重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.20 2000.7(平成12年)

SOHO支援事業の開始
障害のある方の在宅雇用事例
SOHO事例 SOHOグループ同士の連携で受注
在宅プログラマー雇用決定!
在宅ワークを目ざした「ビジネスマナー教育」スクーリング開催!
オリエンテーションでパソコン要約筆記
おめでとう!(雇用決定/合格)

SOHO支援事業の開始
◆オープンなSOHOグループ
SOHOグループ概念図
 企業に雇用されるという形態だけでなく、SOHO(在宅就労)という働き方を希望する方も増えてきています。 SOHOでは、移動のハンディを克服できるだけでなく、自分の体調や障害にあわせた働き方や、「1日少しの時間でも労働による社会参加がしたい」「自分の専門分野で勝負したい」といった、個人の「働くこと」に対する考え方に合わせた働き方も可能になります。

 職能開発室ではこれまで、在宅パソコン講習事業の修了生を中心としたワーカー(作業者)に対して就労支援を行なってまいりましたが、より多様な技量をお持ちの方にご参加いただき、受注業務を安定的にこなすことができる体制を新たに作るべく、オープンなSOHOグループの立ち上げを今年度から進めています。

◆ワーカーの募集

 職能開発室のホームページなどを通じて、様々な技術を持ったワーカーの方を広く募集し、現在まで、ホームページのデザインやデータ入力、あるいはネットワーク管理など幅広い技術を持った10数名のご応募をいただいています。

 現在、ワーカーの方と対等な立場で仕事ができるよう契約に関するガイドラインを作成し、応募いただいた方々と協力して、安定的に仕事を進められる体制の構築や、日程管理、技術サポートなどの支援体制について具体的に検討を進めています。

◆グループの体制とリーダー

 グループの運営を行なう上で、リーダーの存在は大きな意味を持ちます。 リーダーは、グループ全体の運営管理や、仕事のコーディネート及び全体的な日程管理などを行ない、グループが仕事を効率的に進める上で重要な役割を担います。 そこで、リーダーに要求されるマネージメント能力や、その教育方法の検討を行なうことで、リーダーとしての適性をもつ人材の育成にも力を入れていきたいと考えています。

 また、個々の技術や仕事毎にプロジェクトリーダーを配置し、スケジュールの調整や、ワーカーに対してOJTを通じた技術サポートなどを行なう体制を目指し、それぞれの能力向上も図っていきたいと思います。

◆充実した支援をめざして

 まだまだ課題も多いのですが、ワーカーの方々の能力を結集し、クオリティの高いアウトプットをご提供できるよう、より充実したバックアップ体制を構築していきたいと考えていますので、「我こそは」とお思いの方、ぜひご参加ください。

 また、企業の方のお仕事の発注についてもお気軽にご相談ください。
[鶴田]


障害のある方の在宅雇用事例

在宅での作業様子

渡 恵美子

(慢性関節リウマチ1種1級)
(在宅パソコン講習15期生)



NECソフト株式会社
http://www.necsoft.co.jp/
 
Q:今年の春からOL1年生ということですね。

新木場のマップ  はい!、企画部というところに所属して、主に会社がある東京都新木場の、公共の施設のホームページの更新や、社内で使うWEB用の素材の作成などを担当しています。
新木場FANというコーナー、ご覧下さいね)

 ホームページを作るのも、アイコン等を作ったりするのも、もともと好きな作業でしたから、その好きな仕事でお給料をいただけて、とっても楽しいです。

 でも、正直言いますと、まだ入社して数ヶ月なので、あまり周りを見渡す余裕はなくて、自分の仕事のことだけを考えてこなしている、という感じなんです(笑)。
 
Q:完全在宅勤務ということですが、しくみはどうなっているのでしょう。

 個人によって時間や働き方に配慮があります。 私の場合は、だいたい時間的には出社している方と同じような時間帯に仕事をしていまして、曜日によっては途中で福祉のほうのお風呂に出かけるので(家のお風呂に入れないので)、その日はそのぶんの時間を繰り下げて仕事しています。

 連絡は、仕事を始める時と終わるときにメールを入れます。また、業務上不明点があるときなどもメールを入れています。

 同じグループの方が、大概はすぐにメールを返してくれますし、仕事以外でも休日何をやってたか、なんていう楽しい話もしています。 ですから、現在のところ、「在宅」という面での不安はほとんどないですね。
 
