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■重度身体障害者の在宅就労を考える
トライアングル
機関紙『トライアングル』は三菱商事株式会社様のご協力により発行しております。

Vol.64 
CONTENTS 2016.3(平成28年)

■ 障害者権利条約 パブリックコメント提出にあたって
「テクノロジーが存在することと、それを使えることは別」

■ 障害のある人の在宅雇用事例 中川 美貴子さん
「勢いだけで何とかなります」

■ IT技術者在宅養成講座
「32期生 最後のグループワーク」

■ シリーズ第26回 東京都障害者IT地域支援センター便り
― 役立ちアプリの入ったiPad の貸し出しを始めました ―

■ 新職員紹介

■ おめでとう(資格取得、就職)

 聴覚障害のある方に演説などを文字で伝える「要約筆記」の活動に対して、政党が報酬を支払えるよう、公職選挙法の改正案が今国会で成立の見通しです。
 聴こえに困難のある方のコミュニケーション手段は「筆談・要約筆記」が約30%で、「手話・手話通訳」は約20%だとか(厚生労働省調査2006年)。 コミュニケーションの個別性を制度で保障していくべきは当然ですが、場面によっては、最近の技術革新も今後の情報支援の優れた担い手になりそうです。

無料で利用できる音声文字化アプリ
 この写真は無料で利用できる音声文字化アプリです。 このようにスマホやタブレットに向かってしゃべると、会議の発言も喫茶店の会話も、瞬時に自動で文字化されます。 いったん文字になったものは音声読みあげできるので、後で確認するときに、見えづらい方にも便利です。
 ここで押さえておきたい最大のポイントは、それらの素晴らしい技術を、実際に、障害のある方たちが日常の中で使えているのかどうか、ということ。 テクノロジーが存在することと、目の前の方がそれを使えるかどうかは別問題なのですね。
機器を持っていない方にとっては購入自体が大変なことでしょうし、そもそも自分に使えるものかどうかといった購入前の確認や、使い勝手にあわせて調整する購入後の個別設定こそ実は何より大切です。 こうした過程には手厚い支援がつくべきでしょう。

 先般「障害者権利条約 第一回日本政府報告」にパブリックコメントを提出いたしましたが、残念ながら「情報アクセシビリティ」関連の項に利用促進面の記述はほとんど見当たりませんでした。
研究・開発への助成はあっても、利活用への応援制度は不十分です。 機器購入に対する給付制度はとてもありがたいものですが、購入前後の段階についてもニーズ調査のうえ十分な支援策と財政措置の検討がほしいところです。

 たった一つの支援機器が、障害のある方の教育や労働を大きく変えます。 「技術があっても使えない国」にならぬよう、その実効性を皆で考えていきたいものです。

(堀込)

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中川 美貴子さん
社会福祉法人東京コロニー 東京都葛飾福祉工場 所属
(筋ジストロフィー1種1級:車椅子利用)

仕事開始時期
2013年1月(A型雇用の開始)
労働形態
在宅勤務
就業時間
基本は13:30〜17:30
仕事内容
WEBデザイン、イラスト等
打ち合わせ
週1回程度
中川美貴子さん

 今回は、わたくしども東京コロニーの在宅ワーカー(A型雇用:注1)中川美貴子さんのご紹介です。 現在の働き方に至るまでは、長くフリーランスでご活躍でした。 その頃の初々しいインタビューのURLは記事の末に。
Q. 現在のお仕事内容と、その流れをお教えください。

東京都葛飾福祉工場のホームページ
 中心業務はWEBデザインやイラスト制作です。 フリーランス時代と違い、在宅チームの一員として、商品カタログ、カレンダーなどの販促グッズ、会社の名刺、封筒などのデザインを企画段階から関わっています。
 担当サイトの一つは、所属している「東京コロニー東京都葛飾福祉工場」のページです。 扱っている防災用品や、縫製・封筒制作などの営業品目をわかりやすく掲載しています。 また最近では、 事業所の公式キャラクターのLINEスタンプ を企画作成し、販売しています。

