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■重度身体障害者の在宅就労を考える
トライアングル
機関紙『トライアングル』は三菱商事株式会社様のご協力により発行しております。

Vol.40 
CONTENTS 2007.3(平成19年)

■「第2回在宅就労セミナー」開催!

■障害のある方の在宅勤務事例

■「短期IT講座『Web制作応用編』」順調です!

■シリーズ第7回サポートセンター便り
 「ITサポートセンター、こんな使い方どうでしょう」

■IT技術者在宅養成講座
 情報処理試験の午前免除講座になりました

■おめでとう

セミナーの様子

 2月14日(水)、表題のセミナーを都内「六本木ジョブパーク」にて開催しました。 昨年実施の第1回目セミナー(Vol.39参照)では、主に「在宅雇用」の解説と実例紹介に焦点を当てた内容でしたが、今回は、昨年新設された「在宅就業障害者支援制度」のあり方を通じ、「雇用されずに/在宅で」働くという選択肢の現状と展望について考えるもので、このテーマについてのセミナーは初の試みとなりました。

 この日、職能開発室が運営する在宅就労グループ「es-team(エス・チーム)」からも2名のワーカーの方がパネリストとして登壇し、在宅就労のきっかけや仕事に関するエピソード、就労によって得た喜びや今後の決意など、まだまだ全国的にも体験談が乏しい中、臨場感のある具体的な内容にフロアからも非常に高い関心が寄せられました。

 また、企業の求める人材像に触れつつ、障害者雇用の現状や課題に切り込んだ講演のほか、厚生労働省の方による制度解説も盛り込むなど少々欲張った内容で、最後は時間が足りなくなるという一面も見せてしまいました。

 ところでこの支援制度、働ける時間の制約などにより「雇用ではない働きかた」を選ぶ人たちの就労支援策としても期待が集まり、発注奨励策が盛り込まれるといった画期的な側面を見せていますが、一方で運用の煩雑さや目標値の曖昧さ、さらには「そもそもどんな制度?」といった浸透の薄さなどの指摘がありました。こうした課題があらためて浮き彫りとなり共有できたことも、ひとつの成果であったと考えます。

 当日は雨の中、各地の支援団体を始め、福祉関係の方や在宅就労を目指す方、そして企業関係の方など、さまざまな立場から80人近くの方が集まってくださいました。制度については、この働き方を必要とする方々の声が強く印象に残ったこともあり、改善の必要性を講じながらも、今後うまく活用していきたいと考えます。予定時間を過ぎても白熱した議論が続くなど多くの方々の高い関心をうかがい知ったことを機に、支援団体のひとつとして、あらためてスタートラインに立ったという思いを抱いています。

(吉田)

※在宅就業障害者の支援制度については厚生労働省の資料をご参照ください
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/shougaisha01/pdf/gai0604a.pdf (PDFファイル)

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松尾さんの作業風景

松尾 美千代さん  (30代)
(関節リウマチ1種1級)  
(IT技術者在宅養成講座'05年修了)

株式会社テレビ朝日人事局付
 株式会社テレビ朝日データビジョン出向

入社時期
2005年11月
雇用形態
契約社員
勤務時間
10:00〜18:00 (1時間休憩含む)
就労場所
自宅
出  社
不定期
仕事内容
字幕放送番組の字幕制作

 

Q:字幕制作のお仕事も2年目に入られましたね。お仕事の大まかな流れから教えてください。

 はい、まず1週間のスケジュールをメールで受け取り、続いてCMの入る時間などが入った番組のタイムシート等がFAXで来ます。次にサーバーにアップされた番組の動画をダウンロードし、専用ソフトで再生しながら聞き起こしてセリフを入れていきます。

Q:ドラマは台本があるんですよね。

 ええ、一応ありますけど、放送される番組内容が同じとは限りません。場面の追加やカットがあったり、設定やセリフが変わったり。台本にそって制作しますが、あくまで「聞き起こし」が中心です。台本では山で殺されているのに、できあがったものでは海だった、とかね(笑)。

Q:そうした作業の「いろは」は、どうやって身につけられたのですか?

