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■重度身体障害者の在宅就労を考える
トライアングル
機関紙『トライアングル』は三菱商事株式会社様のご協力により発行しております。

Vol.52 
CONTENTS 2011.3(平成23年)

■ITパスポート試験 CBT化に向けて

■障害のある方の在宅雇用事例

■シリーズ SOHOグループ「es-team」
 〜「情報保護」への取り組み〜

■シリーズ第14回 障害者IT地域支援センター便り
 「iPhoneコーナー」始めました!

■おめでとう

 経済産業省の情報処理技術者試験の一つである「ITパスポート試験」が2011年11月よりCBT(Computer Based Testing)方式に変わることになりました。これは国家試験としては初めての試みのようです。

 CBT方式ではこれまでのペーパー方式の試験と異なり、パソコンの画面に表示される問題を読み、マウスで回答を選択、合否は終了後すぐに画面に表示されます。また、これまでITパスポート試験は年に2回実施されていましたが、CBT方式になると、いつでも自分の希望する日・時間に、希望する会場で受験ができるようになり、受験者の利便性は大きく向上します

 障害のある方にとっては、これまで上肢の障害などにより筆記での回答やページめくりに時間を要していた場合でも、マウス一つで回答したり問題の移動ができることで、格段に受験しやすくなることが期待されます。また、自分の読みやすい大きさに文字を拡大したり、背景色や文字色を自由に変えられることも、パソコンならではのメリットでしょう。

 現在のところは、自分に合ったマウス等の持ち込みやソフトウェアキーボードの使用など、さまざまな状況に配慮した対策については未定のようで、標準のCBT方式での回答が難しい方に向けては、基本的にはこれまで通りの年2回のペーパー試験が実施されるそうです。CBT方式導入の目的の「多くの人が受験しやすくなることで国家としてのITレベルを高める」という文言の通りに、多くの障害のある方がCBT方式のメリットを享受できるよう、主催団体には継続して要望を出していく予定です。

(岩田)

●ITパスポート試験 紹介サイト
ITパスポート試験 紹介サイト

●主な資格試験の特別措置の情報(東京都障害者IT地域支援センター)

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READ
READプロジェクトのサイト

N・Tさん (男性 40代)
(疾病による頸椎損傷 1種1級)
(職業紹介事業 2009年登録)

東京大学 READプロジェクト所属
仕事開始時期
2010年8月
労働形態
雇用(嘱託)
就業時間
週30時間
仕事内容
READサイト関連業務
就労場所
自宅

 今回は、前号の誌面でお約束しておりましたように、東京大学大学院経済学研究科のREADプロジェクトで新たに始まった在宅雇用についてご紹介いたします。インタビューを受けて下さったのは、在宅メンバーの中でも兄貴分のN・Tさん。半年経過したところでの在宅勤務っぷりをじっくりとうかがって来ました。

Q:就職なさって半年経ちましたね。お仕事の内容や勤務について簡単に教えてください。

 仕事内容は研究プロジェクトのサイト更新や管理が中心です(右上図のWEB)。その他にもサイトのフォームから来る外部メールのチェックなどもします、ネットできることは何でもしますよ。

 就労場所は自宅。時間は曜日によって違います、リハビリなどもあるので、勤務時間の組み方に配慮をいただいています。

Q:仕事の体制や打ち合わせはどのようにしておられますか。

 READプロジェクトの面々からはほとんどメールで連絡・指示があります。スカイプもあるのですが、余り使いませんね、ほぼメールです。プロジェクトのメンバーは皆忙しいので、ベッタリ感がなく、レスポンスが速い。そういう意味では僕にはちょうどよい距離感かもしれません。

 同じ仕事をしているもう一名の在宅メンバーには普段はわたしからディレクションをします。少しだけわたしのほうがWEBの仕事の経験が長いので、相談などはわかる範囲で応えるようにしています。

 打ち合わせは月に1度。在宅メンバーが顔を合わせられますし、その日はできるだけプロジェクトのメンバーも顔を出してくれます。やっぱり顔をあわせることは、その後のやりとりをぐっと良くします