 作業の流れですが、例えばLINEスタンプの場合は、まずこちらから起案書を出し、チームでどういうものが良いか情報を収集した上で話し合いで中身を詰めます。 私を含めたデザイン担当が作成後動作確認し、完成後、上司の承認を得て、LINEサイトに登録といった形です。

Q. 14年前、一人で上京された中川さん。 当時はフリーランスですから仕事の保証もなく車椅子での一人暮らしも初めて。 当時としてはかなりスゴイ選択でしたね。

 そうですね(笑)。 ただ、14年前と比べても、フリーランスで働くことを後押しする仕組みや制度は、そう変わっていないように思います。 もっとも現在は、パソコンでなくともタブレットやスマホでコンテンツの参照や制作が可能になっていますから、道具は身近になり多様化していると言えますね。

Q. 中川さん自身の14年の変化はどんなものでしたか。

 仕事の内容自体はあまり変わっていませんが、技術はどんどん変化するので、ついていくのが大変です。 仕事面で当時と変わったのは、責任の感じ方でしょうか。 フリーランスの時は失敗しても基本的には「自分のことだけ」でよかったですが、今は「組織」のことをまず考えますね。 逆に、出来た成果物は個人ではなくチームの成果になるという部分も経験のないことでした。
 生活面では規則正しくなりました。 フリーランス時代はお正月も仕事をしていたことがありましたよ。 今は休む時は休む、メリハリがついてこの点はよかった。

Q. A型の雇用になられて、心理的な違いなどは?

 収入面の安定は「安心」につながっています。 金額の面ではなく、毎月固定で入るということが大きいですね。 また、組織でやると個人より大きなプロジェクトができるので、仕事の幅という意味では面白いです。

Q. 逆にA型雇用になってのご苦労点はありますか?

 ヘルパー利用が制限されることです。 経済活動には公的ヘルパーがつけられないので、就業時間は介助を受けることができません。 これはフリーランスでも企業雇用でも同じです。
 加えて、A型は福祉サービス利用でもあるので、就労時間を延ばすと重度訪問介護の時間が減ります。 土日の重度訪問介護は平日にあわせるので、現在、自己負担の時間もあります。

Q. 根本課題の解決無しには、在宅就労は広がりませんね。 最後に、今後の抱負と後に続く人への一言をどうぞ。

 仕事面では、紙媒体の広告やパッケージのデザインもやりたいです。 今所属している東京都葛飾福祉工場でもチャンスはあるかなと期待しています。 プライベートでは、地域の 駒沢給水塔風景資産保存会 に属してまして。 こうした活動にももっと参加したいです。
後に続く人への一言。やると決めたら「勢い」が大事です。 「勢い」だけでよいでしょう。何とかなります。わたくし何とかなりましたから。 何とかならない時は、なんとかするんです。(笑)

インタビューを終えて:

フリーランスからA型雇用へと在宅就労の形は変化しても、安定した技術と誠実な仕事ぶりは14年間変わることはありません。
「今より体力が低下しても続けられる働き方を常に探しています」と話される中川さんですが、参考となる事例やお手本がなかなか無いのは中川さん自身がトップランナーだからでしょう。
植木等さんを彷彿させる最後の名回答は中川さんの真骨頂。 マイペースで走り続けることができる原動力に違いありません。

(堀込)

※注1)2012年4月より、就労継続支援事業(A型、B型)において完全な在宅利用が認められています。

※注2)2002年11月時のインタビューのURL: http://www.tocolo.or.jp/syokunou/triangle/vol27.html

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 「IT技術者在宅養成講座」では、例年、卒業制作として最後にグループワークを行います。 講習生が全員で作業を分担し一つの作品を完成する事を目指すもので、今年のお題は「資料集サイトの作成」です。

従来の職能開発室サイトのイメージ
 職能開発室のサイトでは、私どもが過去発信した公へのパブリックコメントや、各種研究会の資料などを公開しているのですが、現在のページ構成は、資料そのもの(主にPDF)へのリンクを「新着情報」に設けているだけなので、開ける前に資料の詳細情報を確認しづらく、また後からの参照もしにくい状況です。
 そこで、このグループワークでは、これらの資料参照の機能をメニュー化し、更に、各資料の概要を示した資料紹介ページも制作することとしました。 これによりWEB作成の技術とともに、資料の概要をまとめるといった文章力も問われます。

