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■重度身体障害者の在宅就労を考える
トライアングル
機関紙『トライアングル』は三菱商事株式会社様のご協力により発行しております。

Vol.50 
CONTENTS 2010.7(平成22年)

■プライバシーマーク,取得しました

■障害のある方の在宅就業事例

■es-teamミーティング2010 開催

■報告書できました(障害者自立支援調査研究プロジェクト)

■おめでとう

プライバシーマーク

認定番号 第10900012(01)
認定年月日 2010年6月4日
[ 個人情報保護方針 ]
 

 みなさんはプライバシーマーク(Pマーク)制度をご存じでしょうか。この制度は、日本工業規格「JIS Q 15001個人情報保護マネジメントシステム」に適合して、個人情報について適切な保護措置を講ずる体制を整備している事業者等を認定し、その旨を示すプライバシーマーク(図)を付与、事業活動に関してこのマークの使用を認める制度です。具体的な内容を御存じなくとも、これをWEBや名刺などで見かけた方はあるのではないでしょうか。

 このたび、社会福祉法人東京コロニーは、晴れてPマーク付与事業者として制度認定を受けました。これによって、福祉サービスの利用者の方に情報保護の面で安心して当法人を利用していただけるとともに、お客様に対しても、一定の情報保護システムを確立し運用していることをアピールすることができるようになりました

 実際、わたくしども職能開発室でも、過去、教育や就労支援の面で、たくさんの方の個人情報を預かってまいりました。場合によっては履歴書や障害者手帳のコピーなど、最も徹底して管理しなければならない種類の情報です。しかし、この取組みを開始するまでは、情報提供者を「深く理解」するためであることを情報を預かる理由とし、何より「支援」であるのだから…と、確固たる情報の取り扱い規則を持たないままでした。

 恥ずかしながら、今回の取得のための学習やシステム作りを通して初めて、正しい「情報」の管理無しに、正しい支援は行えないことが分かった次第です。

 しかし、Pマークを取得したからといって、未来永劫、個人情報の安全な取り扱いが行われるとは限りません。これまでも、認定事業所が個人情報流出事故を起こしている例は少なくないようです。大事なのは、継続のための職員全員の意識研磨と地道な努力。今の緊張感を持続させねばなりません。

 財団法人日本情報処理開発協会によると、平成22年7月5日現在で、認定事業所は11,508社。社会保険・社会福祉のカテゴリーは、医療、介護、健保組合をのぞくと全国でも20社程度で、中でも障害者の就労分野はまだ数えるほどです。取得を契機に、職員一同、より一層気を引き締めて日々邁進いたしますので、一歩進んだ東京コロニーを今後ともよろしくお願いいたします。

(堀込)

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北田 小夏さん (仮名) (40代)
(心臓疾患 1種3級)
(IT技術者在宅養成講座2009年修了)

株式会社東京商工リサーチ(業務委託)

仕事開始時期
2009年4月
労働形態
請負(SOHO)
就業時間
12:30〜15:30
仕事内容
WEB検索、情報収集
就労場所
自宅


 今回は、企業情報や信用調査でおなじみの東京商工リサーチ様から、その調査の一旦を担う作業を任されている北田さんのご登場です。北田さんは、2006年4月に東京コロニーのIT技術者在宅養成講座に入講され、病気のため途中1年間休講するも、見事にカリキュラムをやりとげ卒業されました。華奢でたおやかな北田さんですが、その芯は誰よりも強いかも。さて、その在宅ワークの様子はいかに?……。

 

Q:お久しぶりです! 講座が終わって仕事を始められてから1年2カ月ですね。修了時、就職のお話もありましたが、請負の仕事を選ばれました。その理由からお願いいたします。

 理由は、体調に合わせて作業を進められること。もうこれにつきます! わたしは心臓が悪いので、疲れた時や、雨が降る前日、遠くで台風が発生する日など、気圧のちょっとした変化でも心臓に痛みがあります。そんな時は、2,3日寝て、回復してから仕事をする。ともかく体の負担がないように…、これが一番大切なことなのです。今は、1日3時間〜4時間、体調が最も安定する時間に働いています。

Q:では、その仕事内容と醍醐味を教えてください。

 えーと、いわゆる企業データベースの会社のお仕事なので、詳しくはお話できませんが(笑)。
 まず、企業名等の資料をもらいます。調べる企業のWEBから必要なものを抜き出して資料を完成させていきます。この仕事の達成感は、情報の要・不要の判断が速くなり、抜き出しの効率が上がったことです。時々ですが、抜き出した情報を細かくチェックするとWEBの構造の矛盾や誤入力を見つける事も。可能な限り修正し、資料を完成させていきます。仕事を下さっている会社の方々は、開始の折は自宅で教育して下さり、その後も日々の仕事の中で丁寧に教えて下さいます。そのおかげで、回を重ねる事で力が育っていると自分で感じます

Q:経験値ですね〜。仕事を始めて変わったことなどありますか?

