重度身体障害者の在宅就労を考える トライアングル
 
 

Vol.35 CONTENTS  2005.7(平成17年)

   

■「Ac+C'04(アックゼロヨン)」
  WEBアクセシビリティセミナーに参加して

■es-team(エスティーム)新体制でスタート

■障害のある方の在宅就労事例

■東京都障害者ITサポートセンター便り

■在宅就労を支援する施策 〜霞が関の動きより〜



     「Ac+C'04(アックゼロヨン)」
   WEBアクセシビリティセミナーに参加して

 

 昨年の6月に「JIS-X-8341」、いわゆる高齢の方や障害のある方などに配慮された「情報アクセシビリティ指針」がJIS(日本工業規格)化され、特に利用頻度の高いWEBコンテンツの分野においては、公的機関をはじめ、企業のサイトなどにも規格への対応が求められるようになりました。制定から約一年が経ちましたが、この間、コンテンツを企画・制作・運用に携わる関係者の間でも、その重要性や有効性についての認識が加速度的に進み、ガイドラインの構築やビジネスアプローチが積極的に行われています。

 こうしたなか、WEBコンテンツの設計・開発者やクリエータ、デザイナーなどを対象としたセミナーがあると聞き、4月22日(金)に開催された「Ac+C'04(アックゼロヨン)・WEBアクセシビリティセミナー」(主催:社会福祉法人プロップ・ステーション)に参加させていただきました。このセミナーでは、実際に制作アプリケーションを用いた専門的な講義の他、段階的にアクセシビリティに取り組むことへの推奨のほか、検索結果で差別化をはかるためのコンテンツ最適化の必要性などにも言及され、情報保障の確保がいかに多くの人にとって有用であるかを知ることができました。

 WEBのアクセシビリティは、特別に難しい技術を必要とするわけではなく、基本的な知識をうまく組み合わせることによって、誰でも取り組むことができるものと思われます。むしろ、WEBを通じて発信する情報の伝達保障がどれだけ多くの人に価値を生み出すか、あるいはクライアントにとってメリットとなる価値をどれだけ創造できるか、といったことの認識が重要であると考えます。

 東京コロニーが運営する在宅就労(SOHO)グループ「es-team(エスティーム)」では、WEBコンテンツ分野における最適化のためのガイドラインづくりに取り組んでいますが、当事者の目線でアクセシビリティを検証できる強みもあり、「誰にでも見やすいサイト」がもたらす社会的意義や、自らの価値の上昇に向け、これからも研鑽を重ねていきたいと思います

[吉田]

WEBアクセシビリティとクリエイティビティを考えるフォーラム「Ac+C'04(アックゼロヨン)」
WEBアクセシビリティとクリエイティビティを考えるフォーラム「Ac+C'04(アックゼロヨン)」
http://www.acc04.jp/



     es-team(エスティーム)新体制でスタート

 

 5月11日(水)、東京都障害者ITサポートセンターにおいて、es-teamの10名のメンバー全員と、職能開発室の職員3名による全体ミーティングが開催されました。この3月に、職能開発室の担当が交代したこともあり、新任者(吉田)から、今年度の基本方針について説明がなされ、その後2名のメンバーからの課題発表や、全員による意見交換がなされました。

 es-teamが手がけるIT系のメディア制作は、クライアントのニーズがますます多様化・重層化され、前項のアクセシビリティ指針にそった情報保障のための技術の共有や、他のメディアを含めたマルチユースの提案力についても必要性が論じられています。このため、全メンバーそれぞれがもつ技術やノウハウを共有し、案件ごとのワークフローにおいて効率的にオペレーションのできる「コーディネータ」を、メンバーの中村桂子さん(後述)に担ってもらい、業務の効率化はもちろんのこと、一定の品質の確保や、案件ごとの課題抽出と各メンバーへの還元をコーディネートしていただくことになりました。さらにこれを支えるメンバーが、与えられた業務の遂行に加え、主体的にスキルアップのための情報提供や相互補完などに取り組んでいくこととしました。

 おりしも今年度より、厚生労働省による在宅就労(就業)支援事業「バーチャル工房」(後述)の本格実施が予定されており、こうしたes-teamの取り組みが、今後の支援事業の展開の中でひとつのモデルとして紹介ができるよう、仕事を通じてひとつひとつ積み重ねていきたいと思います。

 ミーティング当日は、日ごろ自宅で仕事をしているためなかなか顔を合わせる機会の少ないメンバーが一同に会し、初対面の人もいる中で、発表や近況報告がなされ、刺激を受けあいながら、これからの目標と取り組みについて積極的な議論が交わされました。新しくなったes-teamに、どうぞご期待ください。

[吉田]

 ■2005年度からの業務フロー




     障害のある方の在宅就労事例

 

中村 桂子 さん
(30代 外傷による両下肢機能障害)
(SOHO歴;5年目

  [専門分野]
  デザイン(WEB/印刷物)、
   HTMLコーディング

 

中村さん

 

 この春から、SOHO グループの要と言われる「コーディネーター」になられた中村さん。
 ご専門のデザイナーとしての横顔とともに、その大変さ、面白さなど色々うかがってみました。SOHOを目指す方にはご参考になるのでは?



