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■重度身体障害者の在宅就労を考える
トライアングル
機関紙『トライアングル』は三菱商事株式会社様のご協力により発行しております。

Vol.41 
CONTENTS 2007.7(平成19年)

■島根の「障害者在宅就業支援フォーラム」に参加して

■障害のある方の在宅勤務事例

■「バーチャルメディア工房ぎふ」のセミナーに登壇して

■在宅講座レポート「巡回指導」の巻

■おめでとう

 去る3月10日、いきいきプラザ島根にて、ITなどを活用した障害者の在宅就業への理解を深める「障害者在宅就業支援フォーラム」が開催され、人事担当者や障害のある方など約百人が、就労の現状や事例を学ぶために集いました。

 昨年よりこの誌面でも何度かご紹介してまいりましたが、法改正による在宅就労支援制度の認知度はまだまだ低く、ほとんど事業主側に理解されていないのが現状です。このフォーラムでは、来場者一人一人に情報が正しく届くよう、主催の松江市の社会福祉法人「ふらっと」様が工夫に工夫を凝らした解説をされていたのが印象的でした。

 制度の説明は寸劇となっており、「ふらっと」職員の方々が俳優です。ハローワークに何度行っても仕事が決まらない車椅子の太郎さんをはじめ、「損はさせない」と事業主に迫る就労支援担当者や「雇わないよ」と言い張る社長さん。それぞれの登場人物が“いるよねぇ”と思わせる茶目っ気を持ちながらも、助成金や雇用のコーディネーター制度などについてきっちりと説明が行われていました。いわゆる在宅就労支援団体の役割を、ここで初めて理解できた方も大勢おられるのではないでしょうか。

 しかし、各地で支援団体の活動がこのように誠実に取り組まれるにつれ、一方でこの制度のそもそもの利用しにくさが垣間見えてきた現実もあります。事業主の利用条件のきびしさや、活用メリットの不明瞭さも否めないでしょう。

 支援団体の牽引を柱に据え、今後、民間・行政・自治体が手を携えてフットワーク良く動けるかどうかが試金石となりそうです。

(堀込)

ふらっと様のウェブサイト
ふらっと様のウェブサイト
※社会福祉法人ふらっと様は、平成18年度、厚生労働省の「障害者在宅就業支援団体」制度の認可を受けられました。

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TBSラジオのウェブサイト

前田 紗永子さん  (20代)
(脳性麻痺 1種2級)
(IT技術者在宅養成講座'01年修了)

株式会社東京放送 経営メディア本部
 (株式会社TBSラジオ&コミュニケーションズ 現職出向 編成局編成部)

入社時期
2001年4月
雇用形態
嘱託社員
勤務時間
10:00〜17:00 (1時間休憩含む)
就労場所
自宅
労務管理
週ごとの報告書と月次の出勤簿
出  社
不定期
仕事内容
TBSラジオの番組考査

 

Q:在宅勤務も7年目に入られました。実際の自宅での勤務は、以前いだいておられたイメージとギャップはありましたか?

 いえ、それほど差異はありませんでした。それまでも在宅パソコン講習を毎日時間を決めてやっていましたし、連絡や報告の習慣もありましたから、比較的スムーズに勤務に入れました。今の会社に入るまでに、時差通勤なら自分でできるかな、と地元で通勤も目指しましたが、なかなかそれはかないませんでした。在宅勤務をさせていただけたことは本当に自分には適していました。

Q:ラジオの番組の考査とはどのようなことをなさるのでしょう。仕事の流れも含めて教えてください。

  まず、1ヶ月単位で聴取すべき番組のスケジュール表が届きますので、それにあわせて、パソコンでメモ用のフォームを作成しておきます。実際の放送は録音しながら聴き、内容のポイントや、気になった発言、言い回し、声の大きさ、等々気になったところをフォームに記録します。5日間たまったところで、報告書を作成し、メールで上司に送ります。

Q:(細かいメモフォームを見て)きっちり記録をなさるんですね。

 そうですね。ニュースのランキングとか、ゲストコメンテーターの顔ぶれなどもメモしますし、中継や電話が切れたアクシデントなんかも。これをベースにまとめたものが番組を作る側に届くわけですから、聞き落とさないよう、間違えないよう、記録していきます。新番組の時などは番組のコンセプトなんかも上司から情報をもらえるので、チェックする観点が明確になります。

Q:最近の報告を2,3うかがってよろしいですか?

