重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.11 1997.6(平成9年)

新事業“トーコロワーキングネット”の紹介
ソフト開発チームで在宅ワーク!
テレワークDAY参加!
ONE・STEP企画のコーナー
おめでとう!(非常勤勤務内定/第2種情報処理合格)
在宅パソコン講習の新講師紹介
付録:在宅勤務事例(TBS/四次元ポート)

新事業“トーコロワーキングネット”の紹介
 トーコロ情報処理センターでは、1982年から「重度身体障害者プログラマー養成事業(通所)」をスタートさせました。 1989年からは、パソコン通信をツールとした在宅でのコンピュータ教育「東京都重度身体障害者在宅パソコン講習事業」に切り替えました。 その理由としては、年々、通うことが困難なより重度な障害者の応募が多くなったことが挙げられます。 さらに、ここ2、3年は急激なパソコンの普及に伴い、応募者も25〜35名と増えてきてはいるものの、合格人数は5名程度で狭き門となっております。

 また当センターでは、講習事業と共に修了生の一般就職や就労の機会を得るための援助を大手企業の協力を得て行っております。 パソコン通信やインターネットなどネットワークの普及により、在宅勤務も障害の有無に関わらず増加の傾向にあります。 このような中で障害者の在宅雇用を検討される企業や在宅で可能な仕事を委託される企業が増えてまいりました。

 こうした社会の変化から生まれた新たなニーズに柔軟に対応するべく、当センターでは、以下の新事業「トーコロワーキングネット」に取り組むことにしました(下図参照)。

I. 在宅雇用の実施を希望する企業と在宅での就労が可能な障害のある人とを結ぶ
II. 障害のあるコンピュータ技術者への在宅就労の機会の提供
III. 障害のあるパソコン初心者へのパソコン利用の援助

 今後は、よりすそ野を広げ、障害のある人たちへの教育就労のサポートを充実させていくように事業展開していきたいと考えております。今後とも、ご指導、ご利用の程よろしくお願い申しあげます。

 なお、この件のお問い合わせはトライアングル事務局までお願いいたします。

 
ソフト開発 チームで在宅ワーク!
 ONE・STEP企画(東京都重度身体障害者在宅パソコン講習事業修了生グループ)では、昨年10月から今年の2月まで、東京都の肢体不自由児養護学校13校の生徒さんが使うソフト開発に取り組んできました。

 今回は、開発メンバー全員が在宅ワークでしたので、その方法や課題についてご紹介させていただきます。

開発言語 VB(Visual Basic)
開発環境 PC(Windows95動作)、VB、通信、インターネットソフトなど
チーム編成 リーダー
 中島氏(頚椎損傷1種1級/25才)

メンバー
 田中氏(脳性麻痺1種1級/25才)
 橋沢氏(脳性麻痺1種1級/21才)

アドバイザー
 トーコロ情報処理センター(小川)

その他
 絵/音/ラベル/CD-ROM作成支援メンバー多数

開発の進め方 在宅ワークのため、作業指示や質問、ソフトの評価は主にPC通信(トーコロ情報処理センター内にあるトーコロBBS)、顧客とのやりとりにはインターネットを利用しました。 

 今回は、チームリーダーであった中島さんに、在宅で、しかもチームを組んで開発をしてきた様子や在宅ワークの秘訣を聞いてみました。


Q :どのような時間帯で作業をしましたか?
A :
基本的に、平日の10:00〜18:00で昼休みは1時間ぐらい休憩し、土日は作業をしないように心がけました。

Q :開発がスムーズに流れたようですが、今振り返ると何が良かったと思われますか?
A :
3本のプログラムを一人1本ずつ開発しましたが、1本1本が独立していたため開発中に細部のやりとりはあまり必要とされなかったことが大きいと思います。 それと、仕様の確認や変更は、月1回先生方との打ち合わせがありましたので、そこでほとんど解決できました。 打ち合わせが定期的にあったおかげで、それを目標にソフト開発ができたのは良かったと思います。

Q :開発は根を詰める仕事と思いますが、開発期間中の気分転換はどのようにされていましたか?
A :
私自身プログラムを作ることが好きなのでこれといった気分転換を意識してしようとは考えていませんでした。 でも、決めた時間の中で集中して作業をする、また、基本的に私生活とのけじめをつけたり健康維持のために土日に作業は持ち込むことのないようにしました。 また、私自身、開発2年目でしたのでユーザーの気持ちは分かってきましたし、先生方からも任されたところもあり、やりがいがありました。 アイディアもフツフツと湧いてきて、それを実現しうまく実装出来たときは、格別の嬉しさでした!