 収入を考えて作業の時間管理ができるようになったことでしょうか。請負ですから、正しくできた分の出来高でお金がいただけます。どれくらいの作業でいくらくらいになるか大体わかってきましたから、趣味のものを買ったりもできるようになりました。以前、家で働くなんて考えられなかった頃は、毎日ダラダラしてしまいがちでしたね。今は病気を持ちながらでも、仕事ができて、お金がいただける。生活に張りが出ました

Q:これまでの大変だったことと、それを乗り越えるキッカケになったことを教えてください。

 2001年までは普通に会社勤めをしていたのですが、その後ガクっと悪くなり、仕事も辞めざるをえませんでした。心臓病は目に見えないですから、他人に伝わらないし、わかってもらえない。家族でもわからない。元気そうに見えても、年を重ねるごとに、体調が悪い日が増え、痛みも強くなります。

 実は、講習受講中も調子が悪くなって講座を辞めようと思ったことがありました。でも、講師の方が「やめなくていいですよ、休めばいい。また良くなったらやりましょう」と一緒に考えてくれたのが救いとなりました。それと、入学時に、このトライアングルの過去のインタビュー記事で自分に近い病気の方の就業事例を目にしたことも、背中を押してくれました。

 今回インタビューをお引き受けしたのも、誰かがこれを読んでくれたら…そんな気持ちからです。

Q:そうだったんですね…。では、休講含め3年間頑張った講習は、どんなことを北田さんに残したのでしょう。

 技術的には今の仕事につながる基礎をいただきました。さきほどWEBを見て作りの間違いがわかる、と言いましたが、これも構造やソースを見ることができるから。これがわかれば、情報を抜き取る作業なども楽です。でも、そうした技術的なことよりも、一番大きかったのは、コツコツやることの意味がわかったこと。この講座は、2週間に1度、講師が自宅に来てくれて一緒に不明点の解析などをするのですが、その時気付いたのは、講師といえども、すぐに回答が出るわけではないということです。段取りを踏んで、地味な作業の繰り返しの上に、解はある。この気づきが今の私の軸になっていると感謝しています。

Q:ありがとうございます。支援する側として大切な示唆をいただいた思いです! では、恒例の、後に続く皆様へのアドバイスをいただけますか?

 病気や障害への不安は、なかなか回りにはわかってもらえないのが現実だと思います。だけど、自分でできることをとりあえずやる。それはまず興味があることからでいいのではないでしょうか。

 それから、個人的な意見ですが、具体的にはエクセルやワードのMOSは必ず取っておく。情報処理技術者試験も、仕事では必ずしも使わないかもしれないけど、自分にも他人にもわかりやすいアプローチとして有効だと思います。それと何でもいいから本を読むことかなぁ。自分の世界は狭いでしょ、数時間読むだけで、他人が何年もかかって培ったものを得られるのですもの! すごいですよね。


インタビューを終えて:

 お話の途中で、北田さんの目がうるむ時もありました。「同じような病気の人が読んでくれるかも」と、辛いこともあえて話して下さいました。感謝です!

 さて、この7月1日より、週20時間−30時間の短時間勤務者の障害者雇用率算定がスタートしました。「北田さんも1日4時間勤務でいけるね」と話すわたしに、「流れ自体は嬉しいけど、今度は“20時間”って区切られることになる。例えば週に10時間労働の人でも、給与は少ないとしても“社員”というのはダメなのかな。安心して働けるってことは無理なのかな」とポツリ。

 あー、目先の枠組みしか見えてなかった。この国の新しい労働の思想、真のディーセントワーク。考えてまいります!