 入社したての15日間は通勤して研修を受けました。最初は練習用素材に字幕を入れて、それを試写して意見をもらい修正。在宅作業になってからもサーバーにアップしてもらった練習用の素材に字幕をつけ、会社で一緒に試写してもらいました。その繰り返しを3ヶ月間やったのち「ドラえもん」で本番デビューいたしました(笑)。

Q:試写って大事なのですね。

 試写は担当者と一緒に見るのですが、おかしな表現、誤字脱字など指摘されてわかることは多いです。最近は会社で一緒に試写をすることは少ないのですが、試写担当者が訂正箇所はきちんとFAXしてくれるので、それを必ずノートに書いておきます、今後のために。

Q:たとえばどんな訂正があるのですか?

 主に、聞き間違えや誤字です。あとは、音の表現だと「“泣き声”を“嗚咽”に」や、「“雷の音”を“雷鳴”に」など。また、時代劇ではあまりカタカナを使いませんので、「バカ野郎」を「馬鹿野郎」とか。視聴者の方には短い時間に読み取ってもらうので、文字から受ける雰囲気や見やすさを大切にします。

Q:トラブルや相談はどうしてますか?

 デスク担当が複数いますので、電話をかけて早めに解決します。電話の前に文字で概要を読んでもらっておいたほうが効率がよい時は、最初にメールであらましを伝えるようにしてます。相談もしやすい環境ですよ。上司や先輩とのメールには時折仕事以外の事も書いて、まめに近況報告をしています

Q:一番のやりがいは何でしょう。

 やり終えた時の達成感。自分が作った字幕を自分でテレビで見ることができる、こんな仕事はなかなかないですよね。そして何より、字幕を見て番組を楽しんでくださる方がいるということがうれしいし、励みになります

Q:今後の課題や気をつけたいことなどあったら教えてください。

 番組でいえば、映画とか様々なジャンルにチャレンジしたいですね。仕事のやり方としては「今以上に、進捗管理を明確にする」

 会社は在宅勤務者には無理のないスケジュールで仕事を組んでくれるのですが、急ぎの仕事にも対応できるようになりたいし、色々な要求にも応えたい。ですから、「進捗はどうですか」と聞かれたら「いつ終わります」って確実に状況を伝えたいと思っています。やっぱり顔が見えない分、何かあったら信頼も失いやすいと肝に銘じています。

Q:松尾さんは実は2社目の在宅勤務でいらっしゃる。そうしたご経験から言える「在宅就労で大事なこと」って何でしょう?

 ひとつは、できることできないことを明確に。たとえば「出社は週1回できますが、満員電車に乗るのはキツイです」という風に。会社に通う場合でも同じですが、最初にきっちり理解してもらうことが大切です

 ふたつめは、相互に信頼関係を作っていくこと。例えば、わたしも在宅で孤独な時もあるし、「会社はどう思ってるんだろ」って迷いながらやっている日もあります。そんな時、先輩から「この前の字幕わかりやすかったですよ」ってメールをもらうと、モヤが晴れて「この道でよかったんだ」ってわかる。そんなやりとりの積み重ねが、社員として一緒に働いている実感と互いの信頼感につながるんです

Q:最後に、あとへ続く方へ恒例のアドバイスを!

  自分の思いや意見を、自分の言葉で伝えられるようにしておくこと。仕事は一人でやれるものではないので、顔をあわせる働き方もメールで話し合う働き方も、結局「この人と一緒に働きたいかどうか」ってことが問われると思うんです。仕事の技術は研修や実践で覚えられますので、まずはうまくコミュニケーションをとれることが大切ですよね。

 

テレビ朝日データビジョン
テレビ朝日データビジョン


インタビューを終えて:

 仕事机には、登場人物の呼び名から癖などご自分なりに細かーくまとめたメモや、「NHK新用字用語辞典」、「朝日新聞の用語の手引き」など調べもの用の分厚い本がどっさり。字幕制作という仕事は番組作りに他ならない、と改めて気づきました。

 今までの字幕放送は専用のチューナーが必要で聴覚障害の方が対象の中心だったと思うのですが、昨年スタートした地上デジタル放送では標準機能として誰もが普通に字幕を楽しむことができます。携帯電話のワンセグ放送でも読めるってことですから、より多くの方が松尾さんのお世話になりますね。重要なお仕事、これからも応援しています!