Q :今回はチームを組んでの開発でしたが、チームリーダーとして特に配慮されたことは、どのようなことでしたか?
A :
自分で問題を抱え込まないように気をつけました。 特に橋沢氏は初めての参加でしたので、VBの学習段階からPC通信やTELを利用したフォローは行っていました。 いざ開発に入った時は、もうすでに土台ができていたのでやりやすかったですね。 メンバーからの問題にはすぐ対応するようにしました。 やらっせぱなしではなく、全体の一部として考えて対応できるように計画に盛り込みました。 後半からはメンバーも力をつけてきたので、これなら大丈夫という見通しが立ちましたので任せることができました。

Q :在宅ワークを可能にする要因にはどのようなことが考えられますか?
A :
まず、本人の計画性が必要だと思います。 在宅ワークは、管理者が常に側にいるわけではありませんので、自分に厳しくしないと仕事はできません。 ですから、いい意味で自分にプレッシャーを掛けて作業を進めました。 また、PC通信やインターネットを利用することが苦にならないことが重要だと思います。 それから、様々な面でサポートをしてくれる良きアドバイザーの存在も必要不可欠だと思います。

Q :在宅ワークをして難しいなと感じることはありますか?
A :
仕事をするために、今何をしておけばよいのか分からないことが不安です。 会社に所属していれば、何をしなければならないか自ずと分かると思いますが、それがありません。 自分でもいろいろな情報を入手しようと心がけてはいますがやはり限界を感じます。 生の情報が手に入る環境が欲しいです。

Q :最後になりましたが、これからの抱負をお聞かせ下さい。
A :
今の日本では、在宅ワークを認めてくれる企業がまだ少ないと思いますので、私自身が先駆者的な存在として今後も在宅で働き、様々な実績や経験を積みあげ、同じような障害を持った方々が当たり前のように、在宅で働けるような環境を作り上げていけるよう頑張りたいと思います。 また、機会があれば、今回のようなユーザーに優しい夢のあるソフト作りもしていきたいと思います。

★   ☆   ★

◆インタビューを終えて・・・

 今回は、私はアドバイザーと言う形で参加いたしました。 前回は、1年目という事もあり開発メンバーも初めての経験でしたので、プロジェクトマネージャーとしてチームの舵をとってきました。 2年目は中島さんを中心にチームを組んで在宅で開発をしてきました。

 プロジェクト運営や技術的な問題の対処はチーム内で解決していましたので、私がアドバイザーとして関わったことは、主に先生方との連絡や打ち合わせでした。 このようなことも、次からは自分たちでできるように、できることを増やしていって欲しいと思います。

 また、今回の一連の様子を見て感じたことは、「実績を作っていく」ことが、みんなの自信にもつながると言うことでした。 できないのではないかと不安を抱く前に、できるようにするためにどうするかを考えていくように心がけていきたいと思っています。

(小川)

テレワークDAY参加!
 ◆テレワーク:通信機器を利用し、オフィス以外のところで働く労働形態◆

 様々な意味で新しい働き方としてその存在が問われるようになったテレワーク。 社会の枠組みを変えるべく、郵政省は、5月27日を『テレワークを一斉にやってみる実験的なデモンストレーションの日』として呼びかけました。 その結果、郵政省をはじめとして、多くの企業の方がオフィス以外の場所で勤務し、その数1万5千人を超えたということです。 わたくしどもも、その日を利用して、普段できそうでできない3地点コラボレーションを試みてみました(出来上がり図)。

 今回はシニアの方(コンピュータおばあちゃんの会)が俳句を作り、それをハンディキャップの方(マックサロン)がイメージ化し、企業の方(三菱事務機械(株))がまとめる、といった簡易なコラボレーションでしたので、生産性云々というよりも、あらゆる立場や状況の人が「協働」することの楽しさ、意義を考える活動となりました。 テレワークという先進的なネーミングではありましたが、フタを開けてみるとそれぞれの個性や経験があふれ、思わぬ豊かな一日を体験させていただきました!。

http://www.bekkoame.or.jp/~tocolo/TELEWORK.htm
(堀込)

トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 障害者向けパソコン講座準備中! 