  Q:中村さんは、最初からSOHOを目指されていたのですか?
   いえ、最初は「目指していた」わけではないです。9年前に交通事故に遭い、腰と両足に障害が残ったため、職場にも復職がかなわずにいました。そのリハビリ生活中にインターネットに夢中になるうち、ネットを使って自宅で受注や納品をする働き方があると知り、その道へ。

  Q:最初はどんな仕事からのどんなスタートでしたか?
   最初は主婦ばかりのデータ入力のグループです。そこでの数ヶ月で、費やすエネルギーが、収入や信用、次のステップ、など全ての面にストレートに反映されることが分かり、その「ダイナミックさ」に非常に魅力を感じるようになりました。で、身を立てるためのスキルをちゃんと身につけたいと考え、東京コロニーさんのSOHOグループes-teamに入りました。

  Q:なるほど。SOHOという働き方に本格的に船をこぎ出したわけですね。
 

 ええ。自分はもともと話下手のメール好きだから、こういう働き方はうってつけだな、と思っていたのですが、しばらくするうち、対面でもメールでも、コミュニケーション能力の高さが大いに要求される働き方だと分かってきました。それに気付いてからはセミナーに通ってみたりしましたが、結局、言葉は内にあるものしか出ませんよね。だから、日々自分なりに周囲の物事についてなるだけ深く広く考えるよう心がけを始めました。

 それと、SOHO開始後は、分からないことは検索の鬼です。自分で調べたり本を読むなどでHTMLの技術を習得しました。また「グラフィックデザイナー養成講座」に3年間通い、WEBにも印刷物にも共通するデザインの基礎を学びました。技術的な引き出しを増やすこともさることながら、「職業人としての志・心得」という点で日々勉強です。


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  Q:さて、ではお話をコーディネーターの仕事に…。
  コーディネート業務の概要と3ヶ月経っての感想を聞かせてください。
 

 えー、まず営業の方がヒアリングして来てくださった仕事の内容(紙の原稿やデータ)を受け取って、納期までにあげられるよう担当者を決め、メールで依頼します。その結果、皆さんからあがってきたデータを検品し、必要があれば修正を依頼、完成したものを営業に送ります。打ち合せにも出席してデザイン的な要望などを聞く場合も。

 感想は、「仕事を回していくだけでこんなに大変だとは!」です。当初は、しくみ作りなど色々と考えていましたが、なかなか時間が取れない。新鮮な驚きは、ワーカーの皆さんが本当に真面目で熱心だと分かったことでしょうかね。こんな方たちの時間や労力、能力をもっと生かした形を考えねばバチが当たる、と思うと、ワクワクすると同時に軽くプレッシャーです。(笑)


  Q:ふむふむ、では、今後の具体的な課題などもお話いただけますか?
  また、これからSOHOグループを作る方々へアドバイスなどありましたらお願いいたします。
 

 グループとして作業する利点を最大限に生かすため、各種ガイドライン・マニュアル類の整備が必要です。技術的なガイドラインと、誰かが体調を崩したり、データを失くしてしまったり、などのリスク回避のためのマニュアルです。

 「グループである」ことは利点と同じく課題も多い。「責任」「費用」の分担をはっきりさせやすい流れを作ることも必要ですね。先ほどの、皆さんの時間や能力を最大限に生かす、ということとも関係しますが、各自が一つの案件のリーダーとして仕事の全容をつかむ立場を経験すれば、自分の仕事だと捉えることの幅が広がり、結果として全体がスムーズに回るようになって新しい提案も出てきやすくなると思っています

 アドバイスなんてまだありませんが、やっぱり経験値を増やすことでしょう。実はわたくしも5月の中旬に、事実上、初めてのコーディネート、プラス初めてのWEB短期大量更新、という初めてづくしのお仕事(約1300ページ更新/1週間)を受注しまして、ここまでにお話しした事柄も、全部この初仕事の経験と、その後でお願いしたアンケートの回答から考えたことなんです。(笑)


  Q:説得力のあるお話の数々ですね。では、最後に中村さん個人の課題、思いをどうぞ!
 

