 調査結果の集大成である在宅勤務マニュアル(障害のある人の在宅勤務について事業主向けに解説したもの)の作成も大詰めを迎えています。 役に立つマニュアルにしたいと、委員会の先生方や日障協研究開発課と作業を進めております。配布できるのは、まだ先ですが、トライアングルの紙面でもお知らせしますので、どうぞお楽しみに!

(る)    


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