・会 場: 東京都障害者福祉会館(港区芝5-18-2/TEL03-3455-6321)
・日 程: 平日コース 7月21・22・24・25日(4日間で1コース)
土日コース 7月19・20・26・27日(4日間で1コース)
・時 間: 13:30〜16:30 1日3時間
・人 数: 各コース10名
・対象者: 肢体不自由者及び聴覚障害者(手話通訳付)
   
 今年も東京都障害者福祉会館からONE・STEP企画に、肢体不自由者と聴覚障害者を対象にしたパソコン講座の企画と講師の依頼がありました。

 内容は昨年と同様に、パソコン通信とインターネットを中心としたものですが、講習時間を昨年の2倍の12時間にし、体験的な講座ではなく後日テキストを見ながら思い出し、実際に自分1人で操作できるような内容にするつもりです。

 パソコンメーカーやカルチャースクールなどが、毎日のように講座を行なっていますが、障害者に学ぼうとする意欲があっても、会場の問題で受講できなかったり、たとえ受講できてもペースについていけず挫折してしまうことがあるようです。 身体に障害を持つメンバーで運営するONE・STEP企画としては、日頃の経験やノウハウを活かし、前回にも増して受講者の皆さんに喜んでいただける講座にしたいと思っています。

 更に、この講座を通じて、日頃外出やしゃべることが難しい障害者が、パソコン通信やインターネットを習得することで、コミュニケーションの機会を広げると共に趣味を広げ、社会参加のきっかけになればと考えています。

ONE・STEP企画 会員 平野貴史

おめでとう!
 TBS(株式会社東京放送)に非常勤勤務内定! 

Y.S さん 34才 筋ジストロフィ1種1級

ONE・STEP企画 会員(在宅パソコン講習 平成3年3月修了)

在宅勤務で仕事をすることになりました。


 平成9年度春期第2種情報処理合格! 

O.T さん 29才 頸髄損傷1種1級

ONE・STEP企画 会員(在宅パソコン講習 平成9年3月修了)


在宅パソコン講習の新講師紹介!
岩田真紀さん

講習生が高い技術を身につけ、就労の機会を得られるように努力していきます。

<経歴>
株式会社日立製作所にて5年間汎用コンピュータのSEとして勤務。
その後3年間専門学校の情報処理科にて講師を努める。
本年3月21日よりトーコロ情報処理センター職能開発係に。
特種情報処理技術者。

在宅勤務事例
TBS社にて、「番組モニターマネジメント」の在宅勤務プロジェクトスタート!

 この夏より、在宅パソコン講習修了生の吉川誠一さん(現ONE・STEP企画代表)が、 TBS(株式会社東京放送)様の一員として在宅で非常勤勤務することに内定いたしました。 部署は「番組考査部」といい、同社の放送した番組について、様々な見地からその質、あり方を考査するセクションです。 吉川さんは主にインターネットを使って、心身にハンディを持つ方やその支援者の方々の、番組に対する意見、感想をとりまとめ、同社にレポートする役目を担うことになっています。

 TBS社といえば、「水戸黄門」などでおなじみの著名な民営放送局ですが、吉川さんとの出会いは、「障害者雇用に取り組みたい」と同社人事部副部長の松田幸雄様がトーコロ情報処理センターを訪問してくださったことがきっかけでした。 その後、松田様と私どもとで、テレビ局という枠の中で重度の障害のある方にどういった仕事の可能性があるのかを考え合った結果、いくつかの案の中から今回の「番組モニターマネジメント」が浮かび上がってきたのです。

