重度身体障害者の在宅勤務を考える――

トライアングル Vol.23 2001.7(平成13年)

e-ラーニングでスキルアップ!
障害のある方の在宅雇用事例
SOHOグループの立ち上げ Vol.3
グラフィックデザイナー養成講座10月生募集中!
トライアル雇用、継続する!
仕事で通用するプログラマを目指して
おめでとう!(雇用決定)

e-ラーニングでスキルアップ!
 ここ数年、e-ラーニングのサイトが急速に増えています。 e-ラーニングとは、主としてインターネットのホームページ(Web)を基盤に提供される学習環境のことで、教材の提供、課題の添削、質問などをWebを介して行なうものです。 スクール方式の学習と比較して、場所と時間を選ばないだけでなく、通信教育でも得られにくかった講師とのリアルタイムに近いやりとりが可能となり、新たな学習スタイルとして定着しつつあります。(*1)

障害のある方のスキルアップに

 ITに携わる人にとって、常に新しい技術を習得し続けることは永遠の課題です。 特に障害があり在宅就労をしている人にとっては、自宅に居ながら最新の技術が学べるe-ラーニングシステムは貴重な学習 手段となるでしょう。

(株)ネットラーニングのサイト 職域の広がりの可能性も

 e-ラーニングサイトの運営側から見てみると、講師もまた教室に出向く必要がなく、在宅で充分可能な職種であるといえます。 実際に、私ども職能開発室が支援するSOHOチーム(es-team)のメンバーの中にも、オンライン講師を仕事にしている人もいます。

es-team馬橋氏がオンライン講師を務める
(株)ネットラーニングのサイト


在宅雇用をすすめる企業にとってのメリット

 従来の集合教育では、通勤する社員と在宅勤務の社員に同等の教育機会を与えることは難しいのが現状ですが、e-ラーニングを活用すれば、通勤・在宅の区別なく同じようにスキルアップの機会を提供できます。

e-ラーニングをより活用するために

 実際にe-ラーニングを利用した人からは「継続には強い意志が必要」という声が聞かれます。 意志はもちろんのこと、いつでもどこでも学習できるシステムだからこそ、ある程度「縛られる」ことも必要です。 "講師との密接度"、"進捗が遅れた場合の厳しさ"など、体験入学などを通して自分に合うものかどうか確認することが大切でしょう。

 また、e-ラーニングではIT技術そのものは学習できますが、仕事に密着したOJT的な教育となるとまだまだ難しい面があります。 在宅就労で一番の課題となる「実践力」を養うためには、実際の仕事を見据えた具体的な指導が得られるシステム(*2)が望まれます。

 大きな可能性を秘めたe-ラーニング。その動向に注目しつつ在宅でのスキルアップのあり方を考えていきたいと思います。
[岩田]

*1 e-ラーニングのサイトの例
  ■Eキューブ
  ■インターネットビジネスカレッジ

*2 「通信教育」ではSOHOでの仕事に限定した実践的な講座もある
  (かんき出版テレワークスキルアッププログラム


障害のある方の在宅雇用事例

三菱マテリアル(株)
西 美奈子

(疾患 1種1級)
(在宅パソコン講習16期生)

三菱マテリアル(株)勤務
現在 マテリアル・システム・
サービス(株)開発部に出向中

 今回は、昨年4月より在宅プログラマーとして三菱マテリアルでご活躍の、西 美奈子さんのお宅をご訪問いたしました。

 女性の在宅プログラマーというのは、もともと通勤の形でその種の仕事をやっていた方が出産等で在宅勤務になるようなケース以外、あまり多くはない事例でしょう。それだけに、西さんが超えてきた山は多いのでは?  そのあたりをたっぷりうかがってまいりました。
 
Q:現在はどんなしくみで、どのような業務をなさっているのでしょう。

 会社と自宅の間に専用線を引いていただき、セキュリティの高いシステムで情報のやりとりを行なっています。
 仕事の内容は、自社で利用する資材管理のシステム開発です。言語はRPGというものを使っています。
 
Q:何だか難しそうですが、在宅という環境で一人で困ってしまうことはなかったですか?