 当カリキュラムの目的は主に下の3点です。

  1. 2年間の講習で学んだ技術をしっかりと使える事。
  2. ビジネスマナーを考慮した顧客役とのやり取りの中で、依頼された内容を抜けなく作成する事。
  3. 複数のメンバーで話し合いながら一つの作品を完成させる事。

 5人の講習生は「一人のほうが早いのに」という気持ちを抑えて、相手のことに気を使い、“仲良く”取り組まなくてはなりません。 リハビリなど個々人で予定が違うためレスポンスが遅くイライラしたり、お互いの進め方や完成図に認識のズレがあったり、それに気がつくのが遅れたり。
 そんな難しさもあって、スケジュールは例年遅れ気味で、修了式の朝にできあがった年もありました。 やり遂げた後は、達成感よりも間に合ったことへの安堵の気持ちが、毎年皆さんの顔に表れている気がします。 最後に、「いろいろあったけど頑張ったよな」と実感できる、そんな充実した作品となることを講師一同楽しみにしています。

(森川)

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 タブレット端末は、ここ数年で、障害をお持ちの方に向けたアプリやアクセシビリティの開発が急速に進み、福祉の専用機と並ぶくらいに利用される方が増えておりますね。
 当センターのホームページでご紹介している 障害のある人に便利なアプリ一覧iPhone・iPad用Android用 ) は、全国各地からお問い合わせやご相談が止まない程、注目をいただいております(具体的なご相談の対応は都民の方のみとしております!)。

 そんな中、かねてからのご要望に応え、まずは都内の区市町村様を対象に、役立ちアプリの入ったiPad 1台の貸し出しを始めました。 既に数件のご利用がありますが、職場でアプリの勉強会を開いたり、イベントで来場者にアプリをご紹介したりと、様々にお役立ていただいております。

 4年後のオリンピック・パラリンピックに向け、センターには企業のアプリ開発チーム様のご見学が急増中。 ますます需要が増えそうなタブレット端末。その使い勝手を多くの方にお試しいただく機会を、と願っております。

 貸し出しの詳細は、センターまでお気軽にお問い合わせください。ご利用お待ちしております。

(今津)


ITCイメージ
●お問い合わせ先
東京都障害者IT地域支援センター
〒112-0006 文京区小日向4-1-6
電話 03-6682-6308  FAX 03-6686-1277
Facebookページ
https://www.facebook.com/tokyoitcenter

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新職員 吉田法顕

 新年度よりIT技術者在宅養成講座を担当いたします吉田です。
 本講座の基本は、受講生の皆さんが自分で思い描く『2年後にありたい姿』の実現に向けて、『自己管理の下で自主的に学習を進める』というものです。
 これには、障害の有無にかかわらず、ストイックな姿勢が求められるでしょう。 ただしそのストイックさが苦行とならないよう、ITによる遠隔のやりとりだけでなく、定期的なご訪問という非ITの活動を通じ、孤独感やマンネリ感を払拭するペースメーカーとして、微力ながら応援させていただく所存です。 どうぞよろしくお願いいたします。

経歴
IT企業にて22年間、自社製パッケージソフトウェア(主にリアルタイムコミュニケーション製品)関連業務に従事。 その後偶然に職能開発室の活動を知り志望する。 本年2月より教育担当として入職。

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資格取得おめでとう

  

Excel 2013 MOSスペシャリスト 合格

 

 K.R さん  障害者手帳1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

K.Rさん
  

 O.S さん  障害者手帳1種1級
 (IT技術者在宅養成講座 受講中)

O.Sさん
  
編 集 後 記

『濃密』、これが入職満3週間の心境。 新しい文化・体験・多くの学ぶべきこと…濃い時間を送っています。 さらに同僚が濃い。 ♪濃いかな(yes!) 濃いじゃない(yes!) 風が吹くたび気分も揺れる そんな…私にご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。
※平成生まれの方々には意味不明な文章かもしれません、すみません。

(吉田)

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