重度身体障害者の在宅勤務を考える――
トライアングル Vol.28 2003.3(平成15年)


養護学校でビジネスが学べる!?
障害のある方の在宅雇用事例
朝日広告賞へ応募しました〜 グラフィック・デザイナー養成講座
障害者基本計画の中の「在宅就労」
グループワーク授業の実践
おめでとう!



養護学校でビジネスが学べる!?


 重い障害のある生徒さんが、高校を卒業しても現状では入院継続・家庭療養を継続するケースが高率を示してきています。こうした中には、自立歩行の移動は困難であっても、治療に専念する時間以外は、日常生活の補助を得ることで様々な活動ができ、自らの知識や技術をもって病院内外での就労を希望する方が多くなっています。そこで、平成13〜15年度、文部科学省研究開発校となった千葉県立四街道養護学校では、「重度の障害のある生徒の就労に向けた職業教育に関する研究」に取り組み、今年度中間報告があげられております。

 この研究の中で興味深い取り組みは、新しい教科「ビジネス」の実践と、卒業生の働く場、ワークショップ「まごころ」の試行です。

 「ビジネス」は、パソコンを活用しながら、社会への関心と職業の知識を広げ、社会参加の方法を主体的に決定する能力と態度を養う授業です。科目の内容としては、ワープロ、表計算やインターネットなど基本的知識習得を目標としたものの他に、プログラミングやデータベース、ホームページ作成、デザイン、ペインティングなどの技能習得や、ビジネスマナー、金融などを学べる事務実務、簿記実務など多彩です。こうしたひととおりの体験から、生徒さんは自分の興味や可能性を探していける機会を得ます。

 また、ワークショップ「まごころ」は、先の新教科の実践の場であり、身近な「働く場面」、次の就労を見据えるステップアップの場です。先日、わたくしがお邪魔させていただいた際は、先生2名、卒業生6名、元企業人ボランティアさん2名が、工房で名刺作成やカレンダー作成、会社のロゴ作りに励んでおいででした。仕事中のミーティングは全て卒業生さんたちで行い、納品書、領収書も自分たちで作成していましたが、クライアントへの文面を考える横顔には自信が垣間見えました。

 先生によると、現在は研究期間中のため納品の対価も実費程度ですが、その後は継続を見据えたしくみ、組織つくりが必要とのことでした。また、病棟から来ている卒業生さんも多いので、作業時間と仕事量の考慮も必須と思われます。しかし、ともかく、「養護学校で職業教育や就労体験を」、という非常に新しいテーマを持った画期的な研究ですから、我々就労支援団体としても目が離せない大事な取り組みです。今後も見守るとともに、仕事を通じて一緒にレベルアップしていけたら、と切に願います。

参考:四街道養護学校「中間報告書」

[堀込]

工房で働く皆さん
工房で働く皆さん




障害のある方の在宅雇用事例

佐々木 幸代さん

(脊髄損傷 1種1級)
(在宅パソコン講習第16期生)


社会福祉法人東京コロニー
デジタルメディアセンター 勤務

佐々木幸代さん
今回は、このシリーズでは初めての「自宅で対外折衝」の事例です。インタビューを受けてくださったのは、仕事を始めてもうすぐ3年を迎える佐々木幸代さん。佐々木さんは、社会福祉法人東京コロニーの技術系の仕事をこなすと同時に、同団体が受託するNPOのマウス販売の顧客対応業務も担当しておいでで、いわば2つの顔を持った在宅勤務者でいらっしゃいます。我々の同僚でもある佐々木さんですが、その働き方の現実はいかなるものでしょう…。

Q:現在のお仕事について入社時期、勤務形態などをお願いします。

 平成12年の4月入社です。その年の3月まで東京コロニーの在宅パソコン講習を受けていましたので、修了後すぐにお世話になりました。勤務は9:30〜18:00なのですが、身支度やトイレに時間がかかってしまうので、19:30前後に仕事を終了しています。時間で気をつけているのは、1時間半に1度、10分程度の休憩を持つこと。目が疲れるので、自己管理として心がけています。日々の仕事の連絡の中心は日報でして、朝始める時に職場にメールを入れ,仕事の終わりに、その日に実施したことと明日の予定を入れます。 

 

Q:仕事内容は複数あると伺っていますが、どんなものでしょう。

 はい、一つはホームページの更新です。メールで送られてきたデータを修正します。現在は一から作るのではなく、できあがったものの更新が主ですね。もう一つは、こことステップというNPOの仕事の受託で、障害者用のマウスの販売に関するお客様対応を電話とFAXで行っています。このマウスは「らくらくマウス」(注)といい、通常の市販マウスでは細かい操作ができづらい方に、その方にあったマウスを作成・販売するものです。標準完成品もありますが、それでは使いにくい方には、ボタンの大きさや配置を変えたり、ジョイスティックの位置を変更して販売しています。試用の申し込みがあった場合は宅急便でお送りするなどの作業もあります。