Q:初めての就職とお聞きしましたが、SOHOは1年やっておいででしたね。違うなぁと思われるところはどんな点でしょう。

 一番わかりやすい違いは、SOHOでは「成果物」が全てで、1枚いくら、1ファイルいくら、という単位で報酬をいただいていたのに対して、雇用の今は、勤務時間(月収)で一定した金額をいただいている、という点ですね。まぁ、そのまんまですが(笑)。

 でも、在宅勤務の場合、勤務態度などは見えにくいので、成果物で見てもらおう、と思うところは、実はSOHO時代と一緒なんです。 SOHO時代に身についた「やった結果」で勝負、という考えは、今も同じですね。
 
Q:今、スタートラインについたばかり、というところですが、今後の抱負などありましたらお願いいたします。

 初任給は家族を食事にでも…と思っていたはずが、いろいろとタイミングを逃して結局何もしていないんです(でも、少しですが一応生活費を家に入れるようになりました)。 ゆっくりそういう家族孝行?もしていきたいですね。

 今後の抱負は、ともかく、どんな小さな仕事でもいい加減にしない。 かつ、楽しみながら確実にこなしていきたい。 そういった仕事の積み重ねで、徐々にレベルアップして、「いいものが作れる」人になっていけたら、と思います。

 入社することになってから知ったのですが、NECソフトは「武生国際音楽祭」(福井県)にご協力をしています。 その関係で、私の場合は仕事ではないのですが、今週末、武生まで音楽を聴きに行ってきます。 今まではこういった場所へ行く機会はなかなかなかったのですが、会社の方の話を伺っているうちに、興味が向いてきて、楽しみになってきました。

 できる範囲でこういったことに参加していき、いろいろな意味で、行動範囲を広げていきたいと思います。


SOHO事例
SOHOグループ同士の連携で受注

 わたくしどもで今年度開始したSOHO支援事業では、個々の在宅ワーカーの得意分野に適応した仕事を、できるだけ安定した量で、継続して受注できることを目指しています。 しかしながら、営業活動を十分にできる体制にない現在、まだまだ仕事量の需要と供給がアンバランスな状況です。これは、小規模なSOHOグループには共通した課題なのではないでしょうか。

 そこでこのたび、民間のSOHOエージェント(注1)のプラス・ワーキング様よりお仕事をいただき、トーコロを介して数名の在宅ワーカーに新規の仕事を委託することを試みました。 これによって、結果的には、普段我々が受注しづらいタイプの仕事や、新しい技術などにトライすることができ、大変勉強になっています。

 一つの仕事を複数のSOHOエージェントやグループが、それぞれの得意分野や受注できる量を調整しあって、共同で作業を進めるという形態は今後増えていくものと思われます。 この時大事なことは、当たり前のことですが、責任の所在や機密保持、緊急時のセーフティネットの確認、などでしょう。

 先般出されました労働省在宅就労問題研究会の「報酬額、納期等の文書明示等についてのガイドライン」(注2)などを参考に、それぞれのSOHOエージェントやグループがきっちりと約束事を作り、信頼できる仕事の受け渡しを目指したいと考えます。
[堀込]

注1:SOHOエージェント

 SOHO(個人事業主や小規模事業体、個人作業者)を登録し、クライアントから受注した仕事を、登録者の能力、経験によって配分し、発注する業者。仕事の打ち合わせ、進捗管理、納品物のチェック、納品などを、登録者に代わって行なう。

 上記の株式会社プラスワーキング様は、その草分け的存在であり、1997年9月の設立以来、システム開発をメインに、プロジェクト単位の契約で在宅スタッフのコーディネートを行なっている。 その品質の高さと先進性を買われて、このたび同社は、社団法人日本テレワーク協会主催の「テレワーク推進賞」において奨励賞を受賞された。

注2:労働省女性局女性労働課

 「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」の策定について


在宅プログラマー雇用決定!
在宅での作業様子  在宅パソコン講習15期生の阿部大樹さんが、株式会社コムサさんに在宅プログラマーとして採用されることとなりました。

 先回のトライアングルでは、WEB上で障害者の求人求職を参照できる「VCOMのジョブマッチング広場」で阿部さんがコムサさんと出会い、委託で仕事を受けたところまでを掲載させていただきましたが、その後見事に、持ち前のガッツを買われて正式メンバーになる運びとなりました。

 コムサさんは、POSレジ販売及びサポートを主とした業務を行なっている会社です。社長の吉野さんはおっしゃいます。 「これからの小売店は、しっかりとした顧客管理とデータ分析が絶対に必要であり、勘だけに頼っていては生き残って行けません。そんな厳しい時代の中で、阿部君が我々と一緒に二人三脚で夢を追いかけてくれれば、と願っています」。

 阿部さん、これからもいいソフトを作っていってくださいね!
[堀込]


在宅ワークを目ざした
  「ビジネスマナー教育」 スクーリング開催!

