重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.12 1997.10(平成9年)

インターネットを利用した『職業紹介システム』
在宅就労事例「歯科医院の診療データ管理システム」
JAVAの勉強をはじめました!
本の紹介「パソコンボランティア」 JDプロジェクト編
ONE・STEP企画のコーナー
契約社員として完全在宅勤務!

インターネットを利用した
『職業紹介システム』

 障害のある方は、皆さんそれぞれの困難さを抱えて就労情報を探していらっしゃることと思います。 職安に登録して足しげく通うことも策の一つですが、重度の方になるとそれもままならない…。 そういう方を対象として、東京コロニーではインターネットでできる「職業紹介」を開始したく準備をすすめています。

 内容としては、一般職業紹介業の「求人登録」、「求職登録」、「紹介・斡旋」、 「面接」という事務的な流れを、可能な限りインターネットを利用した人手の介在しないシステムで実現できることを基本とし、真に「人間」にしかできない細かなフォローの部分に「人手」を集中できるようにします(下の流れ図参照)。



障害のある方で
パソコン利用者
登録は無償!!
1.登録

求人・求職者がホームページにて自己の情報を
登録、電話(あるいはトーコロ来訪、会社訪問)
によって情報の確認

データベース登録・ファイリング

←   企業

登録は無償!!


近くなら週3日
くらい通えるわ
 
マーケティングの
勉強をしています
 
 
 
 
 
 

2.情報検索・紹介

ホームページにて求人・求職者が登録情報を検索

意中の情報があれば、メール、電話等にて
トーコロに紹介を依頼(マッチするケースが
あれば、トーコロより連絡する場合も)

面接に進みそうな場合は求職者ご自宅や、
求人会社を訪問し、ニーズの確認

紹介


在宅勤務で
マニュアルが
書ける人は
いないかな?

 
 
 
 
 
 
 
 

3.面接・アフタフォロー

求職者が企業訪問・面接
(必要な場合、同行)

結果により適切なフォロー

 在宅雇用、障害者雇用が
 初めての雇用主の方にも、
 雇用前の準備から就労
 安定期への支援まで、
←ご相談にのります

 事例や制度面のフォロー
 などお気軽にお問い
 合わせ下さい


 コンピュータネットワークを利用することで、重度の障害のある方も自宅から登録や企業照会ができますし、また就職にいたる流れの要所要所で発生する悩みも含めて支援できるよう、企業側求職側双方への個別コンサルテーション機能に力を入れていくつもりです。 これによって「在宅勤務」を含めた、より柔軟な働き方の事例がひとつでも増えていくことを望みます。

 現在、職業紹介業者としての資格申請中。開始に当たってはホームページ等でまたお知らせいたしますので、ご協力のほどどうぞよろしくお願いいたします!

(堀込)

※インターネットによる紹介システムの開発及び運用はVCOM(慶応大学金子郁容教授研究室が中心となったインターネットVネットを利用した情報コミュニティ:期間を限定した社会的実証実験をすすめている)の協力を仰いでいます。


在宅就労事例
「歯科医院の診療データ管理システム」

ONE・STEP企画  中村亜矢子

 私は今、歯科医院の診療データ管理システムを開発しています。 患者さんの個人データとともに、診療によって発生するデータを管理し、最終的にはレセプト紙(診療報酬明細書)を出力するというシステムです。 千葉県の古川矯正歯科医院様より依頼を受け、今年5月から、Accessで開発しています。

 古川矯正歯科医院様では、現在お使いになっているシステムをAccessに移植し、カスタマイズされたより使いやすいシステムにしたいということでした。 在宅講習の実習でAccessを勉強していたものの、実践的な経験はありませんでしたし、しかも分野が歯科医療という専門的なものだったので、最初不安がありました。 しかし先方より、私のできる範囲で、話し合いながら作っていきましょうというお話があって、自分自身Accessの知識をもっと高めたい気持ちもあり、この仕事をお受けしました。

 まず、3月に医院で簡単な内容をうかがった後は、電子メールのやりとりで仕様の打ち合わせをしました。 そして、5月初めに開発に取りかかり、以降はメールで確認しながら作業するというスタイルで現在に至っています。 基本的には、平日の5日間に仕事をしていますが、休みや遅れの分を土・日に振り替えることもあります。 また、連絡手段であるメールはほぼ毎日見ています。自分にあった環境(家)の中で、自分のペースで仕事ができる。 これはやはり、「在宅勤務」のメリットだと実感しています。 ですがその一方で、仕事を始めてみて、在宅勤務のむずかしさを感じているのも事実です。