(注) らくらくマウスのWEB http://www.kktstep.org/

Q:2つのまったく異なる業務は大変ではないですか。また、返答に困るようなお問い合わせなどどう処理されているんですか。

 わからないことは、どちらの仕事も電話で同僚の方に確認できます。また、今のところはクレームや困ってしまうような内容のお電話も幸いありません。HTMLばかりやっていると、時々入る電話が逆に気分転換にもなり、私の場合はよいようです。お客様対応や言葉遣いは、入社当時、短期間でしたが、通勤して総務の机に座らせていただいたことが大きな実践習得だったと思います。

 

Q:今までの失敗談やうれしかったことなど教えてください。

 失敗はホームページ作成時のミスでしょうか、注意力が足りないんですね。現在も時々…。うれしかったことは、昨年末、期日までに仕事をやり終えたこと。12月の最後の週の仕事量は少々きつかったので、勤務最終日までに終えられた時は本当にうれしかったですね。

 

Q:これからの課題や抱負をお願いします!

 現在は仕事を通じてhtmlのOJTをしていただいてますが、これからは自分でも勉強時間を作ってFLASHとか次の勉強をしたいです。また、職場の方々とのやり取りがもっとうまくできるようになりたい。メールや電話で指示をいただくのみでなく、まわりの方の仕事内容も把握できるようになって交流できたらうれしいです。そのためには、可能な時は通うことも視野に入れたいと望んでいます。

 それと、休日などはなるべく用事を作って出かけること。現在は、年6回程度ですが、ハンディキャップテニスという、障害のある方や高齢者を対象にしたテニス講習会に参加しています。こうしたことは続けていきたいです。

 

佐々木さんの手がけているWebの例
佐々木さんの手がけているWebの例 新・田舎人フォーラム

 

◎上司の一言  デジタルメディアセンター センター長 戸原一男氏

 在宅勤務ですが、職場側の情報ももっと伝わるようにこちらも努力します。通う機会を作るなど、要望はどんどん出してくださいね。在宅での外部との折衝は、慣れない佐々木さんにとっては大変だったと察します。でも、一つ一つの電話がよい経験になり、着実に社会性が身についていっているようです。電話に出ることがより楽しくなるように、新しい在宅スタイルのパイオニアとして頑張ってほしいと思っています。期待しています。

 



インタビューを終えて

 在宅パソコン講習の受講生時代に印象的だったのは、とにかくおとなしくて声が小さいことと、同時に芯が強くてがんばりやだということ。委託先の人間としてお客様対応をする難しさに加え、WEBというまったく違う業務を同時にこなすことは、社会経験のない佐々木さんにはちょっと大変なのでは…、と内心心配していたのですが、うれしいことにこれは杞憂だったようで、ご本人は日々粛々と仕事に向かい合っておいででした。

「先輩のメールの終わりに、さりげなくわたしの体調を気遣う文面があるのがうれしい」と話していた佐々木さん、今後はご自身もそうした配慮をもって、どんどん周囲とコミュニケーションしていってください! 通勤する際は、運転に気をつけて。

[堀込]





朝日広告賞へ応募しました
     グラフィック・デザイナー養成講座

  2001年2月にグラフィック・デザイナー養成講座を開講し、1期生はいよいよ3年目に入りました。本当の基礎から始めた講座でしたが、内容もかなり実践的なものとなり、パンフレットやポスターといった課題にも取り組んでいます。

 今回、これまでの学習成果をいかして実践経験を積むために、1期生が「朝日広告賞」に作品を応募しました。朝日広告賞とは、もっと新しい新聞広告表現を、という趣旨で行われているもので、企業等の新聞広告を募集しています。

 受講者3名で日々話し合いながら一つの作品を作り上げていく過程はとても頼もしいものでしたし、応募作品も綺麗に仕上がったように感じています。ここでは、実際に制作に携わった中村桂子さんに応募の感想を伺ってみました。

 

●今回の作品のテーマは?

 ある企業のウォーキングシューズの広告で応募しました。イメージコンセプトは「ロマン」です。「この靴を履いて歩けば、世界が違って見えそうだ」と感じてもらえる広告になるよう、アイデアと表現を工夫しました。

●作品を制作する上で苦労した点、楽しかった点は?