 在宅パソコン講習が始まったばかりの4月末日、2年生(17期生)を対象に、在宅ワークを前提とした「ビジネスマナー教育」のスクーリングを開催しました。

内    容

  1. 今、企業が求めている人物像を探る
    (インターネットによる求人情報を参照)
  2. 就労に結びつくオンライン学習
    (英語、資格取得のメールマガジン等)
  3. 仕事を得るためのオンライン利用
    (求人WEB、メールマガジン)
  4. 仕事におけるメールの書き方
    (実際のSOHOの作業報告事例、署名の例等)
  5. 仕事の打ち合わせや受け渡しを想定したロールプレイング
 知っているようで知らないメーラーの機能や、ML(メーリングリスト)の積極的な利用法など、実践的な内容のせいか終始ワイワイと楽しい講義になりました。

 今後、望まれる機会があれば、更に内容を吟味し、在宅就労を目指す外部の方向けにこの種の講習を行なうことも検討していこうと考えています。
[堀込]

オリエンテーションでパソコン要約筆記
パソコン要約筆記  去る4月5日、在宅パソコン講習第18期生のオリエンテーションが行われました。 今年は、聴覚障害のある講習生の方(内部障害との重複)がおられるため、情報保障の観点から「パソコン要約筆記」を取り入れ、オリエンテーションの内容から昼食会まで、すべての通訳を行いました。

 「パソコン要約筆記」とは、通訳者が発言者の言葉を聞き取りながらパソコンに入力し、その文字をプロジェクタにより大きく表示するというものです。 今回のオリエンテーションでは、パソコン要約筆記専門のボランティアの方2名にお越しいただきました。

 現在、ご本人の自宅にうかがっての訪問指導では、筆談によって講習を進めています。 今後、音声認識ソフトの活用等も含め、効果的な講習の進め方をご本人と相談しながら考えていきたいと思います。
[岩田]

おめでとう!
 株式会社コムサに勤務決定! 

  A.H さん 頚椎損傷1種1級
    ONE・STEP企画(在宅パソコン講習第15期生)

 NECソフト株式会社に勤務決定! 

  W.E さん 慢性関節リウマチ1種1級
    ONE・STEP企画(在宅パソコン講習第15期生)

 社会福祉法人東京コロニーに勤務決定! 

  S.Y さん 脊髄損傷 1種1級
    (在宅パソコン講習第16期生)

 三菱マテリアル株式会社に勤務決定! 

  N.M さん 疾患1種1級
    ONE・STEP企画(在宅パソコン講習第16期生)

 初級システムアドミニストレータ試験合格! 

  G.K さん 脳性麻痺 1種1級
    (在宅パソコン講習第16期生)



ホームページアドレス変更のお知らせ

●東京コロニー 職能開発室●
http://www.tocolo.or.jp/syokunou/

●ONE・STEP企画●
http://www.tocolo.or.jp/syokunou/onestep/



編 集 後 記

 以前に、この紙面(Vol.14)でご紹介しましたVCOMのジョブマッチングシステム(社会実証実験サイト)では、7月から、作業所や授産施設の仕事の受注希望が登録できるようにバージョンアップします。 また、個人レベルの仕事のマッチングも、今までの「雇用」を前提としたものに加え、委託業務も可能になります。

 ともすれば閉鎖的になりがちだった障害者の仕事をめぐる状況について、求人求職(発注受注)両サイドが、いつでも簡単にネットでやりとりできるようになることは、実はとても大きな変革なのではないかと思っています。 この試行の効果や意味付けはあとから出てくるものなのでしょうが、従来の柵を軽やかにひょいと越える、この踏み切り板をデジタルネットワークが担えることは確かなように思えます。
(堀込)    


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