(実際の報告書をめくって) えーと、一例ですが、「介護についての特集ではもっと現場の人の声を出すとよい」とか、「お笑いの方がスポーツのコメントをする場合の気遣い」なども書いてますね〜。本当に色々自分の視点で書かせてもらってます。

Q:このお仕事で「大変だなぁ」と一番お感じになることは?

 「こういう伝え方でリスナーは理解できるのか」などと考える時、対象となるものや事象を私自分がわかっていないとその発想に至りません。例えば「年金」のしくみを知らずして「年金特集」の企画を云々考査できませんよね。だけど、情報って日々洪水のように押し寄せますから、それをわかっておくことには苦労してます、特に苦手な政治面なんかは(笑)。

Q:それで机に閣僚の新聞切り抜きが置いてあるんですね。

 そうです。放送の中で閣僚の名前が間違えてコメントされたとしても、私自身が知らないんじゃ気づけませんからね。

 大半のリスナーは今日(こんにち)「ラジオ」だけでなく「テレビ」もある生活です。キーとなる人物や言葉は耳から入るだけじゃなく多分画面からフリップや写真でも見ることができるでしょう。だけど、目の見えない方もたくさん聞いておられますし、耳からの情報が頼りの方もいらっしゃる。だから、誰しもがすでに知ってると思われるような言葉や人物についても、時々は基本情報からきっちり説明や解説をすることがやっぱり大事だと思っています。

Q:なるほど。では、仕事についての悩みや課題はどうでしょう?

 自分の個人的な尺度と職業意識の切り分け、かな。上司からは私の報告の中味についてあれこれ言われることはほとんどありません。しかしそれだけに、リスナーとしての自分と仕事人としての自分の間で立ち位置に迷うことはありました。でも、結局は「私が感じたり書いたりすることの繰り返しが役に立つ」ということを信じることで、“聞く側にいる”ことの大切さがわかってきましたし、緊張感を保てるようになりました。

 課題は自分磨きでしょうか。色々な本を読んだり興味の輪を広げることは、確実に聴き方を豊かにしてくれると思います。実際のリスナーも成長し変わっていくように。

Q:在宅でのコツコツとした作業、月並みですが、気がめいったり淋しく感じたりすることはありませんか?

 うーん、アメリカの9.11の時がそうだったでしょうか。辛いニュースや特集が毎日延々と流れました。仕事が終わっても部屋は同じですしラジオもかけっ放しですから、確かに精神的に区切りにくい一面はありましたね。

 でも、日常的には気分転換は意外とうまくできているように思います。それに、“淋しい”は全くありません。他の仕事と比べたことはないし、「人の声」が常にある仕事ですから(笑)。

Q:では最後に、在宅就労を目指している後輩の方々に恒例のアドバイスをお願いします。

 何をやるにしても、まずは自分で自分を信じること。その上で、動機づけで揺るがないものがあれば、どこかで倒れてもまた自分を立て直していくことができると思います。仕事はその中に入ってからわかってくることがほとんどだし、やりつづけてこそ理解できることも多いですしね。

 私は人の話を聞くことが多分とっても好きなんです。だから、会社が私の仕事を必要としてくれる限り、何度でも立て直しながらこの仕事を一生懸命やろうと思っています。

 


インタビューを終えて:

 言葉を選びながら誠実に話してくださった紗永子さん。仕事を始めた頃は“番組制作者の一人という気持ちでがんばろう“と肩に力が入りすぎてたとか。現在は「一般リスナーのプロ」とでもいうのでしょうか。ご自身の中の揺るぎないものをお話の中で強く感じました。筆者自身のラジオデイズも懐かしくよみがえり、本当に楽しいインタビューとなりました。

(堀込)

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 こんにちは。在宅就労グループes-teamで作業の取りまとめと制作を担当している中村桂子です。

 去る3月15日、岐阜県大垣の「バーチャルメディア工房ぎふ」へお邪魔して「雇用されないで働くという選択」というテーマでつたないお話をしてきました。本紙40号でも取り上げられた「第2回 在宅就労セミナー」にて登壇をご一緒した理事長の上村数洋氏から、「工房内の在宅ワーカー、各種研修の受講者(約30名)を対象とした勉強会で、ぜひ先日と同じお話を」とのことで勿体ないほど丁寧なメールをいただき心が動きました。