 コンセプト作りから印刷の依頼、搬入まで、トータルな作業を初めて自分たちでやりましたので、常に不安だったし苦労だったとも言えるのですが、同時に全てが初めての経験なので刺激的で楽しくもありました。

 

●これからの抱負を教えてください。

 これからの、講習生として最後の1年は、更に実践的な課題が増えると思うのですが、小さくまとまらずに、他人様に納得してもらえるオリジナリティー、みたいなものを引き続き追求したいと思います。

今回の応募は、受講者にとっても私たちにとっても貴重な経験になったと思います。

[鶴田]

朝日広告賞応募作品
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障害者基本計画の中の「在宅就労」

 近年の障害者施策は、1993年度に策定された「障害者対策に関する長期計画」等に基づいて推進されてきました。その長期計画が平成14年度で最終年度を迎えることから、平成15年度を初年度とする新たな障害者基本計画が平成14年12月に策定されました。

 基本計画では障害者の生活全般にわたる施策の方向性が示されています。その中で、雇用・就業については、障害者の自立・社会参加のための重要な柱であり、今後も一層環境の整備が求められます。今回は、障害者雇用率制度を柱とした施策の推進が図られる一方、短時間雇用や在宅就業といった多様な雇用・就業形態の促進も重視されています。  在宅就業にとって重要なキーワードの一つである「IT」を活用した就業の推進については、

(1)障害者の職域の拡大、雇用・就業形態の多様化、職業能力の開発などの面でITを最大限活用することや、

(2)IT技術を活用し、障害者が支援機器等の操作に習熟するための効果的な職業訓練を推進すること

などが挙げられています。

 最近は、企業等への就職だけでなく、個人で仕事を請け負う形での就業を希望する障害者も増えています。特に体力の面などで長時間の仕事が難しい方にとっては無くてはならない働き方の一つです。今回の基本計画では、「在宅就業を行う障害者の仕事の受発注や技能の向上に係る援助を行う支援機関の育成、支援等の充実を図る}という方針も盛り込まれています。障害が理由で顧客との打合せや営業が困難だったり、教育の機会が少なかったりと、障害者が在宅で一人仕事をするのは困難な面も多くあります。こうした方に対しては、仕事の仲介や、OJTなどの教育支援を行う機関の存在が非常に重要ですが、その体制はまだまだです。

 こうした支援機関が安定した運営基盤を持てるような制度の整備や、企業等が仕事を発注しやすい仕組みづくり、在宅就業に関して相談できる拠点の増加、および在宅で教育を受けられる環境整備などが今後進められることを期待します。

[鶴田]

障害者基本計画(内閣府)
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonkeikaku.html




グループワーク授業の実践(プログラマコース)

 IT技術者在宅養成講座(在宅パソコン講習)のプログラマコースでは、毎年卒業制作としてグループでの共同作業(以下グループワーク)を行っています。今年はCGI(Common Gateway Interface)を使用した、仮想のチケット販売会社サイトの構築が課題です。

 開発中のメンバー間のやりとりは、メーリングリストが中心ですが、今回初めての試みとして、日本IBM様よりご支援いただいている「Lotus Sametime」の遠隔会議システムを使用しました。Sametimeの活用によって、それぞれの自宅からでもリアルタイムで打ち合わせが行え、言語障害で会話が難しいメンバーもチャットの併用でスムーズなやりとりが可能となりました。

 グループワークは、技術の向上はもちろんのこと、工程計画をたてる、納期を守る、メンバーとの意識合わせをする、といった仕事の進め方を体得する場でもあります。また、クライアントとのやりとりを通じて、ビジネスマナーも学びます。

 グループでの作業はプレッシャーも大きく、休日深夜をいとわず作業が続くときもあります。しかしその分、一人での在宅学習では見られなかった、リーダーシップや他人への心配りなどの能力が開花することもあり、毎年驚かされています。これらの経験を修了後の進路で生かしていただければと思います。

 

●チーム体制
     役 割
生徒A プロジェクトメンバー(リーダーを交代で行う)
生徒B プロジェクトメンバー(    〃     )
講師A プロジェクトマネージャー
講師B クライアント(発注者)

 

Sametimeでの打ち合わせの様子
Sametimeでの打ち合わせの様子



おめでとう!

沖ウィンテック株式会社に勤務決定

K.R さん  疾患 1種1級
   
(IT技術者在宅養成講座 第19期生)



編 集 後 記

 新しい事務所になり、職場の雰囲気も変わりました。今後は印刷部門など他の事業とも連携が取りやすくなります。

 まだ慣れきっていない面もありますが、これを機会に新たな気持ちで再出発したいと思います。

[鶴田]




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