Q:相談できる自分以外の在宅メンバーがいて、OJTを在宅同士でできるのはいいですね。さて、READとは、「Research on Economy and Disability」の略で「総合社会科学としての社会・経済における障害の研究」という意だと聞いております。興味深い研究をWEBでも発表しておられますが、Nさん自身が障害をおもちということで、何か仕事と絡む思いはおありですか。差し支えない範囲で、ご自身の障害についても教えていただけるとありがたいです。

  頸椎損傷って普通は事故などによるものが多いのですが、わたしの場合は原因不明の病気によるもので、18年前ある日突然首の痛みを発したことから始まりました。「痛い」と思っているうちに2,3時間後には救急車で病院へ。そこから車椅子になり、今日までさほどの変化はありません。自分は自分の障害しかわかりませんので、READに関わることで、本当に多様な障害があり多様な大変さがあることを初めて知りました。そのことは自分の生活にもとてもプラスになっているし、もっと自分もこの立場で発信できることがないかな、と常に考えています

Q:Nさんは、就職のための事前研修の時からHTMLは高い技術をお持ちでしたが、それはどうやって培われたのでしょうか。

 もともと大学院で建築をやっており、その後も大学に残ってその分野で働いておりました。当時は、手書きですよ、全くの。それが病気になって92年に入院、現場に戻ってきた時にはパソコンが入っていました。そこから2年間はパソコンに慣れるように色々と自分でやってみました。イラストとかイメージとか描けるようになったのもこの頃。考えてみれば、これが今の基礎になっていると思います。

 その後、「ネットも使いこなすとなかなかいいぞ」ということになるわけですが、実際インターネットにはメディアとしても大変な魅力を感じました。HTMLは独学です。本とネットで。このメディアで何でも調べられますから、本当に便利です。その後フリーランスで仕事をするようになりましたが、この頃の体験は何より大事だったと思っています

Q:フリーランスのお話が出ましたが、今の就職された身分とでは何が違いますでしょうか。

 まあ収入が決まっているというのは安定してよいですね(笑)。あと時間が決まっているというのもやりやすいかもしれません。しかし、テーマを決めて自分で勉強などをやっていくということについては、何でも違いはないと思います。

Q:さて、誌面も迫ってきましたので、あとへ続く方へのアドバイスと、Nさん自身の今後の展望をお聞かせください!

 在宅就労を目指す人には、自分自身が「無理をしない」ということと同様に、周囲にも「無理をさせない」ということを大事にしてほしい。自分が自宅で働くことで、家族とか身近な人に知らず知らず負担をかけてしまう場合もあります。もちろんこれは、今後の社会の支援制度の整備にかかってくる部分が大きく、この点の充実無しには障害者の在宅就労の発展もないと思います。

 最後に私自身のことを。READは基本的に永遠に続くものではありません、プロジェクトですから。それは障害があってもなくても皆同じ立場です。ですから、次の仕事のためにも、「わたしはこういう知識がありますよ」っていうことを学内外に発信していきたい。また先ほども述べましたが、READの研究にも自身の経験などが活かせればという思いもあります。

 在宅就労は、基本的に「労働環境はあなた任せ」という向きがあります。しかし、それでは在宅ワークの質は向上しないでしょう。わたしは建築を一応学んでおりますから、「こうすれば働きやすい環境整備ができますよ」というノウハウを必要な方に提供できれば、と思っています。在宅ワークコンサルタントのような役目も今後はありなのかな。

インタビューを終えて:

 建築デザインなどをご専門にやって来られたので、NさんのWEBは緻密でクール。研修の時からかっこいいデザイン案を何パターンもサラサラ〜と出して下さっていました。日々実践しておられる在宅ワークのノウハウを、その緻密さとクールさで集約していただき、自宅での物理的な労働環境のアドバイスを含め、ぜひビギナーに指南していただきたい。「在宅ワークコンサルタント」、マジでありではないでしょうか!