(堀込)

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Webサイトの制作に必要な技術やワークフロー等を在宅で学ぶ4ヶ月間の講座が昨年11月から始まり、応募した5名の受講生全員が講座修了にむけ、総仕上げ(=課題制作)の真っ只中にいます(2/19現在)。

 これまで職能開発室が独自で企画・実施してきたこの講座ですが、今年度より国や自治体が実施する「障害者委託訓練事業(e-ラーニングコース)」の一環として行うようになり(前号参照)、在宅就労の実現に向け、より訓練性の高いカリキュラムを設定しました。

 今回の講座では、実践経験が豊富な2人の講師を迎え、講座の前半ではデザインやアクセシビリティの技術習得を、後半は実際の受注から納品までのフローを想定したグループワークによる課題制作をそれぞれ行い、日々の自己管理や進捗のチェック、報告や相談などについても実際の仕事を想定して行うなどの工夫を凝縮させた内容となりました。

 従来にも増して実践的で、計400時間を要したハードな講座となりましたが、この記事が紹介される頃には、受講生の皆さんはすでにこの講座を修了し、ここで培われたスキルを自信に、さらなるステップに向かっていることと思います。

 そして職能開発室では、在宅就労の実現に即した講座を次年度も順次用意していく予定です。今後の講座のラインアップにどうぞご期待ください。

(吉田)

受講生の作品
受講生の作品

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ITサポートセンター

 現在センターには1ヶ月100名〜150名の方が来訪されますが、その多くはパソコンの使い方相談やご見学です。でも、サポセンの使い方は実はまだまだありますよ〜。以下はその一部です。

○講習室、貸し出します
  センターの講習がない日は、自由に講習室を利用していただけます。条件は、障害のある方(その支援者)に関わる無償あるいは実費程度の研修であること。講師用PCが1台、受講生用が12台、福祉支援ソフトなども既に入っていますよ(事前に団体登録が必要)。
例:都内養護学校OBグループのPC勉強会など

○サポーターズ・カフェでバリスタが待ってます
  コース一覧から好きな授業を好きなだけ選んでもらう選択型講座が「サポーターズ・カフェ」です(詳細は前号を)。講師を務めるのは我がサポセンが誇る50名のサポーターさん(ボランティア)。

 興味のある方はまずはホームページをご覧下さい(見られない方はお電話を)。
例:音声ソフトを利用して学ぶコース「こんにちは、エクセルさん」など

 その他、「作業環境が体にあっているか」、「もっと便利なツールはないか」、などスタッフが一緒に考えます。どうぞお気軽にお問い合わせ下さい!

(堀込)

●サポーターズ・カフェ http://www.tokyo-itcenter.com/
●東京都障害者ITサポートセンター  電話:03-3208-0471  FAX:03-3208-047

 

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 東京都の補助事業として東京コロニーが実施している「IT技術者在宅養成講座」が、2006年11月付けで情報処理技術者試験(基本情報・初級シスアド)の午前試験免除講座として認定されました。この制度は、認定された講座を受講して修了条件を満たし、かつ「修了試験」に合格した人が、その後1年間の情報処理技術者試験の午前試験が免除されるというものです。

 2007年2月現在、東京都内では15の専門学校や大学などが認定(特区によるものを除く)されており、今後も広がっていくものと考えられます。障害のある方にとっては、午前午後合わせて5時間以上の試験は体力的にも厳しかったため、この制度によって本来の力が発揮され、合格につながりやすくなることを期待しています。

(岩田)

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◆株式会社 旺文社 にて勤務決定
  K.M さん エリテマトーデス 2種3級
  (IT技術者在宅養成講座 2007年修了)

◆株式会社ベルシステム24 にて勤務決定
  T.R さん 脳性麻痺 1種1級
  (IT技術者在宅養成講座 2007年修了)



編 集 後 記

 東京では桜といえば入学式の風物詩だったように思いますが、今はもう卒業式のイメージかもしれませんね。IT在宅講座でも、2年間一緒に学んだ人たちの旅立ちと、そして新しい仲間との出会いが交錯するちょっとセンチメンタルな季節です。

(岩田)

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