 まず、時間の使い方が上手くない。優先順位がすぐ見えなくなってしまうというか。後は、体力的なことでしょうかね。年のせいか(笑)思ったより無理がきかないので、休みを入れるタイミングや運動をする機会を作るなどしていかないと!です。

 あと、皆さんそれぞれの障害があるので、何といっても身体のことが気になります。でも、こちらから先回りして仕事を加減するのは筋が違う、逆に失礼だし僭越だと思うので、ばんばん頼んで、無理なときに言いやすい雰囲気を作ったり、無理だと連絡があったときの態勢を整えておくのが自分の仕事だと考えています

 「やりやすい」とワーカーの皆さんから言ってもらえたときがコーディネーターとしての喜び、そして、お客さまが私のデザインを見て喜んでくださるときが、やっぱりデザイナーとしての私の喜びですね。




     シリーズ第3回 東京都障害者ITサポートセンター便り
 自分の体は自分で守ろう! 
―作業環境、チェックしてますか?―

 

 最近、作業姿勢に関するご相談が増えています。

 健康に自信のある屈強な体格の方でも、長時間のパソコン操作の後は肩や首が辛そうですよね。容易に体を伸ばしづらい方はなおさらです。時間ごとの休憩はもちろんですが、あらためて、ディスプレイの位置や什器の高さを再点検してみませんか。お使いのキーボード、マウスなどが本当に体にあっているかを見直すのも大事です。

 一般的なチェックは、下記のようなサイトでポイントを見ることができます。また、担当のPTさん、OTさんがおられる方はぜひ作業環境を含めてみてもらいましょう。

●独立行政法人 労働安全衛生総合研究所「パソコン利用のアクション・チェックポイント」

 周囲にそういった相談できる人がいない場合は、サポートセンターにご相談ください。展示場のマウスやトラックボール、キーボードなどをお試しいただくのものよいですし、必要な場合は、こちらで各方面の専門家の方を集め、アドバイスすることも可能です。

 また、弱視の方向けには、秋から「ロービジョンデー」と称して、1ヶ月に1度、画面設定の練習をする日ももうけます。長くパソコンライフを楽しみたい方、仕事を一定時間やりたい方。快適で安心できる作業環境を準備したいですね。

[堀込]

 

パネルキーボード・トラックボール・拡大キーボード
左から、「インテリキー (株)アクセスインターナショナル」・「エキスパートマウス ケンジントン」・「目にやさしいキーボード KAUSBW-A1  イワタデザイン」
これらの機器は、東京都障害者ITサポートセンターでお試しいただけます。

●東京都障害者ITサポートセンター
http://www.tokyo-itcenter.com/




     在宅就労を支援する施策 〜霞が関の動きより〜

 

 17年度より「重度障害者在宅就労促進特別事業(バーチャル工房支援事業)」が創設されることが決まりました。この事業は、重度の障害のある方が在宅でITを活用して就労を希望する場合、その支援をする事業者(バーチャル工房)がIT教育や実際の仕事を用いての訓練等をすることについて補助を行うものです。全国で10箇所程度の支援団体がバーチャル工房の指定を受けることが予定されています。

 また、現在、衆議院厚生労働委員会では「障害者雇用促進等法改正法案」の審議が行われています。従来より企業は障害者雇用率制度に基づき、障害者を雇用した人数に応じて調整金を受給していましたが、改革案ではさらにこの制度を拡充して、仕事を発注した場合においても調整金を受給できるようにすることが盛り込まれています。

これまでの障害者の労働施策は「雇用」に主眼が置かれていましたが、これら2つの施策によって雇用にとらわれないさまざま就労の形を認め推進する方向に変わっていると感じます。より多くの人に仕事の可能性が広がることを期待したいと思います。

[岩田]

 

「障害者雇用促進等法改正法案」の審議案
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/01/s0121-8c.html

バーチャル工房支援事業の内容
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/
chousa/shougai/pdf/041026_2_s3.pdf





 

編 集 後 記

 はじめまして! この4月よりSOHO支援担当を仰せつかることになりました吉田岳史と申します。

 まだまだ不慣れで諸先輩の指導(?)を仰ぐ毎日ですが、本号では2つの記事を書かせていただきました。仕事を通じ「みんながハッピーに」なれるよう、SOHOスタッフとともに努めていきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願いします。

[吉田]



 

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