(堀込)

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 請負型で働く多くの在宅ワーカーが使用するパソコンや通信環境は、本人の所有・管理下にあるのが通常であり、es-teamの場合も例外ではありません。当然、お客さまから仕事を通じてお預かりする、個人情報をはじめとするさまざまな情報の類も、ワーカー個人の責任において管理すべき範囲が存在します。しかし、「在宅就労グループ『es-team』」が、ひとりひとりの持っている能力を紡いで、グループとして仕事を遂行していくには、この役割を、ひとつの組織の責務として捉えたうえで対策を講じる必要があります。

 es-teamには、この取組の具体例として、各ワーカーと締結する機密保持に関する基本契約や、案件ごとに特化した機密事項の認識と共有などがあります。そのほかにも、個人情報保護方針の策定、そして独自に作成した、グループワークにおける「セキュリティチェックシート」の活用等を行なっており、このテーマについての「振り返り」が随時行なえるような工夫をしています

 また、東京コロニーは昨年7月、障害者の就労支援施設を運営する社会福祉法人としては国内初となる「プライバシーマーク制度」の認定団体となりました。このことも、こうした情報保護の取組を後押しするかたちになっています。現在、東京コロニーでは、就労支援施設からグループホーム、介護事業所など、業態の異なるすべての事業所が、ひとつの指針に沿って個人情報の保護に努め、遵守しています。es-teamの個人情報保護方針も、これに準じる形で掲げられています。

 しかし、昨今の個人情報漏えい事故の多くが、いわゆる「ヒューマンエラー」に起因するケースであることから、最も重要なことはひとりひとりのコンプライアンスの意識にあることはいうまでもありません。その意識を常に高いところにもち続けていくためにも、こうしたツール類を活用し、必要に応じて改善をかさねつつ、それらが何のためにあるのか、なぜ情報セキュリティが必要なのか、es-teamはその原則を常に肝に銘じながらひとつひとつの仕事に向き合いたいと考えています。

(吉田)

参考: トライアングルVol.50 「プライバシーマーク、取得しました」(2010年6月)

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 ソフトパンク様のご協力により、地域支援センターに「iPhone」の登場です。

 アップル社のスマートフォン「iPhone」は(日本ではソフトバンクモバイルから発売)、電話の機能はもちろんのこと、メールや音楽を聴く、もしくはインターネットをするといったことが一台ですべてできる多機能型の携帯電話です。何より安価なソフトが魅力!

 地域支援センターでは、数あるアプリの中から、コミニュケーションをサポートするものを中心に展示を開始しております。

(堀込)

【アプリの例】(iTunesでiPhoneのアプリをダウンロードします)

ドロップトーク  

(1)ドロップトーク

話し言葉でのコミュニケーションを苦手とする方や、言語障害を持つ方のコミュニケーションを助ける

AAC(補助代替コミュニケーション)ソフトウェア。絵を選んで会話ができますよ。

価格:1,500円

     
ドラゴンディクテーション  

(2)ドラゴンディクテーション

音声をテキストに変換してくれる音声認識ソフトウェア。 メールやTwitterへ声でテキストを挿入したりも便利!

価格:無料

 

●お問い合わせ先
東京都障害者IT地域支援センター
〒162-0052 新宿区戸山3-17-3 (最寄駅:副都心線 西早稲田駅)
電話 03-3208-0471  FAX 03-3208-0472
お問い合わせフォーム
http://www.tokyo-itcenter.com

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◆ヴァイタル・インフォメーション株式会社にて在宅勤務決定
 O.S さん 肢体不自由 1種3級
 (職業紹介事業2008年登録)
 (SOHOグループes-team所属)

OSさん
   
◆株式会社エスシーシーにて在宅勤務決定
 S.T さん 心臓疾患 3級
 (職業紹介事業2009年登録)
 (2010年度 IT講座「Web制作基礎・応用」修了)
STさん
   


編 集 後 記

年3回発行のトライアングルも、今号で52号を数えました。ざっと17年の歴史です。第1号記事「発刊にあたって」では、労働法規上の「在宅勤務者」の位置づけが整備されたことなどをきっかけにして、在宅就労のさらなる広がりをめざした黎明期の想いを読み取ることができます。迷ったときはこの原点に立ち返れるよう、心に留め置いています。

(吉田)

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