 メールはコミュニケーション手段としては便利ですが、仕様の確認や試作品を説明する手段としては完全ではありません。 直接話し合ったり、実際に操作を見ていただきながら説明することには到底及ばないのです。 また、文章だけではお互いの間に認識のずれもでてきます。 実際に、仕様において、先方とのくい違いが生じました。 最初の仕様確認がうまくできなかったせいか、追加のご要望も増えていきました。 これは、「在宅勤務」ということより、仕事の経験がないことや、考えの甘さからきた結果だと思います。 このため、メールで何回も確認したり、画像や図を送るなど自分でも工夫をしました。 しかし、このような問題をクリアしてこられたのは、やはり様々な支援があったおかげだと思います。

 Accessの知識と経験のなさからメールでのアドバイスをトーコロにお願いしたのですが、仕事の進め方や相手とのやりとり、医院などでの実際の打ち合わせなどもサポートしていただきました。 また、発注者である古川矯正歯科医院様のご理解、ご協力も多大です。 こうした多くの支えに応えられるよう、ご希望にあったシステムの納品を目指してがんばっています。 反省点や課題もありますが、今回の経験をいかし、今後も仕事を続けていきたいと思っています。


JAVAの勉強をはじめました!
日本サン・マイクロシステムズ株式会社よりご支援

 『JawaTeaは知っているけど、JAVAって何?』 Web上で初めて踊るDukeを見かけたのが2年前。 JAVAを使えば、Dukeに代表されるように動きのあるページを作ることができます。

 JAVAで開発したソフトはOSに依存しないから、Windows95だろうがMacだろうがUNIXだろうが開発者は気にしなくともよい。 バグの回収にあちこち歩き回ることもなくサーバに最新のものをアップするだけで済んでしまう。 しかも、Cの開発者が必ずといってよいほど苦しめられるポインタもないしメモリ管理をする必要もない。 開発者にとっては、開発そのものに専念できるなど良いこと尽くめです。

 しかし、JAVAを独学で学ぼうとすると言語経験のない開発者はもちろんのこと、言語経験があっても壁は立ちはだかり挫折することも多い。 新しい技術を習得していくことは技術者の宿命ですが、強力なサポータの存在も欠くことができません。 つまずいたとき的確にアドバイスをしてくれるサポータがいればハードルは乗り越えられるでしょう。 そんな中、当センターにとって願ってもないチャンスが到来しました。

 日本サン・マイクロシステムズ(株)の支援をいただき、JAVA言語を習得しビジネスに生かすことを目的にJAVAのオンライン講習を始めることができました。 この講習では分厚いJAVAの入門テキストを約160時間かけて習得します。 なかなか手応えのある内容ですが、当センターの職員やONE・STEP企画のメンバーなど総勢18名が受講しています。 すでに講習のためのメーリングリストも開設していただき、テクニカルな質問に関しては、日本サン・マイクロシステムズのSEの方々による丁寧な解説をいただくことができる体制ができました。 すこぶる心強い限りです。

 また、講習に先駆けて9月12日スクーリングを開いていただきました。 JAVAで何ができるか、ビジネスチャンスの可能性やJAVAのテクニカル的な話、「オブジェクト指向なんか恐くない」といった話など盛りだくさんの貴重なお話があり、25名ほどの参加者は熱心に耳を傾けていました。 日本サン・マイクロシステムズ(株)のご支援により、当センターは、JAVA習得とビジネスチャンスの実現に向けて、いよいよ大きな一歩を踏み出しました。

 最後に、日本サン・マイクロシステムズ(株)をはじめ、メーリングリストにご参加いただいているSEの方々には、この紙面を借りて深くお礼を申し上げます。

[小川]

本の紹介「パソコンボランティア」
JDプロジェクト編/株式会社 日本評論社(\1,700)

 障害者のネットワークへの参加は、情報の獲得、就労など社会参加への強力なパワーになる。 しかし、使いこなすまでの設定・接続ができない。 障害でキーボードやマウスが使えない。 「パソコンボランティア」とはそんな障害者の家を訪れ、接続や環境設定の手助けをするー(「パソコンボランティア」の帯文章より)