(堀込)

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es-teamミーティング・ディスカッション
ディスカッションのようす

es-teamミーティング・理事長の講義
理事長の講義
 

 在宅就労グループ「es-team(エス・チーム)」では、日ごろ自宅などで働いている在宅ワーカーたちが年に一度集まり、事業報告や今後の方針を話し合い、そして親交を深め合うための全体ミーティングを行っています。今年で6回目となる恒例行事ですが、今年度は主に2つのプログラムを組んで実施しました。

 ひとつめは、ディスカッション形式による「es-teamサイトの運営と新コンテンツの検討」。リニューアル開設後3年が経過した自分たちのサイトをもう一度振り返り、現状課題やアイディアをワーカー全員で忌憚なく出し合うところからスタート。意見の中には、SOHOとしての自分たちの働きぶりがより伝わるようなコンテンツの提案や、es-teamが独自につくり上げた、就労上の衛生管理に関するノウハウ披露案など、具体的で新しいアイディアもあり、今後、新しいサイトをつくるにあたっての素地をここで固めることができました。

 もうひとつは、東京コロニー理事長の勝又による講義「障害者自立支援法などにおける制度と今後の動き」。テーマである自立支援法に限らず、権利条約批准に向けた運動やそれにともなう国内法制度の現状や今後について、当事者として第一線でかかわってきた勝又理事長の体験談を交えての講義には、ワーカーはもちろんのこと、付き添いの方やご家族の関心も誘い、質疑応答も活発なものになりました。

 今回のミーティングは、10名のワーカーが参加しましたが、年に一度とはいえ、全員が一同に会し親交を深める場というのは、在宅就労という形態の普及が高まるに伴い、ますます大切な機会になっていくものと考えます。欠席された方へのフォローという課題もあり、ミーティングそのものの意義や重要性についても振り返りを行った一日となりました。

(吉田)

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報告書
報告書 A4モノクロ 95ページ
報告書のHTML版はこちら
 

 前々号(Vol.48)でも紹介した「重度障害者の在宅就業において、福祉施策利用も視野に入れた就労支援のあり方に関する調査研究」の成果をまとめた報告書がこの3月に完成しました。

 この研究は、いわゆる福祉的就労の分野における在宅就労支援の導入に主眼を置いたものですが、その調査過程において、あらためて在宅就業支援制度の実態や課題も顕著になりました。たとえば、在宅就業を支援する団体の運営状況。ヒアリング訪問やアンケートの結果、9割以上の支援団体(未登録含む)が、少数の職員で、在宅と名のつくものなら訓練から就職支援まで大きな役割の担い手として期待されながら、対照的に公的支援はほとんどないという実情など・・・。支援団体のひとつである私たちも同じような課題を抱えていますが、同様のことが各地でも顕著であるということを示しています。

 本書はほかにも、対象者の属性や平均支払額、取り扱う仕事の種類、「なぜ在宅を希望なのか」という根本の動機の多様性など、これまで知られていなかった数字や事例を詳細に掲載しており、在宅就業支援制度の現状と現場の課題をエビデンスとして端的に示す直近の資料となっています。報告書は職能開発室のサイト(HTML版)でもご覧いただけます。ぜひご一読のうえ、引き続きご意見などお寄せくださいますよう、よろしくお願い申しあげます。

(吉田)

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◆マニュライフ生命保険株式会社 にて勤務決定
 H.N さん 関節リウマチ 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 2007年修了)

H.N さん
   
◆日本ヒューレット・パッカード株式会社
  シードセンター にて勤務決定

 M.K さん 脳性麻痺 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 2010年修了)
M.K さん
   
◆基本情報技術者試験 合格
 K.Y さん 脊髄損傷  1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)
K.Y さん
   
◆ITパスポート試験 合格
 K.N さん 筋ジストロフィー 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)
K.N さん
   
 H.H さん 筋ジストロフィー 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)
H.H さん
   
◆マイクロソフトオフィススペシャリストWord 合格
 S.E さん 脳性麻痺 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)
S.E さん
   
 H.H さん 筋ジストロフィー 1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)
H.H さん
   

◆マイクロソフトオフィススペシャリストExcel 合格
 K.Y さん 脊髄損傷  1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

K.Y さん
   

 



編 集 後 記

 巷で話題のiPad。先日、言語に障害のある方がiPadを使って筆談をしておられました。指で書いた文字が、対面する相手の向き(逆向き)に表示されて感動的! これからの可能性にワクワクします。

(岩田)

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