 そうですね、一番最初、帳票出力のプログラムを担当したんですが、当初は教育担当の方に家に来ていただいたり、電話、メールで、もう一から十まで教えていただいてましたよ。 少しずつ私の出来具合を確認していただき、段々と任されるようになったんです、「じゃー、これ作っといて」といった感じで(笑)。
 また、ミーティングなども新プロジェクトが始まる際など社員の方に家に来てもらえましたし、その都度、相談しながら何とかここまで来た感じです。
 
Q:教育については細かく考慮されているようですね。その他に、仕事の継続に関わるような配慮は何かありますか?

 勤務もかなり柔軟です。1日6時間勤務ですが、体に応じて3回程度休憩します。 通院日は休日に振りかえることもできます。 また、これは全員に与えられた環境ですが、ネットワークのホワイトボードシステムがあり、そこでグループみんなの在籍状況や作業内容がわかるのも便利です。 これを利用して在宅での勤態や業務内容も報告しています。

 仕事の面でも、長いプログラムを読む場合は画面だと目が疲れますので、印刷して送ってもらうなど細かく気を使ってもらっていますね。
 
Q:今、「課題だなぁ」と感じていらっしゃることはありますか?

 そうですね、1つは時間のかけ方の工夫でしょうか。入力やページめくりなどは、他の方に比べれば、どうしたって時間がかかってしまう。したがって、それ以外の短縮できうる部分をできるだけ効率よく短縮していく工夫をしなければ、と思っています。

 また、もう1つは、質問の仕方です。さきほど教育担当の方の話をしましたが、仕事上の教育は学校の教育と違って常に本番。 あらかじめ答えがあるわけではなく、教育担当者にとっても初めての課題ということもあるわけです。 つまり私の担当部分は私が一番よくわかっているはずで、そのことをわきまえて相手に理解されやすい質問でなければ、教育担当者にとっても、それを一から自分でやってしまうのと同じくらい負荷がかかってしまうことになります。 そういう意味では、質問の仕方も「なんでも聞いちゃえ」ではなく、お互いにとって効率のよいものでなくては、と考えます。
 
Q:仕事の中で「モットー」となさっていることは何でしょう?

 在宅ですから、ともかく確実なコミュニケーション。 メールの書き方では、言葉のニュアンスを曖昧にしないことです。また、うまくいってる場合もいっていない場合もすべて報告することが大切です。
 
Q:最後に、「西さんに続け!」と、テキストとにらめっこしている後輩達へメッセージをいただけますか?

 今、学んでいることは、あとですべて栄養になりますよ。 在宅生活のリズムを大事にして頑張ってください!

★   ☆   ★

取材に同行していただいた、
三菱マテリアル人事部労政課 加藤美鈴様より

 プロ意識がとても高いですね。時間の使い方やメールの留意点など、安心すると同時に感心いたします。

 障害者雇用のよい前例ができたと思っておりますので、他の部署にもっと知らせたい。 そこからまた新しい道を開いていけるのではないかと考えております。

◎インタビューを終えて:

 「やりがいを感じる時は、自分が関わったシステムが便利に使ってもらっているかなぁ、と想像する時。 それと"バグ無し"というメールが返ってきた時!」、そう笑う西さんは、講習生の頃よりもずっと大人っぽく安定した感がありました。

 今回、話してくださった「課題」の部分は在宅就労者にとって半ば普遍的なもの。 クリアできたら、ぜひ、そのノウハウをこちらにも教えてくださいね。期待しています。
[堀込]


SOHOグループの立ち上げ Vol.3
 SOHO支援事業も軌道に乗り始め、さまざまな新しい試みに取組んでいます。

◎ チャレンジショップWASEDAでのPR

 職能開発室の事務所がある早稲田では、地域活性化の一環として、誰でも気軽に自分のお店が持てるという「チャレンジショップWASEDA」を開設しています。 チャレンジショップでは棚一段ごとに1ヶ月単位で借りることができ、料金もお手頃になっています。 SOHOグループes−teamでは、入口近くの棚を一段借りてパンフレットやこれまでの制作実績を6月末まで展示しており、地域との関係を深めるきっかけづくりになればと考えています。

◎ グループウェアの活用

 es−teamでは、トーコロとワーカーとのやり取りはE−mailを中心に行なっています。 しかし、一つの仕事を複数のワーカーで分担することも多くなり、全体の進捗を把握することが大変になってきています。 そこで現在、グループウェアを活用した情報共有について検討しています。 グループウェアを利用することで、他の人の進捗をWeb上で確認できたり、スケジュールの調整が効率よくできるようになります。 es−teamでは、サーバにグループウェアをインストールし、どの程度の効果が得られるか評価を行なっています。