 昨今、視覚障害者の方向けの衛星チャネル、副音声ドラマの増加など、ハンディキャップをお持ちの方も楽しめる番組作りが少しづつではありますが増えてきました。 また、ドラマにハンディを持つキャラクターが登場するなど、放送内容の面でも情報の質は変化しつつあります。

 そうした状況の中で、障害のある方自身あるいは支援者が直接「気づき」を声に出せる信頼性の高いしくみづくりがあることは、非常に望ましいことといえるでしょう。

 番組作りに真摯に臨むTBS社の一員として、吉川さんの今後のお仕事に期待するとともに、この紙面上でのご報告を楽しみにしております。

(堀込)


四次元ポートのMMK端末コンテンツの作成!
仕事を終えて       在宅パソコン講習平成9年3月修了  小川 忠

 2年間の在宅講習が終了して、少しホッとした反面、これからは何をすればいいのかと迷っていたところへ、堀込さんから(株)四次元ポート(注1)のお仕事のお話がありました。 次の目標が見つかったことで嬉しさもありましたが、こんなに早い時期に仕事のお話が来るとは思ってもみなかったので、とても驚き戸惑いも感じました。 「仕事」となると、作るものにはそれなりの責任を持たなくてはならないし、自分にそれだけの能力があるかどうかという不安もありましたが、何事にもチャレンジだと思い、おもいきって引き受けてみることにしました。

 仕事の内容は、MMK端末(注2)に表示するコンテンツの作成でした。MMKとは「マルチメディアキオスク」の意味で、街に設置してあるMMKの端末画面を見ながら電子ショッピングなどができる、四次元ポートが開始した新しいサービスです。

 このコンテンツはホームページと同じHTML言語が使われています。基本となる部分はMMKコンテンツ作成専用のプログラムを使ってわりと容易に作成できるのですが、こまかい部分はテキストエディタを使ってHTMLを修正しなければなりませんでした。 その他に、コンテンツに使用する画像を編集したり、背景に貼り付ける絵柄を自分で考えて作成したりというような、未経験のジャンルの作業もしましたが、それも結構楽しみながら作業する事ができました。 背景の絵柄や色については、どの商品にはどんなものが合うか、今回のクライアントのセルプショップ・パレットの方と直接お会いしじっくり相談をして決めました。

 四次元ポートさんとの毎日の連絡と作成したデータのやりとりは、インターネットの電子メールを利用しました。 ただ、電子メールは連絡をしてその返事が返ってくるまでにタイムラグが発生するので、電話も利用しました。 在宅で仕事をしている場合、周りの人にちょっと聞くという事はできないので、連絡は早め早めにすることが作業をスムーズに進めるポイントのようです。 また、在宅では作業時間が不規則になってしまいがちですから、一日のスケジュールをきちんと立てて、体調の管理にも十分気を付けながら作業をしていかなければと思いました。

 ついこのあいだまでは、自分が在宅で仕事ができるようになるなんて、夢のような話だと思っていたのですが、気がつけば夢ではなく現実の事となっていました。 そして、初めての仕事を終えた今、なにも無かった自分の中にオアシスがポコッと湧いたようなそんな感じがしています。

 皆さんにアドバイスをいただきながら、初仕事はなんとか無事に終える事ができました。 今後もいろいろな事をたくさん吸収して、良い仕事が出来るように頑張りたいと思います。


(注1) 株)四次元ポートは、MMK端末を利用しての商品購入や便利なサービスをっている会社です。
(注2) MMK端末は現在、
     KDD大手町ビル・1F
     新宿KDDビル・1F 
     プラット001(コンビニ)内横浜西口・S−Port 
に設置されています。


編 集 後 記

 先日視覚障害のある友人と、インターネットの音声サーフィンをやってみた。Lynxというブラウザでホームページをテキストにし、それを音声合成装置で読ませるしくみなのだが、これが相当に時間がかかる。 確かに読み上げはできるし、検索エンジンも使えるのだが、検索でひっかかってくる膨大な情報が的を得ているかどうかを音声で確認するのが思いの他大変なのだ。

 玉石混淆の情報箱ゆえにその価値に厚みが出るインターネットだが、見極めが全て個人に任されている難儀さを改めて痛感する今日この頃。

(M)    


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