 私の話は、雇用されずに働くことになったきっかけや苦労話などで、主にこれから働きたいと思っている方に向けたものでした。どの程度お役に立てたのか分かりませんが、会場の皆さんからは、講座や講習、特にデザインの講座について質問が多かったのが印象的でした。

 大所帯でないNPOでありながら、就労支援、人材の育成、啓発活動、果ては福祉用具の研究まで、幅広い活動をされているパワーの秘密が垣間見られるのでは?という気持ちも事前にはあったのですが、折角のチャンスだった工房の見学タイムまでは体力が続かなくて窺い知ることができず。でも雰囲気を感じることはできました。「ほんとにエビフライのことえびふりゃぁって言うんですか」といったマヌケな質問にもきびきびと丁寧に答えてくださるスタッフの方や初々しいワーカー一年生の方、最初から最後まで笑顔で応対してくださった上村氏、終了後に気さくに話しかけてくださる会場の方々など、全てがハートウォーミングで有機的な雰囲気にすっかり我が家のようにリラックスしていました。

 そのホスピタリティが工房の特色──ひいてはパワーの秘密──の一端なのか、それとも単にお国柄なのかは謎のままとなってしまい、心は千々に乱れつつも、味噌煮込みうどんを食してひたすら満腹のうちに帰京いたしました。

セミナーの様子
大勢の方にご聴講いただきました

※バーチャルメディア工房ぎふ様のウェブサイト

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巡回指導の様子

 東京都の補助事業として私どもが実施している「IT技術者在宅養成講座」は今年で18年目を迎えました。重度の障害のある方に在宅のままで情報処理技術を身につけていただきたい、という願いから始まったこの講座は、私ども職能開発室の原点であり、パソコン通信の時代から地味ながらも脈々と続けてきた事業です。

 講習方法はテキストやネット上の専用学習システムを使った自学が中心ですが、特徴的な仕組みとして「巡回指導」があります。これは、2週間に1度、講師が講習生の自宅を訪れる言わば「IT版家庭教師」。ネット上のやりとりでは曖昧だった事項をフェイストゥフェイスで学習することによって解決していきます。

 でも、巡回指導にはそれだけではない、いろいろな役割をもっています。

◆不安の解消、要望の吸い上げ
 質問するほどではないような漠然とした疑問、不安などを直接話すことで解消!
 また「学習報告に対するレスポンスをもっと書いてほしい」などご要望をいただくこともあります。

◆モチベーションの向上
 2年間の講習は山あり谷あり、時には気持ちが下がって停滞気味になることも・・・。そんなときは他の講習生の様子や、卒業生の活躍の様子などを伝えたり、押したり引いたり泣いたり笑ったりしながら、なんとか元の軌道に乗ってもらうようにします。

◆就労に向けてトータルサポート
 就労に向けて必要なことや、ネット上のやりとりを通じて気づいた言葉遣いや気配りなどの注意点について随時お話ししていきます。ご家族の意識や自宅の環境も就労に向けて少しずつ整えていただきます。

 勉強を教えるだけではなく、人としてそれぞれの講習生の方とどう向き合っていくか、常に悩みつつ共に成長させていただいています。一人でも多くの方が将来の希望を叶えられるように今後も一同頑張ってまいります。

(岩田)

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◆NTTクラルティ株式会社 にて勤務決定
  W.M さん 頚髄損傷 1種1級
(IT技術者在宅養成講座 1998年修了)

 他1名

イラスト1
   

◆マイクロソフトオフィススペシャリストExcel2003 合格
  K.T さん 脳性麻痺 1種1級
(IT技術者在宅養成講座 2008年修了予定)

イラスト2
   

  S.Y さん 疾患 2種2級
(IT技術者在宅養成講座 2008年修了予定)

 他1名

イラスト3
   

◆基本情報技術者 試験合格
  N.T さん 頚髄損傷 1種1級
(IT技術者在宅養成講座 2008年修了予定)

 他 初級システムアドミニストレータ 試験合格 1名

イラスト4
   

 



編 集 後 記

 今号の在宅勤務インタビューでラジオについて改めて考えました。テレビと違って「○○しながら」聞けるのがラジオ。受験勉強、ドライブ、アルバイト・・。ラジオの音と同時にその思い出が甦るから、何だかちょっと切ない気分になるのでしょうね。

(堀込)

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