 また、SOHO支援事業だけではなく、トーコロでの職場の日常業務、例えば文書管理や会議日程の調整などにも活用していきたいと考えています。
[鶴田]


グラフィックデザイナー養成講座10月生募集中!
 2月から開講したグラフィックデザイナー養成講座も、まもなく5ヶ月を迎えようとしています。 最初は緊張気味だった受講生の皆さんですが、今ではそれぞれの感性を発揮しながら将来のデザイナーを目指して日々勉強に取り組んでいます。

講習日記  クリエイティブな分野ということだけあって、受講生も個性的な人たちが揃っています。 それぞれの個性をぶつけ合いながら進めるこの講習は、毎回楽しい発見が盛りだくさんです。 そんな講習の雰囲気を少しでも多くの人に伝えたいという思いから、毎回の講習日記をホームページで公開しています。 講習での新しい発見、ちょっとした失敗談、あるいは受講生同士の雑談など、読み物としても楽しめる内容になっています。ぜひご覧ください。

 また、次回の10月生も現在募集中ですので、将来デザイナーを目指したいという思いをお持ちの方はお気軽にお問い合せください。
[鶴田]


トライアル雇用、継続する!
 平成11年度から12年度に渡って実施された日経連「障害者雇用安定プロジェクト」は、職場実習から雇用につなげていく「トライアル雇用」が大変好評で、2年間で約4000人以上が実習を経験し、そのうち約6割が雇用につながったということです。

 このプロジェクトが成果を上げた要因としては、
@障害者の適職を見極めてから企業が雇用できること、
A申請事務が簡素化されていること、
B知的障害者や精神障害者など、雇用がむずかしいとされていた分野でも積極的に活用できたこと、

などがあげられていますが、実際、トーコロの講習生さんも在宅という形態でこれをうまく利用して在宅勤務に結び付きました。 実習中から実習生にも企業にも訓練費が出ますので、これも進めていく上で大きな支援になりました。

 同プロジェクトは、今年度より地域の障害者職業センターが引継ぎますので、より深い求職者と求人事業主への支援が期待できるのではないでしょうか。 詳細は、各県の障害者職業センターにお問い合わせください!。
[堀込]
  地域職業センターの一覧


仕事で通用するプログラマを目指して
カリキュラム   在宅パソコン講習「プログラマコース」では、テストとデバッグの考え方を学ぶスクーリングを開催しました。

 一般にプログラムの勉強というと、「プログラム言語の習得」と捉えられがちですが、仕事でプログラムを作成する場合には、設計、コーディング、テスト、デバッグという過程を踏んで「いかに品質の高いプログラムを作成するか」「シンプルでわかりやすいロジックを組むか」が大切になります。 このスクーリングでは、趣味で作るプログラムと仕事で作るプログラムは違う、という意識転換を図ることも目的です。

 最近は、Web系のプログラムが増え、従来からのウォーターフォール的なプログラム開発の工程をきちんと踏むことが少なくなってきていますが、品質のよいプログラムを作るための設計やテストの基本的考え方はきちんと理解しておく必要があると考えています。
[岩田]

おめでとう!
 沖ソフトウェア株式会社に勤務決定 

  Y.K さん 慢性関節リウマチ 2種2級
    (在宅パソコン講習第15期生)

  Y.T さん 頚椎損傷 1種1級
    (在宅パソコン講習第17期生)

 有限会社アサップシステムに勤務決定 

  T.Y さん 脳性麻痺 1種1級
    (在宅パソコン講習第16期生)

 NECソフト株式会社に勤務決定 

  K.H さん 頚椎損傷 1種1級
    (在宅パソコン講習第17期生)

  Y.M さん 疾患 1種1級
    (在宅パソコン講習第17期生)



編 集 後 記

 最近、軽くて小さいモバイルPCを購入。 それにあわせて使いやすいマウスを探し歩いたら、これが驚くほど色々あるではないですか!。 コードレスで光学式、手の中にすっぽり入ってちょうどいい按配。 意のままにPCを操作できるような感覚。

 もっと驚いたのは、次の日、肩が凝らなかったこと!。 いやはや今まで何と長きに渡って機械に体を支配されていたことか・・・。 使う「人」が中心。皆さんもちょっと利用ツールを見直してみては?。
(堀込)    


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