 1997年3月15日、都の西北早稲田国際会議場にて熱っぽく開催された「パソコンボランティア・カンファレンス'97」。 この雰囲気をそのままに再現し、そして、様々なフィールドでここにいたるまで地道な試行を重ねてきた人々の汗やつぶやき、提案などを集めた1冊です。 この活動を通してこれからの政策や人と人とのコミュニケーションのあり方、ものづくりの可能性などが見えてきます。 これから「パソコンボランティア」を始めたい!と思っている方には実践的なテキストとなるでしょう。

[堀込]

トーコロ情報処理センターの重度身障者在宅パソコン講習事業の修了生グループ
ONE・STEP企画のコーナー
 らくらくマウスU発売−利用事例のご紹介も 

 ONE・STEP企画で昨年4月より発売しております手の不自由な方のためのマウス「らくらくマウス」が、今年7月に、PC-98用の他にDOS/V用を追加・改善した「らくらくマウスU」にバージョンアップしました。(写真右)

 主なバージョンアップ内容は、ダブルクリックボタン(1回押すだけ!)がついたことと、ドラックボタンの形状や速度変更の方式などを改良したことです。 また、発売以来様々な身体状況の方からのご希望に応えるサービスとオーダーメイドを行なってきましたので、その一部をご紹介させていただきます。

足で操作するので、コードを長くしてほしい(1,000〜2,000円)
PC-98用に購入したが、DOS/V機やMac機でも使いたいのでアダプタがほしい(各5,800円)
手の緊張で、らくらくマウスUが動いてしまわないようにするためのすべり止めシートの添付(500円)
手の緊張が強い方が、押したいボタン以外のものに触れないようにするためのキーガード(1,000円)
口に棒を加えて入力するので、キーボードの上に取り付ける形のボタン横並び小型版を作ってほしい
標準完成品のボタン以外に大きなスイッチを別途とりつけられるようにしたい
手を握った状態でボタンを押したいので、全体のサイズを大きくしてほしい
カーソル移動のボタンを円状に配置してほしい

 これらのご希望に対しては、ほとんど部品代の差額程度で対応させていただいております。 お客様から満足と感謝のメッセージをいただくこともしばしばです。 これは、製作担当のボランティアグループ「杉並ここと」の皆さんの、文字どおり「個々と」やりとりしながら使う方の立場に立つという親身な姿勢があるからこそ実現していることなのだ、と思います。

らくらくマウスU問い合わせ窓口担当 加藤


契約社員として完全在宅勤務!

本間一秀さん 23才 脳性まひ1種1級 電動車いす使用

 東京都在宅パソコン講習第13期生(本年3月修了)の本間一秀さんが、6月より有限会社テクノツール様の契約社員として完全在宅でソフト開発の業務を行っています。

 本間さんは講習期間中に、同社からの発注で障害のある人のための特殊キーボード「小型ひらがなキーボード」のソフト(アセンブラ言語)や、手に障害のある人がゲームパッドをマウスがわりに使うためのソフト「GMOUSE」(同社のシェアウェアソフトとしてNIFTY SERVEに登録)の開発を行いました。

 また、本間さんは第2種情報処理試験やシステムアドミニストレータの国家資格も取得し、現在は第1種を目指し勉強をしている努力家であり、チャレンジャーです。 これらの才能と実績、そして電車で打ち合せに出向く積極的な人柄をかわれ、この契約に結びついたものです。

 現在本間さんは、同社の得意先から発注された「Delphi言語により、社内文書をネットワーク上で管理するOracleデータベースアプリ」を開発中。 今後のますますの活躍を期待しております!



編 集 後 記

 先日、2人の仲間とトンネルをいっぱい(!)超えて遠方までパソコンボランティアに出かけてきました。 E-mailで「help!」をくれたのは重度の脳性麻痺の方。サポートの後、ご飯を食べながらよもやま談義。 あまり外出はしていなかったという彼から、「そちらにも遊びにいきたい」という嬉しいメールをいただいたのは次の日のことでした。

 「パソコンボランティア」は、スクール等とは違ってその方のニーズに触発されて集い、お互いの人生経験を持って対等な立場で交流できる個別の援助隊だと思っています。 その意義は、機器のフィッティングやパソコンの環境設定などは言うまでもないですが、「次のアクション」を起こせるキッカケ作りでもあるのではないでしょうか。

(堀込)    


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